元魔王様と世界最強の従魔使い 4
レギオンハートが影丸と言葉を交わす事数分、満足した様に立ち上がる。
「影丸の気持ちは理解した。仲間の従魔達に遅れを取らない様に自身も成長していきたいと。その内の一体がディバースフォクスのお前だな?」
「ホッコなの。」
「三本で既に中々の強さを身に付けているな。さすがは…いや、何でもない。」
ジルを見ながら何かを言い掛けて止める。
事前にレイアとテスラを向かわせておいた甲斐があった。
「それで影丸は強くなれるのじゃろうか?」
「無論だ。俺の従魔達も成長を遂げて出会った頃とは天地の差とも言える力を身に付けてきた。最もそれは本人の覚悟次第だがな。」
「ウォン!」
レギオンハートの言葉に影丸が吠える。
他の従魔達に追い付ける様に頑張るとでも言ってそうだ。
「やる気は充分か。ならば二つの道を示してやろう。」
「二つの道?」
「ウォン?」
レギオンハートがナキナと影丸を見ながら二本の指を立てる。
どうやら従魔を鍛える方法は複数存在するらしい。
「だがその前に少しこちらと話しがしたい。その間に現在の実力がどの程度のものか計らせてもらうぞ。従魔とその主人、両方の実力をな。」
鍛える前に現在の実力をある程度知っておく必要がある。
それは影丸だけで無く主人であるナキナもだ。
「妾も?」
「抗ってみせろ。」
レギオンハートが地面に慣れた手付きで二つの魔法陣を描いていく。
召喚魔法に必要な魔法陣だ。
「魔力を糧とし、契約に従い顕現せよ!」
「ウオーーン!」
「…。」
レギオンハートの召喚に応じて魔法陣が光り出して二体の魔物が現れる。
影丸よりも更に大きな狼の魔物と甲冑を身に付けた騎士だ。
どちらもかなり高ランクの魔物だと思わせられる存在感だ。
「っ!?」
「ほう、ブラックフェンリルにデスナイトか。どちらもSランクの魔物だな。」
ナキナは二体の魔物を見て思わず後ずさる。
ジルが魔物の正体を口にしているが、どちらも魔物の中では最高峰のSランクであった。
「こいつらが相手だ。安心しろ、殺させはしない。」
事前に手加減する様に従魔達に注意しておく。
そうしなければ直ぐに決着が付いてしまう。
「ならば胸を借りるのじゃ。影丸、圧倒的な格上との戦いじゃが、妾達の力を存分に見せるとしよう。」
「ウォン。」
気合い充分と言った様子でナキナ達とレギオンハートの従魔の戦いが始まった。
「さて、これで昔話しを興じても問題無いんだな?」
「一応遮音結界は張っておこう。」
レギオンハートが笑みを浮かべて見てくる。
早く話したくてしょうがないと言った様子だ。
離れて戦闘中のナキナ達には聞こえていないかもしれないが、一応結界で音を遮っておいた。
「ふはは、久しいな王よ!まさか蘇っているとは思わなかったぞ!」
結界が展開されると同時にレギオンハートが大きな声で嬉しそうにジルに言う。
遮音結界が無ければ聞こえていたかもしれない。
「転生だ、蘇った訳では無い。」
「そんなのは些細な事だ。その魂は正しく俺の仕えていた魔王なのだからな!」
再び元魔王であるジルに出会えて喜びに満ち溢れている。
「元気そうで安心したぞレギオンハート。」
かつての配下は全く変わっていなかった。
昔と同じく豪気な性格はそのままだ。
「好敵手がいなくなり俺の人生は刺激が減ってしまったがな。勝ち逃げされてしまった。」
レギオンハートはその軍勢の訓練としてジルの前世である魔王ジークルード・フィーデンに戦いを挑む事が多かった。
魔王くらいしかその全力を受け止めきれなかったのだ。
「あの頃の我に勝つのは無理だ。まだ諦めて無かったのか?」
「俺達は強くなった。王を倒す事を目標に鍛錬し続けてきたからな。今なら少しは良い勝負が出来ると思うぞ?」
神域に至っていた魔王に戦いを挑むもいつも大敗であったレギオンハートは従魔達を更に鍛え上げたらしい。
それだけ勝ち逃げされたのが悔しかったのだろう。
「それは遠慮したいな。今の我にあの頃の力は無い。軍隊を率いている様なお前と戦いたいとは思わん。」
ナキナと影丸が悲鳴を上げながら戦っている様な魔物が軍隊として押し寄せてくるなんて想像もしたくない。
「残念だが仕方あるまい。あの圧倒的な力と存在が今では全く感じられん。それでも俺や従魔達よりも強いのは解せんがな。」
単独や数体くらいならば今のジルでも何とかなる。
だがさすがに軍隊相手は厳しいだろう。
「ジル様に勝とうと考えている事が愚かなのです。昔から貴方はジル様に対して不敬な事ばかり。」
「四天王一番の問題児だったもんね。巻き込まれるジル様が可哀想でしたよ。」
レギオンハートを叱る様にレイアとテスラが言う。
四天王の中で唯一魔王に戦いを挑み続けていたのがレギオンハートと言う男だった。
「それが俺の生き甲斐であり楽しみだったからな。それに四天王に付く代わりに王に頼んだのがそれだったのだ。」
「我に生涯挑み続ける。絶対的な魔王にこの手で勝利を掴み取るだったか?」
魔王軍に入る時にはその宣言で多くの魔族に無理だと笑われていたレギオンハートだったが、魔王に次ぐ力を日々身に付けていく者を笑える者はどんどんと減っていき、最終的には誰もが認める最強の四天王となった。
「結局叶う事は無かった。だがあの強さに何度も触れられた事が俺や従魔達にとっては幸せな事だった。」
「実に懐かしい話しだ。」
ジルもレギオンハートとの戦いは楽しかった。
あの頃の自分を戦いで楽しませてくれたのは四天王や一部の配下くらいだった。
「全然分からなくてつまらないの。」
「おっと、悪かったな。」
少しつまらなそうにしていたホッコの頭を撫でてやる。
ホッコ以外は前世組なので一人だけ知らない話しばかりだった。
「元魔王様も可愛い従魔には頭が上がらないか?」
「従魔とは良いものだな。」
「あの頃には無い感覚か?転生して価値観が随分と変わっている様だな。」
ジルの言葉を聞いて多くの従魔を持つレギオンハートは嬉しそうな表情を浮かべて呟いた。
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