元魔王様と温泉の町 8

 メタルゴーレムを討伐した事で奥へ進む道の安全が確保された。

二人が安全となった空洞内に入ってくる。


「さっすが大口を叩くだけの事はあるわね。今まで見てきた冒険者でもトップクラスの実力者だわ。」


「あんなに強いゴーレムを倒せるとは、素晴らしいですね。」


 自分達では確実に倒せなかったと思われる魔物を討伐したジルに二人が賛辞を送る。


「報酬は期待しているぞ?」


「分かっているわ。満足するだけの温泉石をあげる。でもその前にこの先の確認よ。」


「実はこの鉱山は何者かが住処として使っていた様な痕跡が今までに幾つか見つかっているんです。この通路も自然に出来たものではないかもしれません。」


 ジルの見える範囲にはそう言った物は見えないが、これまでの採掘作業で発見していたのだろう。


「鉱山に住むとは物好きもいたものだな。ドワーフか?」


「うーん、ドワーフでも厳しいんじゃないかしら?黒鋼岩を壊すのは大変だろうし、さっきみたいな魔物もいる事だし。」


「戦闘を生業とするドワーフも一定数いますが、基本的には鍛治職に付きますからね。」


「確かにな。」


 ジルの知り合いであるエルダードワーフのダナンも鍛治師だ。

ドワーフ族は鍛治に適性のある者が多いので戦闘職よりも鍛治職に付く者が圧倒的に多い。


「まあ、この先を見てみたら分かるかもしれないわ。進んでみましょう。」


「先程の様な魔物がまだ沢山いるかもしれませんよ?」


「平気よ、こっちには最強の冒険者が付いているんだから。」


 自分達では倒せないメタルゴーレムを無傷で倒してしまう程の冒険者だ。

その実力の高さが高ランクの魔物が現れても問題無いと思わせてくれる。


「報酬を弾んでくれる様だし最後まで付き合ってやろう。我の拠点にも立派な温泉を作りたいからな。それに見た事も無い程良質な温泉石が存在する可能性もあるからな。」


「それでこそ冒険者よ。未知への冒険心、一攫千金の夢、強敵との遭遇、何が待ち受けているかしらね。」


「姉さん、昔の癖が出ていますよ。もう私達は冒険者を引退した身なんですから自重して下さいね。今は町長なんですから、姉さんの身に何かあればこの町は大変です。」


 冒険者時代を思い出して興奮している町長を女将が注意する。

守る側のジルとしても勝手に動かれては困るので有り難い。


「分かっているわよ、でもワクワクするくらいいいじゃない。こんな体験今じゃ中々出来無いんだから。」


「それもそうですね。突っ走らなければいいですよ。」


「分かってるわ。」


 町長が暴走しないと約束して三人は更に奥へと進んでいく。

すると通路の壁に剥き出しになっている鉱石が幾つか見えてきた。


「これは温泉石か?」


「間違い無いわ、今までのと質が段違いよ!」


「それに大きいですね!これは効能にも期待出来ます!」


 二人が興奮した様に温泉石に近付いて撫で回している。


「かなりの数があるな。」


 ジルが周りを見回すと剥き出しになっている温泉石が沢山ある。

取り放題と言える程の量だ。


「かなり深いところまで来てるからかもね。これは是非持ち帰りたいわ!」


「そうだな、我への報酬にしてくれるんだろ?」


「こんな良品質のが見つかったのならしょうがないわね。それに数はまだまだあるみたいだし。」


 数が少なければ町の温泉に使いたいので譲るのは悩んだが、これだけあるなら数個譲ったところで問題無い。


「私達の方は今度採掘に来れば問題無いでしょう。どうぞ貰って下さい。」


「こんなにあるから複数個持っていってもいいわよ。予想外の事に付き合ってもらっちゃってるし。」


「そうか?なら遠慮無く貰っておこう。」


 ジルが壁から剥き出しになっている温泉石に触れて幾つか無限倉庫に収納する。

ぽっかりと壁に穴が空いたので崩れ防止として代わりの大岩を取り出しておく。


「姉さん、少しいいですか?」


「ん?どうかした?」


「これを見て下さい。」


 女将の手には先程まで握られていなかったピッケル、ピック、ハンマーなどがあった。


「掘削道具ね。かなり劣化しているけど。」


「やはり人が出入りしていた様ですね。」


 これらは地面に転がっていたらしい。

明らかに誰かがこの場所に来ていた証拠だ。


「でもこの道具の劣化具合、黒鋼岩による通路の封鎖、強力な魔物が住んでいた事等を考えると随分と時間は経っていそうね。」


 数年や数十年の規模では無さそうだ。


「我の回収は終わったぞ。先に進まないのか?」


「当然進むわよ。この先に何があるのか確かめるわ。」


 ジル達は鉱山を更に奥へと進んでいった。

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