元魔王様と王城襲撃 10
国王の言う通り、ジルは黒フードの集団が怪しいのではないかと睨んでいる。
強化薬の件については諜報部隊に調べさせて接敵もしているので完全に関わっていると思われる。
そして二人には話していないがエルティアの呪いもステファニアと同じく神聖魔法が必要なレベルの強い呪いであった。
そんな魔法道具を作れる者も限られてくるので、何かと突出した力を持つ黒フードの者達が作成した可能性はある。
更に王族側から齎された情報によってエルフかダークエルフが黒フードの一味にいる事が分かった。
操られているのか正式な仲間なのかは分からないが、これならエルフの里に入る事も可能かもしれない。
それに高ランクの魔物を従えるテイマーの女をジルはスタンピードの際に魔の森で目撃している。
エルフに里への道を開かせて魔物を手引きした可能性がある。
何が目的かまでは分からないが黒フードの者達はこの国の王族の命とエルフ族を狙っているのかもしれない。
ハイエルフのエルティアはかなりの実力者だが、相手があの集団と言う事を考えると常に万全の状態にしておくに越した事は無い。
「しかし相手を推測出来ても手の出しようが無いのが現状か。」
黒フードの者達の居場所までは特定出来ていない。
毎回追跡を試みようとしても直ぐに撒かれてしまう。
「後手に回るが見つけ次第捕らえるしか無いだろうな。後は実力のある高ランク冒険者達に働き掛けるくらいか。」
現状黒フード達を追っているのはジルや王族だけかもしれない。
それでは圧倒的な人数不足だ。
確保したいのであればもっと人数や情報が欲しいので、協力者を増やすべきだろう。
「高ランク冒険者か。何人か信用出来そうな者達に当たってみるか。」
「ですが父上、相手はAランク以上の強者ばかりです。生半可な実力では死者を増やすだけになってしまいます。」
ジルの情報では国家戦力とまではいかないものの、冒険者の上位ランクの者達以上の強さを持つと言うのが分かっている。
スタンピードの際も前線にいた高ランク冒険者達が何人も殺されているので、その実力の高さが窺える。
「最低限Aランク冒険者以上でないと厳しいだろうな。王都にはどれくらいいるんだ?」
「数十人と言ったところか。王国で最も多く集まっていてこの人数だが、これでも全く足りんな。各街のギルドのAランク冒険者やそれに並ぶ実力者達にも呼び掛けるとしよう。そうすれば捜索範囲は一気に拡大する。」
拠点も分からないので闇雲に王国中を探し回ってくれる者はいないだろう。
それでも王国中に黒フードの情報を持つ者が散っていれば、どこかしらで出会う可能性はある。
「早速手配します。」
「我も何か情報を掴んだらトゥーリ経由で報告しよう。」
ジルとしても二度も逃げられているので捕まえたい気持ちがある。
「大いに期待しておるぞ。」
「ジル、長々とすまなかったな。私は早速ギルドへ向かうから失礼するぞ。」
「王子自ら行くのか。」
エトワールが退出した事でその場は解散となった。
国王と軽く言葉を交わしてジルも部屋を後にする。
トゥーリ達が先に外で待っている筈なので、ジルも外を目指す。
「これは、迷ったか。」
通路の端に飾られている高そうな絵画や花瓶は先程も見た気がする。
広過ぎる城内に出口が分からなくなってしまった。
「いっその事どこかの部屋から飛び降りるか?」
二階や三階から飛び降りたくらいでは怪我すらもしない。
手っ取り早く外を目指すならそれが簡単だ。
「何やら不穏な台詞を呟いていらっしゃいますわね。」
「お前はさっきの帝国の姫か。」
声を掛けられて振り向くとガーデンエリアでステファニアと共に助けたもう一人の姫がそこにいた。
「ステリアルですわ。何やらお困りの様子でしたので。」
「外への出口が分からなくてな。」
「それでしたら私が案内致しますわよ。こちらですわ。」
ステリアルがそう言って歩き出したのでジルはその後に付いていく。
「隣国の皇女なのに随分と詳しいんだな。」
「今は客人として城でお世話になっていますの。何日も過ごしていれば城内の構造も覚えられますわ。」
どうやら今日だけ城を訪れたと言う訳では無いらしい。
「ステリアルもエトの生誕祝いに来たのか?」
「そうですわ。帝国を代表してお祝いに駆け付けましたの。王国とは隣国として古くからお付き合いがありますから、お互いの祝い事には積極的に参加しているのですわ。」
そう言われるとステファニアとも随分と仲が良さそうに感じた。
ステリアルの言う通り昔から交流があるのだろう。
「到着致しましたわ。」
「悪いな、助かった。」
「いえ、こちらこそ先程は危ないところを助けて頂き感謝していますわ。」
ステリアルがドレスを持ち上げてカーテシーで礼をしてくる。
「有能な冒険者である貴方と知り合えて良かったですわ。また是非お会いしたいものですわね。」
「隣国の皇女と会う機会なんてそうそう無いと思うけどな。」
ジルの活動拠点は王国であり基本的にはセダンの街からもあまり出ない。
隣国なんて行く機会があるのかも分からない。
「それは分かりませんわよ?未来は無限の可能性を持っているのですわ。無関係と思われる者同士の道も、自然と交わる事もありますの。」
そう呟くステリアルはまたジルと会える機会があると思っている様だ。
「ジル君ー、置いていくよー。」
「呼ばれている様だ。それじゃあな。」
「はい、またいずれ会える事を楽しみにしていますわ。」
走り去っていくジルの背中をステリアルは笑顔で見送った。
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