元魔王様とリュシエルのダンジョン探索 5
ジルが空間把握によって発見した宝箱の方に向かって歩いていくと、その近くを大きな魔物が徘徊していた。
「宝箱はどの辺りですか?」
「丁度あの木の根本くらいだな。」
「それではあの魔物は倒さないといけませんね。」
巨大なゴリラが木の近くにいる。
近付けば気付かれて襲われるだろう。
「マッスルゴリラ、Bランクの魔物だ。宝箱のガーディアンと言ったところか。」
「Bランクですか。相手にとって不足無しです。」
「意気込んでいるところ悪いが今のお嬢には少し厳しいな。」
倒せないとは言わないが無傷での勝利は厳しいだろう。
最悪大怪我の可能性もある。
「戦ってはいけませんか?」
「我の援護ありならば構わないぞ。」
「それでお願いします。」
格上との戦いは良い訓練になる。
ジルの援護を受けてでも経験しておきたい。
「その宝箱を貰い受けます!」
マッスルゴリラに向かってリュシエルが突っ込んでいく。
最初から腕を魔装して全力の一撃を叩き込む。
「ウホー!」
「くっ!」
マッスルゴリラが盛り上がった筋肉で鋭い拳を突き出してくる。
リュシエルの一撃を相殺しつつ後ろに弾き飛ばす。
「中級闇魔法、ファティーグ!」
ジルがマッスルゴリラに疲労を加速させる闇魔法を使用する。
これで普段通り戦っていても急激に疲れる様になる筈だ。
「なるべく時間を稼ぎつつ立ち回るんだ。」
「分かりました!」
相手の間合いに踏み込まない様に気を付けつつ、隙を見つけて上手く攻撃を当てていく。
ヒットアンドアウェイを繰り返す事数分、早くもジルの魔法の効果が現れた。
「ウホー。」
マッスルゴリラの息は荒くなり、動きが明らかに遅くなってきた。
「やはりジルの魔法は凄いですね。」
「ウホー!」
「攻撃が雑になっていますよ!はあっ!」
突き出された拳を回避して、勝負を決めるべく相手の懐に潜り込む。
そのまま魔装した腕を振るってマッスルゴリラの腹を両断した。
「ふぅ。」
「ダンジョンに入った最初と比べても格段に動きが良くなっているな。やはり実戦は得られる経験が段違いだ。」
「ジルの魔法があったからこそですよ。私だけで戦えばこう簡単にはいきません。それよりもお楽しみの宝箱の時間です!」
リュシエルがマッスルゴリラからドロップした魔石には目もくれず宝箱へと走っていく。
初めての宝箱なのでどうしても気になるのだろう。
「剣が手に入ればいいな。」
「はい、それではいきます。」
リュシエルが期待の眼差しで宝箱を開くと中には豪華な装飾の笛が一本入っていた。
「残念ながらお目当ての剣では無かったな。」
「宝箱は何が出るか分かりませんからね。それよりもジル、これがどんな効果なのか教えて下さいますか?」
差し出された笛を受け取り無限倉庫から鑑定用の魔法道具を出して万能鑑定を使用する。
「祝福の笛と言う魔法道具だな。吹いた物に一時的な幸運を付与する効果があるらしい。」
その幸運と言うのがどれ程の効果かは分からないが、無いよりはあった方が良いだろう。
「当たりの様ですね。ジルは欲しいですか?」
「我は運に頼らずとも望む結末を手に出来る。お嬢が持っているといい。」
「随分と自信満々ですね。それも納得の実力ではありますけど。それでは有り難く貰っておきますね。」
リュシエルはジルから祝福の笛を受け取って口に付ける。
「早速吹くのか?」
「ここはダンジョンですからね。危険な罠の回避、魔物との遭遇率、ドロップアイテムや宝箱の中身と運が高くて困る事はありません。」
そう言ってリュシエルが祝福の笛を吹いた。
辺りに心地良い音が響き渡る。
「綺麗な音色ですね。」
「ん?」
ジルが何かに気付いて遠くを見る。
「どうかしましたか?」
「あっちに土煙が上がっていないか?」
「本当ですね。と言うかこちらに向かってきてませんか!?」
「ファングウルフの群れか。今の笛の音を聞き付けて向かってきたのだろう。」
大量のファングウルフがジル達目掛けて一直線に突き進んでくる。
相当な量が向かってきているので土煙や足音が凄まじい。
「本当に運が上がっているのですか!?」
祝福の笛を吹いた瞬間に魔物に襲われるなんて幸運が付与されたとは思えない。
「全ての事象が上手くいく訳では無いのだろうな。」
「そんな考察している場合ではありませんよ!かなりの大きな群れですよ!」
リュシエルが迎撃の為に剣を抜く。
一体一体はそこまで強くは無いが数が多いのは厄介だ。
「あれを倒せる魔法はあるか?」
「まだ私の魔法では厳しいです!剣で迎撃します。」
「一体一体は面倒だ。ここは我が魔法を使おう。」
そう言ってジルが一歩前に出る。
「それでしたら使用する魔法を選んでも宜しいですか?」
「何故だ?」
「今後の参考にしたいと思いまして。水魔法か土魔法だと有り難いです。」
その二つはリュシエルに適性のある魔法だ。
魔法はイメージが大事になる。
ジルの使う完璧な魔法を実際に見る事でイメージを確かな物へとしたいのだろう。
「ならば水魔法を見せてやろう。超級水魔法、ウォーターショット!」
ジルの指先から水玉が連続で射出されてファングウルフを次々に撃ち抜いていく。
機動力に優れたウルフ種ではあるが、高速で迫ってくる水玉は避けるのが難しく一方的に蹂躙されていく。
「ジルが使うとこんなにも素晴らしい威力を出せるのですね!」
「水だからと言ってあまく見てはいけないぞ。超級魔法が弱い筈も無いしな。」
「確かにそうですね。それにこの魔法とても気に入りました。」
次々とウルフを撃ち抜くジルを見てリュシエルは目を輝かせていた。
そしていつか自分もこの魔法を使いこなせる様になろうと心に決めた。
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