元魔王様と街巡り 5

 次の説明はエルミネルの番だと二人の視線が向けられると、エルミネルが嫌そうな表情をしている。


「我に関わる事なのだろう?一応聞かせてもらいたいな?」


「面倒。」


「エルミネル、説明くらいしてやれ。ジルも気になってるだろ?」


「面倒。」


 二人に言われてもエルミネルは心底面倒くさそうな表情をして話そうとしない。

元々あまり会話をする方でないのは分かっている。

饒舌になるのは大好きな戦闘時くらいだ。


「確か以前お前の頼みを聞いて高価な薬を渡してやったり助太刀をしたりと我が善意で動いてやった事があったな。そんな我の頼みが聞けないのか?」


「それを出すのは卑怯。」


 エルフの里でギガントモスによる呪いが広まってしまった件だ。

万能薬を譲ったり、討伐の手伝いをしたりした。

それに関しては感謝しているのだろう、エルミネルの嫌そうにしていた表情が緩む。


「少し説明してやるだけだろ?話し終わるまで解放されないぜ?」


「…むう、分かった。」


 観念して話す気になってくれた様だ。


「魔物探してた。その途中で天使達が絡んできた。」


「向こうから絡んできたのか?」


「そう。」


 元々接触してきたのは天使族の方からだと言う。


「天使が聞いてきた。魔族の知り合いかジルと言う人族を知らないかって。」


 種族的に魔族を探すのは自然な事だがジルの事も名指しで探していると言う。

これはライエルが生きているのはほぼ確実だろう。


「魔族は分かるとして直接名前を言って聞き出してきてるのか。本当に何をやったんだ?」


「この後で話してやる。」


 アレンは気になっている様だが一先ずエルミネルの話しを聞いてからにする。


「続き言う。聞かれたから知ってるって答えた。そしたら態度変わった。」


「どんな風に変わったんだ?」


「好戦的?周りを囲んできた。」


 そう言って自分の周りを指差してこんな風に囲まれたと教えてくれた。

逃げ場を無くしていつでも全方位から攻撃出来る様な陣形だ。


「名前を知ってただけでそんな行動を取るとは物騒だな。」


「囲まれた後に案内しろって脅された。でも依頼中。」


 普通の冒険者なら天使族に囲まれてそんな事を言われれば言う通りに従う他無い。

でなければ自分が酷い目に遭うのは目に見えている。

だがエルミネルがその通りに行動するとは思えない。


「断ったのか?」


「そう。暇じゃ無いから帰れって言った。」


「天使族に面と向かってそんな事を言える者も珍しいな。」


「どちらが好戦的なんだかな。」


 ジルとアレンに呆れた様な視線を向けられる。


「続ける。案内しないなら殺すって言われた。殺意も向けられたし攻撃もされたから殺した。」


 実にシンプルな思考である。

相手が誰であろうと殺気を向けて攻撃を放ってきたからやり返した。

エルミネルにとってはただそれだけの事だった。


「天使の一個団体を相手に完勝とはな。」


「アレンだってそれくらい出来ると思うぞ?」


「当たり前だろうが。ナンバーズは分からねえが下っ端に負けるかよ。」


 そう言っているが二人共ナンバーズとさえもやり合えそうではある。

それだけの強さを二人は持っている。


「これで説明は全部。」


「分かった、説明助かったぞ。」


「今度はジルの番だな。何故そんなに目の敵にされてるんだ?」


 天使族に目を付けられているのが気になるのだろう。

魔族以外が標的になるのは余程の事があった時だけだ。


「簡単な事だ。魔の森で天使族とやり合った事がある。その仕返しだろう。」


 レイアとテスラの事は伏せておく。

魔族がいたから絡まれたと話せばややこしくなるだけだ。


「相手は?」


「ナンバーズだ。名前はライエルだったか?」


 突然魔族の臭いがすると言って襲ってきた天使族だ。

最後に極級爆裂魔法を使用して自爆したかに思えたが生きながらえた様だ。


「おいおい大物じゃねえか。光剣のライエルだよな?」


「聖痕持ち。ずるい。」


「ずるい?」


「戦ってみたかった。」


「「戦闘狂め。」」


 二人に再度呆れた様な視線を向けられるがエルミネルは全く気にする様子が無い。

そしてライエルに関しては二人共知っていた。

さすがに天使族の中でも有名なナンバーズだ。


「まあ、事情は分かった。ナンバーズとやり合った報復なら、魔族探しついでに大量の配下が出回って探していてもおかしくねえ。エルミネルも天使をやっちまったし、セダン近郊は騒がしくなっちまうかもな。」


 魔の森で天使族の一個団体が壊滅となれば、高ランクの魔物でもないと有り得ない事だ。

そうなると人種の可能性も疑われる事となるだろう。


「面倒な事だ。」


「同意。」


 アレンの言葉に疲れた様に溜め息を吐く二人。


「当事者共がほざいてやがるな。まあ、喧嘩吹っかけてくるなら、周りに迷惑をかけない程度にぶちのめしてみるのも面白えかもな。種族的に気に食わねえと思ってる奴も少なくねえし。」


「そこら辺は自由にしろ。我は面倒だから自ら天使族と戦うつもりは無い。我の行動を害してきたら全力で排除はするけどな。」


 これ以上付き纏わられるのは面倒だ。

ナンバーズと戦闘をしたいと思っている者に相手をしてもらうのが一番なので天使族の対応はそう言った者達に任せるとする。


「セダンに被害があっても困るし、ギルドの連中には俺の方から天使に関する情報をある程度流しておいてやる。だがジルに関して話すかどうかは冒険者次第だな。」


 下手に口止めをさせて冒険者達が被害を受けないとも限らない。


「その内相対する。」


「だろうな、天使族とは決着を付ける必要が出てくるだろうぜ。」


「心底面倒な話しだが、その時に考えるとしよう。」


 天使族がセダンに対して大きく行動を起こしてくれば対応せざるを得ないが、そうで無いならこの問題は面倒なので先送りにして、未来の自分に任せる事にした。

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