元魔王様と聖女の魔法訓練 7
超級神聖魔法によって元の姿を取り戻せたエレノラは嬉しそうに自分の身体を見回して触っている。
「皆さん、本当にありがとうございました。このご恩は一生忘れません。」
無事に自分の元の姿を取り戻せたエレノラが目に涙を浮かべながら深々と頭を下げる。
「良かったねエレノラ。」
「私を引き取って下さったトゥーリ様のおかげです。これからは命を掛けてお守り致します。」
「それは有り難いけど、命は大事にね?」
「はい!」
これからは良き従者としてトゥーリの為に働いてくれるだろう。
「ふぅ、治せて良かったわ。」
一度失敗したので心底安心した様にグランキエーゼが呟く。
これからは魔法に慣れて患者をどんどん治していく事になる筈なので、不安なのは最初だけだ。
「さすがは聖女と呼ばれているだけあるな。今日中は無理かもしれないと思っていたのだが。」
「直ぐに極級神聖魔法も使える様になるかもしれないわね。」
ジルの与えたスキルの恩恵もあるが、グランキエーゼが必死に努力した賜物だろう。
神聖魔法の適性も高いので、いずれは極級神聖魔法に至る事も出来るかもしれない。
「勿論精進は欠かさないつもりよ。でも私だけじゃ使える様になるまでもっと時間が掛かっていたわ。ジル、貴重なスキルを譲ってくれてありがとう。」
「気にするな。」
グランキエーゼの差し出した手を取って握手に応じる。
本当に貴重でも何でもないので気にしなくてもいいと言うのがジルの気持ちだ。
「これで司祭に頼らずに済むわ。」
「早速ユテラ司祭に報告に行こうか。」
日も段々と沈んできているのでジル達はユテラのいる教会へと向かう。
エレノラの治療が済んだと知らないユテラは呑気にソファーで寛いでいた。
「ユテラ司祭、少しいいかしら?」
「おやおや、グランキエーゼ殿に皆さんまで。まだ時間はありますが諦められましたかな?」
ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら尋ねてくる。
「ふっ、見てみるといいわ。」
その顔を見てグランキエーゼがニヤリと笑いながら言うと、ラブリートの背に隠れていたエレノラが姿を現す。
「なっ!?」
その姿を見てユテラは驚愕の表情を浮かべていた。
先程見たエレノラの失われた片目や火傷跡が綺麗に無くなっていたからだ。
これはつまり治療が施された事を意味する。
「私が超級神聖魔法を使って治したの。もう貴方の好きにはさせないわ。」
「…それはおめでとうございます。」
何とか絞り出す様にユテラが言葉を発する。
「大司祭様に連絡を取るから覚悟しておきなさい。」
それだけを言い残して部屋を出る。
ジルが部屋を出る時にチラリとユテラの顔を見ると怒りの表情を浮かべていた。
「それじゃあ私はこれから忙しくなるからこの辺りで。」
「聖女様、本当にありがとうございました。」
「失礼するね。」
トゥーリとエレノラが礼を言うとグランキエーゼは教会の中へ戻っていった。
これから本国への連絡作業をするのだろう。
「さて、帰ろうか。」
「いや、それには少し早い。」
「そうね、それなりに実力はあるみたいだけど相手が悪かったわね。」
「「?」」
トゥーリが帰ろうと言うとジルとラブリートが教会の方を見ながら止める。
二人が何を言っているのか分からず首を傾げている。
「教会内に殺気を放っている者がいる。おそらく万が一を考えて口封じ目的でユテラが用意していたのだろう。」
「このまま帰ったらグランキエーゼちゃんが明日から突然行方不明にでもなってしまうかもしれないわね。」
「なっ!?」
「た、大変です!聖女様をお助けしなければ!」
それを聞いて二人は驚愕している。
恩人であるグランキエーゼがそんな事になると聞いては黙って帰る事なんて出来無い。
「エレノラは下がっていろ。治ったばかりで力不足だ。」
「こんなの私とジルちゃんだけで余裕よね。」
ジルの言葉にラブリートが手の関節をバキバキ鳴らしながら言う。
「二人いるな。どちらが先に捕まえるか競争といくか?」
「いいわよ。」
「「よーいどん!」」
まるで遊び感覚の様に二人が教会の中へと飛び込んでいく。
そしてシスターの悲鳴と犯人と思われる野太い悲鳴が外まで聞こえてきた。
「あっさりと解決してしまった様ですね。」
「あははは、あの二人は規格外だからね。それじゃあ暗殺者と元司祭を引き渡しに衛兵の詰所に馬車を向かわせてもらえるかい?」
「はい、お任せ下さい!」
ジルとラブリートが三人を拘束して出てきたが、ユテラは何も知らないと抗議していた。
それは嘘を見破る魔法道具を使えば分かると言って無限倉庫の中からジルが取り出してやると、諦めたのかガックリと肩を落として絶望の表情を浮かべていた。
そして訳が分からず教会から出てきたグランキエーゼが事情をトゥーリ達に確認したところ、自分が殺されそうになっていたと初めて知って驚愕していた。
散々お礼を言われながら罪人を引き渡す為にジル達は詰所に向かった。
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