65章
元魔王様とシャルルメルトの街 1
レギオンハートに協力を求めてパンデモニウムに向かったジル達は、無事に目的を果たしてセダンの街に戻ってきた。
ナキナと影丸はレギオンハートの下で特訓、レイアとテスラは黒フードの拠点潰しとなったのでセダンに帰ったのはジルとホッコの二人だ。
ホッコは暫く浮島でのんびりと過ごすらしいので、別行動を取る事にしている。
「さて、レギオンハートに自由に過ごせと言われたが何をするか。直近での急ぎの用事は特に無いが。」
浮島の戦力強化も一段落したので予定は無い。
「暇だしダナンの用事でも片付けておくか。」
ジルの手が空いてからでいいと頼まれていた件がある。
シャルルメルト公爵領で新しく見つかった鉱山から貴重な鉱石である結晶石が取れると言う情報を耳にして、ダナンはそれを取りに向かう為の護衛としてジルに指名依頼を出したいと考えている。
「ダナンはいるか?」
早速ダナンの店を訪ねてみると暇そうに店番をしていた。
「ジルか。武器の依頼か?それともミスリル鉱石案件か?」
ダナンを訪ねてくる用事となればその二つが殆どだが今回は違う。
「結晶石の件だ。手が空いたから付き合ってやれるぞ。」
「予想外に早かったな。こちらとしては有り難い限りだ。」
ジルの言葉を聞いて嬉しそうな表情を浮かべる。
いつでも構わないと言ってはいたが、早く採掘に向かいたくてウズウズしていたのだろう。
「それで指名依頼だったな?」
「ああ、準備に時間は掛からないから早速ギルドで依頼をしよう。」
指名依頼の手続きをする為にギルドへ向かう。
ギルドを通さずに個人的に依頼を行う事も出来るのだが、こうしてギルドを通せば長期依頼中の定期的な依頼を受ける義務が無くなる。
「あら、ジルさんにダナンさんじゃないですか。」
珍しい組み合わせと思いつつ担当受付嬢のミラが迎えてくれる。
「ミラ、今日は指名依頼の手続きできた。」
「指名依頼ですか?まさかダナンさんが?」
「まあ、そう言う事だな。」
驚いた様にダナンの方を見るミラに頷いてみせる。
「ジルさんが指名依頼を受けるんですか?前は面倒だからそう言うのは断るみたいな事を言ってませんでしたっけ?」
ジルが面倒事を嫌っているのはミラも知っている。
だからこそ知り合いとは言え、面倒な条件が多い指名依頼を受けるとは思わなかった。
「ランク的にはそう出来るからな。だが我を納得させられる報酬を提示出来るのであれば話しは別だ。」
満足のいく依頼料が貰えるのであれば、内容次第では受けても構わない。
今回の依頼もダナンがかなりジルに譲歩した条件且つ高額だからこそ受けた。
「わしはジルに護衛の指名依頼を受けてほしいからな、報酬に糸目はつけないつもりだ。よし、これで頼む。」
依頼書に内容を書き込んでミラに渡す。
ジルに指名依頼を出すにあたってダナンからの条件や報酬について書いた依頼用紙だ。
「えーっと、シャルルメルト公爵領までの道中並びに滞在中の護衛依頼、冒険者ジルを指名、報酬は大金貨が50枚!?」
「ほう、随分と奮発したな。」
ミラはかぶり付く様に依頼書を見て驚愕しており、ジルはその依頼料に満足そうに頷いている。
大金貨50枚の依頼なんて早々無い超高額依頼である。
「わしの我儘に付き合わせてジルを長期間拘束する訳だからな、これくらいは払おうと思っていた。」
「ほ、本当に大金貨を50枚も支払うのですか?貴族でもこんな額はそういませんよ?」
一桁間違えているのではないかとミラが確認する。
大金貨5枚でもかなり高額の報酬なのだ。
「わしは金にあまり興味が無い。今までの武器製作の依頼でこれでもかなり貯金はあってな。目的の為であれば全く問題は無い。」
「成る程、ダナンが金にあまり興味が無さそうだったのはそれが理由か。」
ミスリル鉱石の取り引きでもお金では無く現物支給を望んでいた。
エルダードワーフの製作する武具は王族も満足する出来の物ばかりなので、今までにも相当な値段で取り引きされていて、お金には全く困っていないのだろう。
「まあ、そう言う理由だから依頼料は奮発している。そしてこれは報酬額であり、食事代や宿泊代もわしが別で払おう。」
「かなり破格な待遇の依頼ですね。やはり目的は結晶石ですか?」
ミラが依頼場所に書かれているシャルルメルト公爵領の文字を見て尋ねる。
「ギルドも当然把握はしているか。今の時期にシャルルメルトを訪れる者の大半は同じ目的だろう。」
「そうでしょうね。例の件で訪れる人は殆どいなかったのですが、貴重な結晶石の取れる鉱山が見つかりましたから。」
言葉を濁しているがミラも公爵家の令嬢が危険なスキルを持っている事は知っている様だ。
シャルルメルトから離れたセダンでも知っている者が多いとなると相当有名な話しなのだろう。
「結晶石が見つかってからは賑わっているのか?」
「はい、ダナンさんと同じ様な目的で護衛を引き連れて向かっている人は多いと聞きますよ。しかしシャルルメルトも外から来た人ばかりに鉱山を占領される状況にはしたくないかと思います。」
鉱山の資源はシャルルメルト公爵家に所有権があるので採掘した物が欲しければ買い取る形となる。
だがこんな時ばかり押し寄せてくる余所者に全幅の信頼をするなんてのは無理な話しだ。
こっそり持ち出されたりすれば、シャルルメルトにとっては大きな損失となる。
ならばこんな状況でも領地に残ってくれている信頼出来る領民に採掘を任せたいと思うだろう。
「そうなると鉱山に入れる者に制限が掛けられる可能性があるか。」
「オークションの時みたいにあれを使えばいいんじゃないか?」
王家の後ろ盾となる物をダナンは持っている。
それを見せれば公爵家も簡単に頷いてくれそうだ。
「そう簡単に出して権力を振りかざしたくは無い。別の方法を用意していく必要がありそうだが、それに付いてはわしに任せておけ。」
明日早速出発しようと言う話しになって今日は解散となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます