元魔王様と街巡り 6
二人は孤児院の子供達と屋台巡りに戻ると言うのでその場で別れた。
その後もジルは大量の屋台を回って、王都に行っている間に増えた新しい料理を次々に購入して無限倉庫に収納していった。
「ふぅ、大満足だ。」
お腹一杯になるまで料理を食べ続けたが、まだまだ購入した分は大量に残っている。
それだけシキが頑張って料理を広めてくれたと言う事だ。
「さて、次はダナンの店にでも向かうか。」
腹も膨れたので次の場所に向かう。
ミスリル鉱石の取り引きをしているダナンの店だ。
「いるか?」
「ん?ジルじゃないか、久しぶりだな。」
店番をしていたダナンが出迎えてくれる。
「昨日やっと帰ってきたのだ。」
「王都に行ってたんだったか?ちなみに集金ならされてるから渡す分は無いぞ。」
ジルがセダンにいない間に、シキがダナンとオークションに行ったりして会っているのは知っている。
その時にミスリル鉱石の売却金を回収してくれていたのだろう。
「知っている。ミスリルや近況について確認にきただけだ。」
「ミスリル鉱石なら集金の時に出してもらったから充分な量がある。」
無限倉庫のスキルは真契約を結んでいるシキも使えるので、金を受け取る際に渡してくれたらしい。
さすがは仕事の出来る契約精霊である。
「それなら追加分は必要無さそうだな。ミスリルの売れ行きはどうだ?」
不要だと思って収納した物だったが、今ではジルの貴重な財源となっているので気になる。
沢山売れて異世界通販のスキルの為に役立ってほしい。
「相変わらずオークションでよく売れている。定期的に出品される高純度のミスリルとオークションでは知れ渡っているからな。逆に値段が上がってきたくらいだ。」
「それは重畳。」
ジルの持っているミスリル鉱石は、前世の魔王だった頃に収納した物だ。
あの時に魔王の魔力に当てられて普通の物よりも純度の高いミスリル鉱石となった。
なので前魔王のいなくなった現在の魔国フュデスでは取れない為、価値は上がっている。
唯一の入手手段であるオークションで金に糸目をつけない者が現れるのも納得だ。
「他は特に変わってないな。だが一つ気になっている話しがある。」
「何だ?」
「前にバイセルの街にオークションに言った時に鍛治仲間から聞いた話しなんだが、ジャミール王国の東方にある領地で新しい鉱脈が見つかったらしい。」
話しているダナンの表情が段々と生き生きしてくる。
ドワーフの国が鉱山や鉱石で有名なので、そう言った話しには種族柄興味が惹かれるのだろう。
「ドワーフにとっては一番嬉しい情報だな。」
「まあな。それでその鉱脈の浅い場所では鉄、銀、金が発見されていて普通の鉱脈かと思われてたんだが、突然結晶石が出た事でかなり価値のある鉱脈だと判明した。」
「結晶石と言うと属性の力を取り込んだ宝石に近い鉱石だったか?」
「その認識で合っている。」
ホッコの龍聖剣を作る際にスキルを付加する為に必要となった素材だ。
持ち合わせていなかったので、その時はドメスに作ってもらった。
「長い年月を掛けて生成される希少な鉱石だから中々市場に出回らない。結晶石が産出される鉱脈も国内だと既に掘り尽くされていて、生き残ってるのはそこくらいだ。」
「それは確かに価値があるな。」
ダナンの様な鉱石や鉱山に興味を惹かれる者達にとっては正に宝の山と言える。
「わしとしては是非現場に向かいたい。」
「まだ行ってなかったのか?直ぐにでも飛び付きたい内容だと思ったが。」
ダナンには従魔のレッサーワイバーンであるスカイがいる。
空の移動方法を持つダナンならば、遠方でもそれなりに時間を短縮して向かう事が可能な筈だ。
「無論そうしたかったが場所が場所でな。」
「鉱脈の発見された場所はどこだ?」
「シャルルメルト公爵領だ。」
「知らんな。危険な場所なのか?」
ジルには聞き覚えが無い領地だった。
少なくともこの辺りでは無いだろう。
「この国に住んでいて巨大な公爵領を把握していないとはどうなっているんだ。シャルルメルト公爵領は自然も多く美しい領地だ。だが外から人はあまり寄り付かん。常時危険な訳では無いが確かな危険もある。」
「回りくどい言い回しの説明だな。もっとはっきりと言ってくれ。」
「これも有名な話しではあるのだがな。危険と言うのは魔物では無く、その地に住むとある人族が原因だ。あまり大きな声では言えない内容だから吹聴して歩くなよ?」
「分かった。」
店の中ではあるがダナンが周りに人がいない事を確認してから小声で教えてくれる。
「その人の名はリュシエル・シャルルメルト。公爵家の娘だ。」
なんと危険視扱いされていたのは貴族の娘であった。
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