元魔王様と結晶石泥棒 3
スケルトンの大群を一瞬にして無力化出来たので周囲の安全は確保した。
「これで採掘に集中出来るな。」
周囲に灯りを設置して採掘の環境を整えていく。
後はダナンを護衛するだけのお仕事だ。
「上の様に掘り進めていくのですか?」
「わし一人で掘り進めて通路を作るのは難儀だ。軽く表面だけを採掘する程度だな。」
後続の者達もいずれは渓谷の下まで掘り進めてくる筈だ。
それを考えるとあまり採掘し過ぎるのもよくない。
「そんな位置に大結晶石があるのか?」
今回の目的は結晶石では無く大結晶石だ。
かなり珍しいらしいのでそう簡単に見つかるのか疑問だ。
「そうか、周りに既にあるのだがお前達は分からないか。」
ダナンは既に大結晶石の位置を把握しているらしい。
「大結晶石がですか?普通の岩肌にしか見えませんが。」
「私にもそう見えます。」
「おそらく採掘に長けたドワーフだから分かる事だろう。人族の我らには無い力だ。」
ダナンは鉱石に関するスキルも所持していると言っていたが、勘だけでもかなりの量を採掘していた。
種族柄何かしら感じるものがあるのだろう。
「そう言う事だから大結晶石の採掘はこの周囲で事足りる。警戒は任せたぞ。」
早速ダナンは採掘作業に取り掛かる。
大結晶石を早く手に入れたくて仕方無いのだろう。
「それは任せておけ、お嬢に。」
「わ、私ですか?」
「何の為に付いてきたんだ?魔物との実戦経験を積みたいのだろう?」
ダナンに迫る魔物を討伐する護衛が今回の役目だ。
誰かを守りながら戦うのはかなり訓練になる。
「そのつもりでしたがいきなりとは思いませんでした。」
「それに魔物はライム様が討伐してしまわれましたよ?」
「あれは周囲にいた者だけだ。あっちだな。」
ジルが渓谷の下に続いている道の片方を指差す。
「そちらがどうかしたのですか?」
「魔物が向かってきている。我らに気付いたのだろう。」
「何も見えませんが。ジルが言うならそうなのでしょうね。」
リュシエルやアンレローゼには見えていないがジルは既に敵を捕捉している。
お得意の空間把握を使用して周囲の魔物を調べたのだ。
「ちなみに相手はグールだな。戦闘能力は大した事無いが噛まれるとお仲間にされるから気を付けるんだぞ。」
リュシエルがグールになってしまえば公爵達に何を言われるか分からない。
事前に注意しつつ、危なくなったら介入する予定だ。
「何故魔物の詳細まで分かるんですか?」
「我が魔法に長けているのは教えただろう?時空間魔法で調べたのだ。」
「そんな魔法の適性まで持っているとは。」
かなり適性を示す者が少ない魔法の筈なのだが、ジルは当然の様に持っている。
一体どれくらい魔法適性を所持しているのか気になるところだが、あまり詮索されるのが好きでは無いと言っていたのでリュシエルは胸の内に仕舞っておいた。
「話しを戻しますがグールは危険ではありませんか?万が一お嬢様の身に何かあっては。」
「私もあまり戦いたくない相手ですね。臭いがきついと聞いた事がありますから。」
グールは腐敗した身体を持つ魔物なので臭いがかなりきつい。
素材も魔石くらいしか良い物が取れないのでゴブリンに次いで冒険者に人気が無い魔物だ。
「であれば剣で戦わなければいい。お嬢は魔法適性を持っているのだからな。」
「魔法ですか?しかし最近訓練を始めて感覚を取り戻している最中ですよ?」
屋敷にこもってからは一切使わなくなったので最近ジルの訓練で再び使い始めたところだ。
実戦に投入するには少し自信が無い。
「だから良い練習になるのではないか。グールの進行速度は遅いから確実に倒していけば問題無い。」
「分かりました。何かあればお願いしますね。」
「任せておけ。」
いざとなったらジルが介入してくれる。
そう思うだけで安心感が違う。
「お嬢様、グールです!」
少しするとグールが姿を見せる。
こちらに向かってゆっくりと歩いて近付いてくる。
「ふぅ、いきます!魔力を糧とし、清浄なる水よ、敵を切り裂け、アクアカッター!」
初級水魔法を詠唱したリュシエルの手から水の刃が放たれる。
水の刃はグールの腹に直撃して、身体を真っ二つに分断する。
「やりました!」
「お嬢、嬉しいのは分かるがまだまだ来るぞ。」
魔法で魔物を倒せた事に喜んでいるリュシエルにジルが言う。
倒されたグールの後ろからまた一匹更に一匹とどんどんこちらにやってくる。
「ぐ、グールの群れ!?」
「これは刺激が強い光景ですね。」
リュシエルとアンレローゼが頬を引き攣らせて言う。
「早く倒さなければ辿り着かれてしまうぞ?」
「わ、分かっています。」
それから迫り来るグールを水魔法で撃退し続けた。
処理が追い付かない時はジルやアンレローゼが手を貸したが殆どリュシエル一人で倒せた。
「な、なんとか終わりました。終わりましたよね?」
目に見えているグールは全て倒し終えたが、またやってくるのではないかと思ってジルに確認する。
「ああ、グールは全滅だな。」
「お嬢様、お疲れ様でした。」
「魔法を連発するのは久々でしたから疲れました。」
リュシエルが一息吐く。
初級魔法とは言ってもずっと詠唱して使い続けるのは疲れる。
「お疲れのところ悪いがあれを見てみろ。」
「はい?グールのいた方に何か…なっ!?」
「新手ですか!?」
暗くてよく見えないが巨大な何かが蠢いている。
それもこちら側に向かってきている様子だ。
「グールの死体に引き寄せられてきたワームだな。お嬢、第二回戦だぞ。」
「先程全滅したと言ってませんでしたか?」
「グールは全滅したと言ったのだ。他の魔物は含まれていない。」
「これでは休む暇もありませんね。」
リュシエルは溜め息を吐きつつ、今度は魔法では無く剣を抜いて魔物へと向かっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます