元魔王様と観光デート 5

 連日リュシエルを限界まで訓練した事でかなり成長させる事が出来た。

これからも鍛錬を積んでいけば高ランク冒険者とも渡り合える実力を手に入れられるだろう。

そして明日はセダンに帰る日となった。


「ついにジル殿達が帰るのも明日に迫ったか。」


「屋敷で共に生活していたから寂しくなりますね。」


「お父様、お母様、何故そこで私を見るのですか?」


 公爵達がそう呟きながらリュシエルを見ると、本人がジト目を返す。


「「リュシエルが寂しがっていると思ってな(ね)。」」


 親子なのだから最近の態度を見ているとよく分かる。

こんなに寂しがっている娘を見るのは久しぶりだ。


「まあ、そう寂しがるな。」


 ジルがリュシエルの肩に手を置きながら慰めてやる。


「まだ何も言っていないではないですか!」


 リュシエルが少し顔を赤くしながらジルの手を振り解く。

本人を目の前にそう言った事を言われるのは恥ずかしい。


「最近明らかに元気が無かったのです。分かりやすいのです。」


「わしがそろそろ帰るかとジルに言い出した日から見る見る元気が無くなっていったからな。」


「昔からお世話をしていますがこんなに寂しそうなお嬢様を見るのは初めてです。」


「貴方達も煩いですよ!静かにしていなさい!」


 シキ、ダナン、アンレローゼの追撃に更に顔を赤くしながらリュシエルが指を差して言い放つ。

全員にばれているくらい分かりやすかった様だ。


「もう!そうですよ!寂しいですよ!文句ありますか!」


 開き直ったリュシエルがそう言いながら皆を睨む。

頬を膨らませていて可愛らしい怒り姿だ。


「怒ったのです。」


「あまり揶揄い過ぎるのも良くないな。」


「悪かったリュシエル、許してくれ。」


「つい面白がってしまったわ。」


 皆がリュシエルに謝罪する。

それでも今ので少しは寂しさを紛らわせただろう。


「このままでは許しません。ジルが今日一日付き合ってくれたら皆を許してあげます。」


「我が?」


 リュシエルに指名されたジルが首を傾げる。


「街案内に付き合うと言う約束をしていたのを忘れましたか?」


「覚えているぞ。だが訓練ばかりでお嬢にそんな暇は無さそうだったからな。」


 前にシャルルメルトの街を案内してもらう約束をしていた。

最近は怒涛の訓練続きで、またの機会になるかと思っていた。


「今日は訓練は無しで一日私が案内します。と言うか訓練は無しにして下さい。もう身体が限界なんです。」


「確かに最近少し厳しくし過ぎたか。」


 もう直ぐ帰ると言う事で訓練の内容を強化し過ぎた様だ。

必死に食らい付いてきたリュシエルも限界である。


「私からお願いした事ですが、こんなに厳しいとは思いませんでした。」


「まだまだこんなものでは無いぞ。お嬢よりも小さいルルネットは更に厳しい訓練に励んでいたからな。」


 あの歳で魔装や詠唱破棄を使いこなし、今のリュシエルよりもずっと強い。

ジルや姉を目標に今も日々の訓練を怠ってはいないだろう。


「私も負けてはいられませんね。ジルが帰ってからもしっかり訓練して強さに磨きを掛けていくつもりです。ですが今日はお休みです。セダンの街にジル達が帰ってしまう前の最後の日なのですから。」


 今日を逃せば本当に次の機会となってしまう。

リュシエルとしては自分が住むシャルルメルトを帰る前に見て感じてほしい。


「ちなみにどこを案内してくれるんだ?」


「それはお楽しみです。行きたい場所は考えてありますから私に任せて下さい。」


 リュシエルが自信満々にそう言ってくる。

引きこもりだったお嬢様に本当に案内が出来るのかは分からないが、これだけやる気なので任せる事にする。


「そうか、ならば今日は観光を楽しませてもらうとしよう。」


「はい、そうして下さい。ではジル、着替えていきますから先に外で待っていてもらえますか?」


「ああ。」


 ジルが部屋から出ていったのを確認してリュシエルが皆を見回す。


「さて皆さん、今日はジルを独占させていただきますが、絶対に邪魔はしないで下さいね。」


 この日の為に既に個別に何度も伝えているが改めてそう口にする。


「はいはい、何度も聞いたから分かっているわよ。初めてのデートですものね。」


「リュシエルお嬢様は寝る間も惜しんでジル様とのお出掛けの計画を考えていましたからね。」


「二人共、恥ずかしいので口に出さないで下さい。」


 トアシエルとアンレローゼがニコニコと笑いながら言う。

ジルがいないとは言っても口に出されると恥ずかしい。


「キスまでしてきてしまったらどうしましょうか?」


「その時はジル様にも覚悟を決めてもらうしかないでしょう。」


「きききキスなんてしません!…まだ早過ぎます。」


 二人の会話にリュシエルの声が思わず大きくなる。

そして後半は誰にも聞こえないくらい小さな声で呟き、自分で呟いておきながら顔を赤くする。


「まさかリュシエルが平民の男に好意を寄せるとはな。公爵家としては問題はあるが、相手がジル殿であれば当然か。」


 公爵は悩ましそうな表情をしながらも自分の中で色々と考えている。

身分の差はあってもこれ程の男は滅多にいない。

ジルは確実に優良物件だ。


「シキ達は別の事をして暇を潰しているからジル様と楽しんでくるといいのです。」


「邪魔はしないから安心するといい。美咲と天ちゃんにもわしらから言っておく。」


「はい、感謝します。それでは行ってきますね。」


 リュシエルはジルと一緒に今日を楽しもうと元気に扉を開けて出ていった。

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