元魔王様とシャルルメルトの街 3

 別室で待機しているとトゥーリが紹介状を持ってきた。


「お待たせ、これを見せれば採掘権は優遇してもらえると思うよ。」


「すまんな領主、助かるぞ。」


 ダナンが嬉しそうに紹介状と手紙を受け取る。

貴族の紹介があれば採掘に関しては問題無いだろう。

これで思う存分結晶石を採掘出来る。


「私も手紙を届けてもらうんだしお互い様さ。シャルルメルト公爵家とは友好的に接してよね?」


「問題を起こさない様に努力する。」


「ジル君もだよ?」


「別に貴族と関わらなければいい話しだろ?」


 そもそも領地に向かっても貴族と出会わなければ問題無い。

紹介状や手紙の件も主にダナンが担当してくれればいいだけだ。


「それは困…じゃなくて、私の知り合いだと知れば美味しい料理を振る舞って持て成してくれたりするかもしれないでしょ?」


「ふむ、そう言う事もあるのか?まあ、多少は善処しよう。」


 遠く離れた街ならばこの辺りとは違う美味しい料理がある筈だ。

貴族の持て成しともなれば豪勢だと思われるので、そんな食事を断るのは勿体無い。


「それじゃあ二人共、気を付けてね。」


 トゥーリに見送られて二人は屋敷を後にした。


「早速出発するか?」


「ジルは直ぐに行けるのか。わしは少し引き継ぎを行う必要がある。後で門の外で待ち合わせにしないか?」


「ああ、構わないぞ。」


 無限倉庫があれば急な遠征とて問題無い。

食料、武器、薬やポーションと何でも揃っている。


「ならば少し待っていてくれ。ジルも身内に伝えていないならシャルルメルトに行ってくると言ってきた方がいいぞ。」


 今回の依頼はダナンが満足するまで結晶石を集めると言う内容なので期間が曖昧だ。

王都の様に数ヶ月掛かったりはしないが、数日で帰れるとも限らない。


「一応伝えに行くか。」


 ダナンの準備が出来るまで暇なのでジルは浮島に向かった。

ナキナと影丸がパンデモニウム島、レイアとテスラが邪神教の拠点潰しと出払っているので、いつもより浮島の人数は少ない。


「シキはいるか?」


「いるのです。どうかしたのです?」


 ジルの声に反応して飛んでくる。


「我は少し遠くの街に出掛けてくる。帰りはいつになるか分からないからそのつもりで頼む。」


「この前まで王都に長期間出掛けてたのにまた出掛けるのです?」


 暫くゆっくりすると聞いていたが、また出掛けると聞いてシキが首を傾げる。


「ダナンからの指名依頼だ。かなりの大金だったからつい引き受けてしまった。出先でも稼げそうだから、この機会にたっぷりと稼いでくるつもりだ。」


 ダナンがかなりの高額で指名依頼をしてくれた。

今のところ金には困っていないが、持っておくに越した事は無い。


「ちなみにどこに行くのです?」


「シャルルメルト公爵領と言う場所だ。」


「最近結晶石で賑わっている領地なのです。エルダードワーフのダナンが欲しがるのも納得なのです。」


「そう言う事だ。」


 さすがはシキ、今話題の情報はしっかり把握していた。


「それならシキも付いていきたいのです。」


「シキが?」


 浮島での異世界の知識を利用しての研究に没頭しているシキなので、一緒に行くとは思わなかった為、誘おうとも考えていなかった。


「久しぶりにジル様とお出掛けしたいのです。浮島でのやりたい事も一旦落ち着いたから丁度良いのです。タイプB達も働かせ過ぎたから休みをあげたいのです。」


 魔法生命体のメイド達は浮島でやる事が特に無いので、暇な時間はシキの指示に従って浮島の開発に尽力してくれている。

ずっと働いてもらっているので暫くゆっくりと過ごさせてあげたいらしい。


「ふむ、確かにシキはずっと浮島にこもりきりだったからな。たまには遠出をしてみるのもいいだろう。」


「そうするのです。護衛にライムも連れていくのです。」


 指名されたライムが足元でプルプルと揺れている。

一緒に出掛けられると聞いて喜んでいる。


「何だか懐かしい組み合わせだな。」


 ジルが転生して早々に出会ったメンバーだ。

人族としての暮らしはまだ一年も経っていないのだが、濃い毎日を送ってきたので既に懐かしさすら感じる。


「あの頃と違ってライムはとっっっても強くなったのです。護衛として申し分無いのです。」


 シキに褒められて嬉しそうに身体を揺らしている。

見た目は殆ど変わっていなくても中身はあの時とは比べ物にならない。


「そう言えばライムが全力で戦っているところはまだ見ていなかったな。そんな機会は訪れてほしくはないが、頼りになるのは有り難い。」


「いつかはジル様を超えちゃうかもしれないのです。最強のスライムなのです。」


 異世界通販で購入したこの世界には存在しないスライム種だ。

この世界に存在するスライム種ならそんな事はあり得ないと言い切れるのだが、エボリューションスライムであるライムならあり得る事だ。


「そうなるとライムの相手を出来るのは原初の龍だけになるかもしれんな。最強の魔物ドラゴン最弱の魔物スライムが良い勝負をするとは、誰も想像が出来無いだろう。」


 ジルはそれを想像して愉快そうに笑った。

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