元魔王様と温泉の町 11

 鉱山を出たジル達は町長の店に戻ってきた。

勇者の残した魔法道具の鞄から中身を取り出していく。


「おおお!高品質の温泉石がこーんなに!」


 当時に採掘された温泉石が大量に入っていて町長が嬉しい悲鳴を上げている。


「現在採掘される物よりも質が良いですね。昔はこれくらいの質が普通だったのでしょうか?」


「今では分からないわね。でもこれを使えば更なる効能を得られる温泉が作れるわ。」


 これからもこの町が温泉で更に発展していくのは確定した様なものだ。


「ほう、そんなに良いのかこの温泉石は。」


「やっぱり欲しい?」


「どうせなら質の良い鉱石の方が嬉しいからな。」


 拠点である浮島に作る温泉なので、せっかくなら良い物を作りたい。


「まあ仕方無いわよね。元々質の良い温泉石を譲る約束だったし。」


「それに私達だけではゴーレムを倒す事が出来ず、勇者様の家まで辿り着けませんでしたからね。」


 二人は鞄に入っていた温泉石を幾つか融通してくれた。

自分達で手に入れた分も含めてそれなりの量が手に入ったので、温泉作りも捗りそうである。


「次のも鉱石ね。これってミスリル鉱石かしら?」


 温泉石を全て出した後に取り出されたのはジルにとってはお馴染みのミスリル鉱石であった。


「メモが残っていますよ。魔国産の高純度ミスリル鉱石だそうです。」


 ジルが持っているミスリル鉱石と同じ物の様だ。

ジルが魔王だった頃の勇者が手に入れたミスリルとなると、無限倉庫に収納しているミスリルと同じ物だろう。


 あの頃魔国フュデスで手に入ったミスリルは全て、魔王の魔力に当てられて高純度のミスリルになっている物なのだ。


「それって最近オークションで出回っているって言う超高いミスリルと同じなんじゃない!?他にも勇者様の遺品を見つけた人がいたのかしら?」


「同じかは分かりませんけどこれも相当な物ですね。」


「冒険者なら欲しいんじゃない?ミスリルは使い勝手もいいからね。」


「いや、そっちは大丈夫だ。」


 町長に欲しいだろうと尋ねられたが、無限倉庫の中に文字通り山の様に入っているので必要無い。

換金するのも大変なので貰っても仕方無いのだ。


「あら?本当にいいの?売っても相当な金額になると思うわよ?」


「それは知って…では無く我もミスリルの武器は既に持っているし金にもあまり困っていない。」


「そう?それじゃあミスリルは有り難く貰っておこうかしら。」


 ジルが受け取りを拒否したので町長が嬉しそうに言う。

ミスリル鉱石を売却すればかなりの金額が手に入るので町の財政が一気に潤うだろう。


「おっ、次はお待ちかねの勇者様の研究資料ね。相当温泉に拘りがあったのかしら、凄い量ね。」


「全て読むだけでも何ヶ月掛かるか分かりませんね。」


「そんなには待てん。一番重要そうなのだけ見れればいい。」


「そうなるとこれかしら?効率の良い温泉石を使った魔法道具の作り方。それと最高の温泉の作り方。」


 要点だけが詳しく纏められている資料を受け取って読む。

魔法道具の方は簡単なので直ぐに作る事が出来そうだ。

温泉の作り方についても異世界の知識を蓄えたシキならば余裕で再現出来るだろう。


「成る程、帰ったら作ってみるとしよう。」


 読み終わった資料を町長に返す。

この資料は今後この町で活用されていき、大きな成果を出してくれるだろう。


「自分で使うだけにしてよね?他でも同じ事をされるとこの町に人が来なくなっちゃうから。」


「分かっている。」


 浮島にしか作る予定がないので客を取る事にはならないだろう。


「姉さん、入っていたのはそれで全部ですか?」


「まだあるわね。昔の金貨や銀貨、それと何これ?」


「何でしょう?」


 二人が取り出した物を見て首を傾げている。

その掌の上にあるのは拳大の玉だ。


「それは武器だな。」


「武器?この玉が?」


「魔法武具の様だ。似た様なのを使っている者を見た事がある。」


 見たのは前世の頃だがそれは言わないでおく。

しかもこれは勇者が使う魔法武具だ。


「へえ、こんな玉みたいので戦えるのかしら?」


「武器であれば冒険者を引退した我々には不要ですね。」


「それもそうね。知っているみたいだし、これは貰ってちょうだい。」


「我が使うかは分からないが、せっかくだし貰っておこう。」


 この魔法武具は昔の人族達が作って勇者達に渡した兵器だ。

魔力を流して武器の姿を想像するだけでどんな形にも変形する万能兵器である。


 その技術が失われたのか今は全く見なくなったが昔は殆どの勇者達が使っていた。

主に勇者が使っていたが数が少なくて優先されていただけなので誰でも使う事が出来る。


「これで中身は全部ね。貴重な収納系の鞄まで手に入ったし勇者様には感謝しないと。」


「勇者様の愛した温泉をもっと広めて恩返ししましょう。」


「それはいいわね。早速温泉開発に取り組むわよ!」


 町長と女将が張り切って資料を読み始めたので、ジルは先に引き上げてゆっくり温泉にでも浸かって休む事にした。

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