元魔王様と魅了で敵対 6
ホッコとキュールネを連れてインプの目撃情報があった街道付近に到着する。
周りは崖に囲まれていて崖上までは見えないが周囲には見当たらない。
「では手分けして探すか。」
「インプはそれなりに強い魔物ですが危険ではありませんか?」
「ホッコもキュールネも高ランクの実力者だから問題無いだろう。大量のインプに囲まれでもしない限りは余裕の筈だ。」
魔法の扱いに長けている魔物と言っても更に魔法に特化しているディバースフォクスのホッコやAランク冒険者のキュールネの方が強い。
「そうですか。一応私はブランクがありますからあまり期待はしないでおいて下さい。」
「ブランクを感じる様な動きはしていなかったと思うがそう言う事にしておこう。まあ、気楽な気持ちで挑めばいい。」
「気楽な気持ちで挑める様な魔物では無いのですが、ジル様が言うとそう思えてしまうので不思議ですね。」
インプくらいなら万が一も起こらないくらいの実力がキュールネにはあったと認識しているので特に心配はしていない。
Sランククラスの魔物でも出てこない限りは問題無いだろう。
「主様主様。」
ホッコが服の裾を摘んでちょいちょいって引っ張って呼んでくる。
「どうしたホッコ?」
「インプってどんな魔物なの?」
可愛く首を傾げながらホッコが尋ねてくる。
どうやらインプを見た事が無いらしい。
「そうか、インプを知らなかったか。インプと言うのは人族の赤子くらいの大きさで、翼や尻尾を持ち身体全体が黒一色の魔物だ。そして人種への嫌がらせが大好きな性格の厄介な魔物だな。見れば直ぐに分かるだろう。」
魔法に長けている分嫌がらせが嫌がらせでは済まない事もあるので厄介な魔物として認知されている。
「補足しますとインプは魔法を得意としている魔物ですから、ディバースフォクスであるホッコ様と近しい戦い方をしてくると思っておけばいいかもしれません。」
「と言っても適性に関してはホッコの方が圧倒的に優秀ではあるけどな。」
ディバースフォクスであるホッコが得られる魔法適性はかなり高い。
どれも使い続ければ極級に至れる程に高い適性ばかりなのだ。
「そうなの?」
「ああ、インプの適性はそこまで高くは無い。使う魔法も基本的には上級魔法までだな。」
「上級魔法と言うだけで充分脅威なのですけどね。」
ジルはそこまで脅威と感じていないが普通の冒険者からすれば充分危険である。
こんなに警戒せずに近付ける冒険者の方が少ない。
「それならホッコでもいけそうなの!早速探すの!」
「それでは私はこちらを探します。」
ホッコとキュールネが別々の方向に偵察に向かう。
「そもそもいるのかと言う話しなんだがな。」
今回の依頼内容のインプは出現が確定している訳では無い。
見つからず無駄足になる可能性もある。
「いるかも分からない魔物をわざわざ足で探し回るのも面倒だ。我には空間魔法があるからな。空間把握!」
ジルは認識範囲を自分を中心にどんどん広げていく。
「ふむ、インプどころか魔物も殆どいないな。これは偽情報に踊らされたか?」
魔法の範囲を広げていくが魔物が範囲内に存在しない。
かなり範囲を広げているので中々異常な事である。
「ん?魔物が魔物を捕獲して運んでいる?しかも統率個体のオークジェネラルがこんなに。オークの集落でも形成されているのか?」
やっと魔物が認識範囲に入ったと思えば、オークの上位種であるオークジェネラルの集団がウルフを気絶させて持ち運んでいた。
これ程の上位種がいるとなると集落が形成されている可能性がある。
そのオーク達が進む先に認識範囲を広げていく。
すると先程まで全く魔物を認識出来無かったのだが、急に大量の魔物を発見した。
「周りに魔物がいないと思っていればこんな場所に固まっていたのか。多種多様な魔物がこれだけ同じ場所に集まっているのは異様な光景だな。」
オークやウルフだけで無く、他にも多種多様な魔物が同じ場所に揃っていた。
基本的に同種の魔物以外がこんなに行動を共にしているのは見ない。
「お、インプもいるではないか。そしてこの異様な光景の元凶もインプの様だな。成る程、魅了魔法か。」
魔物の中に見つけたインプだが、どうやら魅了魔法で他の魔物達を操っている様であった。
それならばこの異常な光景も納得である。
「他の魔物を操り手駒としている訳か。知恵を持つ魔物は面倒な事を企むからな。」
魅了魔法で多くの魔物を操っているなんて碌な事では無いのは明らかだろう。
その証拠に更に奥の方に巨大な魔物を発見した。
「成る程、魔物を使って餌を集めてあの魔物を育てているのか。あれはスワローフラワーか。放置すればこの辺りはあいつの餌場と化してしまうな。嫌がらせが好きとは言うが限度がある。」
巨大な魔物は木の様な太い幹が地面から伸びており、広範囲に開かれる花びらを支えている。
その花びらの中心にはギザギザの牙を生やした大きな口が開いており、周囲には手足の様に蠢く蔓が大量に生えている。
「さて、それなりにでかくなっているし放置すれば迷惑になるな。それに討伐対象のインプも近くにいる事だし、ついでに倒すとするか。あれ程の魔物ならインプとは別に報酬も期待出来る。」
ジルはインプを見つけたと報告する為に二人の後を追った。
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