元魔王様と観光デート 4
それからもリュシエルと騎士達との戦闘が続き、数時間が経過した頃についに十人抜きを達成した。
「やりました!」
ジルからの課題を達成してリュシエルがガッツポーズを取る。
「お嬢、よく頑張ったな。」
「さすがです、リュシエルお嬢様。」
「二人共ありがとうございます。そしてジル、約束は覚えていますか?」
この騎士の十人抜きを言い渡した時にリュシエルに言われていた事があった。
「ああ、十人抜きしたら模擬戦で少し本気を出してほしいと言うやつだろう?」
「そうです。明らかに手を抜かれているのが分かっていて不満でしたから。それでも全然勝てませんし。」
最近はジルと模擬戦を行う事が多い。
その全てで手加減されながら負けさせられていた。
なので負けると分かっていても一度でいいから普通のジルと戦ってみたかったのだ。
「そもそも我と比べるのは間違っていると思うぞ。」
「最強であるジルだからこそ、少しでもその実力に追い付きたいのではありませんか。私を狙ってくる人達もジル以上に強い方なんていませんし。」
元Sランクの冒険者を圧倒する様な実力を持つジルに勝てる人族なんて想像も付かない。
つまりジルと良い勝負が出来る様になれれば、自分に敵はいないと言う事になる。
少しでも強くなって近付ける様に目標は高くしたい。
「だからってあまり無茶はするなよ?我が帰る日が迫っているとは言っても短期間での成長には限界がある。今でも随分と成長したのだからな。」
ここまで成長するとはジルも思っていなかった。
リュシエルは既に予想以上の強さを身に付けてくれている。
「私がこれ程戦いに向いているとは思いませんでしたからね。ジルとの出会いで大きく変われた事に感謝しかありません。」
逃げ隠れるのでは無く立ち向かう強さを手に入れた。
犯罪者に怯えずに過ごせる力は日々磨かれていっている。
「お嬢が頑張った成果だろう。だがこの程度で満足するなよ?我の教え子なら次に会うまでに更なる成長を期待しているからな。」
自分が見ていなくてもしっかりと訓練に励んでくれる事を期待しておく。
「また会ってくれるのですか?」
「その時はまた我を雇えばいい。」
「ふふっ、そうですね。今度は私がジルに依頼を出すのもいいかもしれません。」
今回は公爵からの依頼だったが、リュシエルも訓練を続ける内にジルが信用出来る人物だと分かった。
何か冒険者が必要となれば一番信用出来るジルに依頼する事もあるだろう。
「言っておくが我は高いぞ?」
「でしたら強くなりながらお金も貯めなくてはいけませんね。」
リュシエルは楽しそうに笑っている。
ジル達との別れは寂しいが、また会えると思えば少し元気が出る。
「ならばダンジョンがお勧めだぞ。と言っても一人で潜る事は推奨しないけどな。」
「私がダンジョンに行きたいと言って気軽に許可が出たのはジルがいたからですよ。普通なら護衛として騎士が何人も付けられます。」
リュシエルはシャルルメルト公爵家の一人娘だ。
危険なダンジョンに公爵家の跡取りを一人で向かわせる事は出来無いだろう。
「そう言えばトレンフルでも我がいたからと許可が降りていたな。」
ルルネットとダンジョンに潜った時もそんな話しになった。
本来ならルルネットも護衛の騎士を大量に付けられる立場だ。
「その規格外の力を持つジルが一緒にいなければ、危険なダンジョンに貴族の子供を行かせたいと親は思いませんよ。」
「ダンジョンでエトと会った時も重役の者達と共に潜っていたしな。王侯貴族にとってはそれが普通か。」
未来の王様候補であるエトワールならば尚の事だろう。
前回はジル達がいなければ危なかったので、次に同じ様な事があれば更に多くの護衛が付けられそうだ。
「エト?重役?王侯貴族?まさかとは思いますがエトワール殿下の事を言っています?」
「ああ、そうだぞ。」
「エトワール殿下と会った事があるんですか!?ししし失礼な事はしてませんよね?」
ジルがジャミール王国の王子であるエトワールと知り合いだと聞いてリュシエルが取り乱している。
普段の態度で王族と接していたのであればかなり問題があると思ったのだろう。
「心配される様な事はしていない。むしろ感謝されているくらいなのだぞ?」
「エトワール殿下がジルに感謝ですか?詳しくは知りませんが失礼が無いのであれば良かったです。」
「お前は我の親か。」
大きく胸を撫で下ろしているリュシエルに向かって言う。
心配せずともエトワールとは良好な関係を築けている。
「さて、休憩は終わりです。ジル、早速模擬戦に付き合ってもらってもいいですか?」
「構わないぞ。」
騎士達との戦闘の疲れも癒えたのでジルとの模擬戦に移る。
自分達よりも遥かに強いジルが手加減せずに戦うと言う事で先程の騎士達も遠巻きに試合を観戦している。
「お嬢、普段よりは気合いを入れていく。怪我をしない様にな。」
そう言って銀月を抜く。
模擬戦では武器を使わない時もあるので、今回は最初から使って相手をするつもりだ。
「アンレローゼは光魔法を使えますし、ポーションの蓄えもありますから気にしないで下さい。」
「はい、審判をしつつ待機していますね。」
多少の怪我は気にしないと言った感じだ。
リュシエルからジルとの模擬戦を楽しみにしている雰囲気が伝わってくる。
そこまで言うならば期待に応えようとジルも思った。
「それでは始めるか。どこからでも掛かってこい。」
「はい、いきますよ!」
リュシエルが剣を構えてジルへと向かっていく。
そこから激しい模擬戦が数時間もの間繰り広げられた。
滞在日数も少なくなっているので、リュシエルの足腰が効かなくなって立てなくなるまで思う存分相手をしてやった。
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