元魔王様とシャルルメルトの街 4
ダナンの従魔であるスカイの背中に乗って空を飛ぶ事数日、目的のシャルルメルト公爵領が見えてきた。
「やっと到着か。」
「長旅だったのです。」
「空を飛んで一直線だったからこれで済んだんだぞ?」
王都へ向かう時も思ったが、魔法での移動に慣れてしまうと移動時間がかなり長く感じてしまう。
地上で向かえばこの数十倍以上も掛かるので、これでも大幅に短縮している方だ。
「よし、街から少し離れた場所に降りてくれ。」
「ギャァ!」
ダナンの指示に従って公爵領の街近辺にスカイが着陸する。
あまり街に近い場所に降りて野良の魔物と勘違いされては困る。
「ご苦労だったな。帰りにまた呼び出すからそれまではゆっくり休んでくれ。」
魔法陣の中へとスカイが戻っていく。
ジル達は徒歩に切り替えて街へ向かう。
直ぐ近くに降りたので10分も歩けば門が見えてくる。
門番に手続きをしてもらって街の中に入る。
「ここがシャルルメルトの街か。」
「昔と変わらず綺麗な街なのです。」
「さすがは公爵領だな。王都にも引けを取らん。」
三人が街並みを見て感想を呟く。
シキだけは昔訪れた事があるらしい。
長い精霊生を歩んできたシキは新たな知識を求めて世界中を回っているので、過去に様々な場所を訪れているのだ。
「噂の割には随分と領民は落ち着いているな。」
街を見回すがセダンの街と領民の雰囲気は変わらない。
恐ろしいスキル持ちがいると言う割には皆から恐怖は感じられない。
「スキルに関しては魔法道具で封じられているとの噂だからな。でなければ落ち着いて過ごせないだろう。」
スキルを封じる魔法道具で公爵令嬢の危険なスキルは発動しない状態らしい。
「ほう、スキルを封じる魔法道具とは中々高価な物を持っているな。」
「公爵家はお金持ちなのです。」
魔法道具の中でも珍しい類いなので手に入れるのも一苦労の筈だ。
さすがは爵位の高い公爵家である。
「だがそう言った魔法道具は数が少なく、厄介なスキルを持つ犯罪者用に作られた物ばかりだそうだ。故に見た目が悪い。」
「どんな見た目なんだ?」
「首輪だと聞いた事がある。そのせいか分からないがリュシエル嬢は屋敷にこもりきりだそうだ。」
犯罪者に使う前提として作られたのであれば、見た目に気を使ってなどいないだろう。
むしろ犯罪者だと一目で分かる様な見た目になっていそうだ。
「お嬢様が首輪を付けて外を出歩きたいと思う訳無いのです。」
「奴隷と間違われかねんからな。」
奴隷も首輪を身に付けている。
公爵令嬢が奴隷と同じ様な見た目では出歩きづらいだろう。
「もし会う事があれば首輪に触れるのは避けるべきだ。ジル、気を付けろよ。」
ダナンがジルを見ながら事前に釘を刺しておく。
「何故我を名指しする?」
「相手が誰であろうと敬ったりしないジルだからこそ、簡単に首輪の話題に触れたりしそうだからな。」
「あり得るのです。」
そう言われると確かに普通に尋ねてしまいそうだと自分でも思えたので、これ以上話しを続けずに話題を変える事にする。
「この後は何処に向かうんだ?」
「そうだな、一先ずギルドで結晶石の情報を集めたい。」
「賛成なのです。ギルドなら色々と情報収集出来そうなのです。」
人が集まる冒険者ギルドなら欲しい情報も直ぐに手に入るだろう。
今後の動きは情報次第だ。
「ここがシャルルメルトのギルドか。」
「人があまりいないのです。」
早速ギルドにやってきたが人があまりいない。
夕暮れ時なのでそろそろギルドが賑わってくる時間帯の筈だ。
「元々スキルの件で領民が少なく、外から来る者もあまりいない。加えてシャルルメルトの街の近くは強い魔物が存在せず、冒険者の仕事もあまり無いのだ。」
冒険者にとっては活動が制限される環境らしい。
魔の森が近くにあって討伐依頼が絶えないセダンとは大違いだ。
「それでも今は結晶石で賑わっているのだろう?」
「その筈だ。こことは違って鉱山には山の様に人がいるかもしれないな。それについても話しを聞いてくるとしよう。お前達は酒場で暇潰しでもしていてくれ。」
そう言い残してダナンは受付嬢に話しを聞きに向かった。
「何か注文するか?」
「賛成なのです。シャルルメルトは自然が豊かなので食材が豊富なのです。美味しい料理に巡り合えると思うのです。」
そう言われてメニューを見てみると、確かにセダンでは見掛けない料理や飲み物が豊富である。
「これはいいな。料理だけで無くセダンには無い食材を大量に仕入れて帰るのもありだな。」
ここでしか手に入らない食材を大量に持って帰ればいつでもセダンでシャルルメルトの料理を楽しめる。
無限倉庫に容量制限は無いので幾らでも持ち帰れる。
「名案なのです。食材不足で作れなかった異世界料理も沢山あるのです。ここで仕入れればそれも解決するかもしれないのです。」
「またセダンで新しい料理が増えるのか。料理の街と有名になるのも納得だな。」
ジル達は美味しい料理を求めて酒場のメニューを片っ端から注文して、それらを食べつつダナンを待つ事にした。
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