元魔王様とリュシエルのダンジョン探索 2

 今日は公爵から指名依頼を受けて新しく発見されたダンジョンの調査にリュシエルと共にやってきた。


「まさかジルからダンジョンに誘われるとは思いませんでした。」


「探さなくても魔物が幾らでもいるからな。戦闘訓練にはもってこいの場所だ。」


 魔物があまり生息していないシャルルメルトの領地からすると最も魔物と戦える場所と言える。


「シキやライムは連れて来なくてよかったのですか?」


「一応あの天使が何かやらかさないか見張らせている。ライムがいれば安心だ。」


 今ではジルを驚かせる成長を見せているライム。

あの強さなら大抵の敵はなんとかなるだろう。


「ジルは心配性ですね。」


「逆にお嬢は心配しな過ぎだ。相手は天使族だぞ?」


「一体何があったのです?」


「さて、さっそく入るか。」


「またはぐらかすんですね。話したくないのであれば聞きませんけど。」


 リュシエルに天使族と争った事は話していない。

それを話す事で万が一にも天ちゃんとの関係が悪化して危険が及ぶなんて事にはしたくなかった。


「草原ですか。」


「見やすくていいな。」


 ダンジョンに入ったジル達の視界いっぱいに広々とした草原が広がっている。

かなり広大な階層を持つダンジョンの様だ。


「一先ず階段を探しつつの戦闘で構いませんか?」


「ああ、序盤から苦戦する事も無いだろうし適当でいいぞ。」


 遠くに見える魔物達は今のリュシエルなら比較的楽に倒せるランクだ。


「ダンジョンでは何があるか分かりませんよ?」


 適当と言われても初めてのダンジョンに緊張している様子だ。

周囲の警戒をしっかりしている。


「こんな場所で苦戦している様では我の弟子として情けないぞ。ルルネットでも余裕で突破するだろう。」


「ルルネット?どこかで聞いた事がある様な。」


「トレンフルの貴族だ。前に領地を訪れる機会があってその時にな。」


 最初は姉を取られたと勘違いして噛み付いてきたが、最終的にはジルを師匠の様に慕っていた。

向上心のあるルルネットをジルも弟子の様に思っている。


「思い出しました、あの才女の事ですか。トレンフル侯爵家の末子にして将来有望と名高い双剣士でしたね。」


 領地が離れていても有能な者の名前は広まっている。

将来を期待されているルルネットもその一人だ。


「そのルルネットでもこれくらいで苦戦したりはしない。遥かに歳下のルルネットに遅れを取らない様に頑張るんだな。」


「ジルの弟子の基準は高いですね。ですが私も期待を裏切らない様に頑張るとしましょう。」


 階段を探しつつ魔物の相手をリュシエルがしながら進んでいく。

見晴らしがいい草原なので遠くに何かあれば直ぐに気付ける。


「ジル、階段が見えてきました。」


 遠くに二階層に降りる階段を発見する。

魔物に苦戦する様な事も無かったので探索から数十分くらいしか経っていない。


「一階層は大した事無かったな。」


「まだまだ余力はありますから進みましょう。」


 二人は順調にダンジョンを降っていく。

魔物も基本的にリュシエルが相手をしているがまだまだ余裕がありそうだ。


「はぁ。」


「どうした?疲れたか?」


 突然溜め息を吐いたリュシエルに尋ねる。

一見疲れている様には見えない。


「いえ、こう同じ様な景色ばかりだと飽きてきてしまって。」


「確かにずっと同じ様な草原地帯だからな。」


「それに魔物も殆ど変化していませんよね。」


 一階層から同じ景色同じ魔物ばかりで降っていると言う感じがしないのだろう。

そこら辺はダンジョンによって違うので、シャルルメルトで発見されたダンジョンはそう言う物と言う事だ。


「だが次の階層は期待してよさそうだぞ。」


「何故ですか?」


「魔法で見たのだがボス部屋だ。」


 一応リュシエルの安全に配慮して空間把握で定期的に周囲の情報を集めている。

そしてこの階層で使用した時に下がボス部屋である事に気付いた。


「次は十階層ですよね?十階層毎にボス部屋があるタイプのダンジョンでしょうか?」


「その可能性が高いだろうな。さて、どんな魔物が出てくるか。」


「その前に階段ですけどね。」


 魔物を倒しつつ階段を捜索する事数十分、ようやくボス部屋のある階層へと降りれる階段を発見した。


「やっと見つけましたね。」


「草原は見渡しは良いが広過ぎて中々見つからないのが辛いところだな。」


 ここまでくるのに随分と時間が掛かってしまった。

日帰りするとなれば低階層しか攻略出来無さそうな広さである。


「どんなボスがいるのでしょうか。確か扉に魔物に付いて書かれているのですよね?」


「ああ、だから入る前に見た方がいいぞ。」


 階段を降っていくとボス部屋のある十階層に辿り着く。

これまでに無かった大きな扉がジル達を出迎える。


「これがダンジョンのボス部屋ですか。中々迫力がありますね。」


 初めてのボスに少し緊張した様子のリュシエル。


「魔物は何だ?」


「アーマードベアですね。ゴブリンやコボルトに比べるとかなりの大物です。」


 アーマードベアと言えばジルが転生して最初に倒した魔物だ。

全力で投げた石で倒せるくらいの魔物ではあったが、それはジルだから出来た事だ。


 ここまでの階層でリュシエルが戦ってきた魔物と比べると遥かに格上の魔物である。

ボスと言うだけあって油断は出来無い。


「危なくなったら援護はするから一旦一人で戦ってみるといい。」


「分かりました、それではいきましょう。」


 初めてのボス部屋に少し緊張した様子でリュシエルが扉を開いて中に入っていった。

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