元魔王様とリュシエルのダンジョン探索 3
ボス部屋は暗く、ジル達が中に入って少しすると壁際の松明に明かりが灯って徐々に部屋を照らしていく。
そして奥に魔法陣が浮かべ上がり、そこからアーマードベアが姿を表す。
それと同時にリュシエルが突っ込んで斬り掛かる。
「ガアアア!」
「くっ、硬いですね。」
剣が硬い体毛に阻まれて苦戦している。
ジルの様に石ころで楽々撃破とはいかない。
「ストーンバレット!」
「ガアアア!」
リュシエルの放った石の礫をアーマードベアが腕を振るって薙ぎ払う。
「おっ、いつの間にか詠唱破棄出来る様になったか。初級魔法とは言っても成長だな。」
自分が訓練して育てた者の成長とは嬉しいものだ。
リュシエルも確実に日々強くなっている。
「そうは言ってもアーマードベアには全く効いていませんけどね!」
「硬い毛に阻まれている様だな。もう少し攻撃力のあるものに切り替えろ。」
「それならばこちらで!」
リュシエルが剣を持つ腕を魔装する。
魔装の訓練は日が浅いが部分的な魔装だけなら出来る様になっていた。
戦闘の才能は同じ弟子であるルルネットにも負けていない。
「魔装ならいけるか?」
「はっ!」
腕力を上げて剣をアーマードベアに思い切り振るう。
「ガアッ!?」
「やりました!」
体毛を突破して剣が身体に食い込む。
傷口から血が流れ出ている。
「油断するな、まだ倒せてはいないぞ。」
「分かっています!」
魔装した攻撃なら効果があると分かったので、相手の攻撃に気を付けながらタイミングを見計らって攻撃を続けていく。
「ガ…ア。」
既に何十回の攻撃を加えたか分からないところで、全身傷だらけのアーマードベアがついに倒れた。
「ふぅ、強かったですね。」
戦いを終えたリュシエルが額の汗を拭って呟く。
ジルの手助け無く一人でボスを討伐出来た。
「それは今だけだ。その内これくらい軽々と倒せる様になる。」
「そうなれる様に頑張ります。それでは進みましょう。」
アーマードベアのドロップアイテムを収納して次の階層への階段を降りる。
そこに広がっていたのはこれまでと同じ草原だった。
「また草原ですか。」
「だが魔物の種類は変わっているぞ。ランク的にはそれ程変わらないが。」
種類が違うだけで上の階層と殆ど魔物の強さが変わっていない。
初心者向けのダンジョンの可能性がある。
「これでは訓練になりませんね。アーマードベアの様な魔物とずっと戦えれば経験にもなるのですが。」
「ならばそうしてやろう。」
「えっ?」
ジルは拳大の黒鋼岩を無限倉庫から取り出す。
「少し離れていろ。」
「何をするつもりですか?」
言われた通りにジルから少し離れてリュシエルが首を傾げる。
「真下に行けば近道だろう?」
「まさかダンジョンに穴を?直ぐに修復されてしまうので無意味ですよ?」
「穴が小さければな。レールガン!」
ジルの両手が凄まじい電気を帯びて、包む様に持っていた黒鋼岩を射出する。
目を覆いたくなる様な眩しさと耳を塞ぎたくなる様な轟音が辺りに轟く。
「なっ!?」
ジルの真下には人が余裕で通れそうな大穴が空いていて、それを見たリュシエルが驚いている。
「これで階下に降りられる。」
「ど、どんな威力をしているんですか。」
ダンジョンの壁や床は破壊しても直ぐに塞がるので通り抜けられない事で有名だ。
しかしこれだけの大穴ならば修復にも時間が掛かる。
「雷霆魔法なんだからこんなものだろう?」
「いえ、これ程の威力は見た事がありません。しかしジルなのですから今更ですか。」
元Sランク冒険者を圧倒する様な実力者なので、これくらい出来てもおかしくはない。
「ほら行くぞ。」
「えっ?まさかこの大穴に飛び降り込むんですか?怖いのですけど。」
「その方が手っ取り早いからな。」
「ひゃあっ!?」
ジルが抱えてやるとリュシエルが恥ずかしそうな声を出す。
「準備はいいな?」
「え?あの、まだ心の準備が。」
「目を瞑っていればいい。」
ジルがそう言って大穴に飛び込む。
一つ下の階層は遠くに見えているが、大穴の底は真っ暗で見えない。
「きゃああああ!?」
大穴に強制的に飛び込む事になったリュシエルの悲鳴が辺りに響き渡る。
その悲鳴はジルが地面に着地するまで鳴り響いていた。
「と言う事であっという間に二十階層だな。」
「はぁはぁ、死ぬかと思いました。」
ジルの雷霆魔法で次のボス部屋まで階層を撃ち抜けた。
そんな十階層分の落下を体験してリュシエルは地面に四つん這いになって息を整えている。
「大袈裟だな。ただ穴の中に飛び降りただけだぞ?」
「その穴の底が見えないから怖いのではないですか!スキルが発動したらどうしてくれるんですか!」
リュシエルの魔誘のスキルは感情の激しい起伏によって発動するらしい。
それには当然恐怖と言う感情も含まれる。
「笑えない冗談は止めろ。それにスキルは発動しない様になっているのだろう?」
「一応魔法道具の首輪は付けていますからね。」
自分の首元にそっと触れる。
衣服で見えなくなっているが、そこにはスキルを封じる為の魔法道具の首輪が付けられている。
昔はこの首輪を酷く嫌っていたらしいが、今は自分の厄介なスキルを封じてくれているので感謝していると言う。
「なら安全ではないか。それに我が近くにいて恐怖を感じる必要は無い。それはフラムの時に証明しているだろう?」
「確かにジルは頼りになりますよ。それでも私は箱入り娘のお嬢様なんですから、もう少し丁重に扱ってくれると嬉しいのです。」
「やれやれ、お嬢様とは面倒なものだ。」
普段から主人の事を一番に気にして行動している貴族の家に仕えている執事やメイドを素直に尊敬するジルだった。
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