元魔王様とスライムテイム 7

 プレデタースライムはラブリートの一撃によって倒された。

キュールネが危険な魔物と言っていたが呆気無く倒されてしまって二人が驚いていた。

ジルはラブリートなら当然だと頷いている。


「はぁ、せっかく目撃情報を頼りに来たのに全部食べられちゃったわね。」


 辺りを見回しながらラブリートが残念そうに呟く。

あれだけスライムが生息している渓谷なのに、周りには一匹も見当たらない。


「他の場所を探せばいるんじゃないかな?」


「渓谷はかなり広いしな。それにまだまだ先がある。」


 渓谷にはまだ続きがある。

更に深く入り込めば目的のスライムがいるかもしれない。


「あまりトゥーリ様を魔物がいる危険地帯で連れ回したくは無いのですが、お二人がいれば大丈夫でしょうね。危険なプレデタースライムですら一瞬で倒せてしまうのですから。」


 警戒していた自分が滑稽に思えてくる。

最強の冒険者を心配するなんて、失礼な事をしたとキュールネが反省している。


「ラブちゃんの戦闘を間近で見る機会なんて無かったけど本当に凄まじい強さだね。」


「冒険者のランクは一つしか違いませんが、その一つが越えられない差だと言うのがよく分かりました。」


 ラブリートが国家戦力と呼ばれるSランクだと言う事は多くの者が知っているが、実際にその戦闘を見る機会は多くはない。

二人は改めてその強さを実感していた。


「キュールネも了承したし、もう少し進んでみるか。」


「いるといいのだけど。」


「これだけスライムがいるんだから見つかるだろう。」


「と言うかそもそもなんでこんなにスライム種が集まっているのかしら?」


 ラブリートが不思議そうに首を傾げている。

同種の魔物同士で集まっている事は珍しくない。

しかしこの規模感となると滅多に見る事はないので何かしらの原因がありそうだ。


「最近の事らしいですからね。スライム種がこんなに溢れるまでは普通に様々な魔物が生息する渓谷だったと言う話しですし。」


 村人の話しではある日突然渓谷にスライムが現れ始めて、日を重ねる毎にその数を増やしていったと言う。

そして暫くするとスライム以外の魔物は姿を見せなくなっていたらしい。


「候補としては二つか。何度か見ているマジックモニュメントがスライム種を召喚している可能性。」


「あり得るわね。同じ種をこれだけ召喚しているとなると。」


 転生してから何度か遭遇しているがマジックモニュメントと言う魔物が絡んでいる可能性がある。

動けない代わりに何かしらの魔法をずっと使用し続ける魔物で、召喚魔法ならば小規模なスタンピードを引き起こす事もある魔物だ。


「もう一つはスライム種の最上位種がいる場合だな。」


 魔物の種の中でも最上位の存在となると同種の魔物を生み出す力がある。

それにより大量のスライム種を渓谷内に生み出し続けている可能性がある。


「どちらにせよ同種の魔物を大量に召喚出来る存在って事だね。」


「もし見つけたとしたら倒すの?」


「うーん、悩ましいところだね。」


 ラブリートの質問にトゥーリが悩む様に手で口を隠す仕草をしている。


「魔物の大量発生とは言え、そのおかげで村は景気が良い。下手に討伐してスライムが消えれば村人達に恨まれかねない。」


 危険が少ない部類のスライムだからこそ討伐しないと言う選択肢が浮かんでしまう。

ここなら安全にスライムの素材を確保出来、トゥーリ達の様にテイムも比較的安全に行える。

そんな状況を崩してしまうのは勿体無い。


「スライム種は魔物の中でもあまり脅威だと感じられませんから残しておいても問題無いかと。強い個体もいますが、場所が深い渓谷なので村への被害は出ません。」


 渓谷内で見掛けるスライムの中には崖を登ろうとしている個体もいたが、高さがあり過ぎるので途中で落ちてしまう。


 ジル達が渓谷に降りる為に通った通路も多少入り組んでいたり、渓谷へ続く穴が空いていたりしたのでスライムが登って村まで辿り着くのは難しそうだった。


「私のスライムが見つかったら原因の排除はしなくてもいいって事でいいわね?」


「そうしておこう。私達の様にスライムをテイムしたい人の邪魔もしたくないしね。」


 ここには便利な力を持ったスライムも多い。

テイム希望者は沢山いるのでその可能性を奪えば非難轟々だろう。


「お喋りはそこまでだ。あれを見てみろ。」


 話しを遮ってジルが渓谷の奥を指差す。

そこにはお目当てのスライムが蠢いていた。


「黒いスライムじゃない!」


「探した甲斐があったね。」


 プレデタースライムがいたからと言って簡単に全滅する様な数では無かった。


「そう言えばラブリートはどうやってテイムするんだ?同じ様に肉でも使うのか?」


「私は食べ物に頼らなくても問題無いわ。拳で分からせるだけよ。」


 そう言って拳を握り締める。

危険なスライムですら一撃で葬る威力を持った拳に心なしか黒いスライムが震えた気がした。


「倒すなよ?」


「分かっているわよ。」


 ラブリートが大きく頷いてからスライムに軽い足取りで近付いていく。


「そこのスライムちゃん、私の従魔になりなさい?」


 ラブリートが近くに寄って声を掛けるとスライムが揺れている。


「ん?力が抜けていく?」


「ラブリート、魔法を使われているぞ。初級闇魔法のフォースディクラインだ。」


 スライムはラブリートを前にして闇魔法を使用してきた。

簡単にはテイムされない様だ。


「私に魔法を使うとは良い度胸ね?ふん!」


 ラブリートが拳を横に突き出すと壁を破壊しつつ腕が埋まる。


「弱体化していてもこれくらいの攻撃力は普通にあるのよ?貴方に当たったらどうなるかしらね?」


 ラブリートが笑顔で問い掛ける。

スライムはそれを聞いて揺れているが、もしかしたら揺れているのでは無く震えているのかもしれない。


「従魔になるなら酷い事はしないわよ?名前はそうね、ラブラックちゃんにしましょう。」


 ラブリートが名前を口にした瞬間、直ぐにラブリートとスライムの身体が光ってテイムが完了した。

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