元魔王様と王城襲撃 7

 城内に入ると騎士や貴族の護衛が多くの賊を縛り上げて連行していくところだった。

これから一人一人に尋問を行ったり、犯罪奴隷にしたりと大忙しとなるだろう。


 襲撃騒ぎがあったので生誕祭は急遽解散となり、招待客は王族に挨拶を済ませた者から徐々に帰っていく。

そんな中王族達と共に帰る者を見送っているジル達はまだ帰る事が出来無い。


見送りが終わった後、ステリアルと別れてジル達は豪華な応接室に招かれる。

王族とジル達の他にはトレンフルのダンジョンで見たエトワールの付き人達や数名の騎士がいるだけだ。


「それでは情報を整理しようか。ラブリート殿の尋問のおかげで敵を送り込んできたのが伯父上である事は分かった。」


「兄上め、ついにやってくれたな。」


「王の座を奪われたとずっと憎まれていましたからね。」


 エトワールの言葉に国王が溜め息を吐き王妃が悲しそうに呟く。

身内の暴走を止められず犯罪者を生み出してしまったのは少なからず王族にも責任がある。

犯罪者としてしっかり自らの手で罰してくれるだろう。


「でもお祖父様は慧眼でしたね。こんな事をする人を王にしていたらこの国は直ぐに滅びてしまうわ。」


「この国の王としても容赦するつもりは無い。」


 親族ではあるが今回の王城襲撃を行った者を王族達は許すつもりは無い。

誰もが既に罰するべき敵と認識している。


「まあ、それは王族同士で対処してちょうだい。武力が必要になったら協力はしてあげるわ。」


「感謝する。」


 ラブリートの言葉に国王が頭を下げる。

国家戦力のラブリートがいるだけでどんな相手とでも戦える。

相手が戦力を整えてきて戦争になっても安心である。


「それとデレム公爵ですが争いに紛れて姿をくらませました。周辺を捜索したのですが姿は見つけられませんでした。」


 トゥーリが王族達に報告する。

騒ぎがある程度収まった後にラブリートと共に城周りを見回ったのだが首謀者は見つからなかった。

後で聞いた話しだが今回の騒動を起こした国王の兄と言うのがデレムと言う名前の公爵らしい。


「そうか、ご苦労だったなトゥーリ伯爵。後はこちらで引き受けよう。」


 国王が軽く目配せすると待機していた騎士達が部屋を出ていく。

これからデレム公爵を探す大規模な捜索が行われるのだろう。


「ステファニア王女の方はどうだったのかしら?」


 城内の制圧をしていたラブリート達は野外の様子を知らないので尋ねる。


「リア姉様とお話ししていたところを急に襲われました。騎士の皆さんが守ってくれましたが、段々と劣勢になってしまってもう駄目かと。」


 先程は本当に死を覚悟した。

それだけ自分を殺そうとしている者達が強かった。


「その時にジルちゃんが駆け付けてくれた訳ね?」


「はい、格好良かったです!」


 ラブリートの質問にステファニアが嬉しそうに答える。

あと少し遅かったら自分の命は無かったかもしれないので、駆け付けてくれたジルが心の底から格好良く思えた。


「ジルに頼んで正解だったな。」


「親として礼を言わせてくれ。」


 後々その事を知った国王が改めて礼を言ってくる。

他の王族達も国王に続いて頭を下げる。

ステファニアを守ってくれた事に家族として心から感謝していた。


「エトが報酬をくれるから気にしなくていいぞ。」


「はっはっは、後で必ず用意しよう。」


 エトワールが上機嫌に言う。

しっかりと仕事を果たしてくれたジルには相応の報酬を渡すつもりだ。


「他にはガーデンエリアで何もなかったのかい?」


「我は賊と戦闘をしたくらいだからな。…そういえば賊が怪しい薬を使っていたな。」


 トゥーリの質問に先程の事を思い出して答える。

その中で気になった物と言えばあの非合法な薬だ。


「薬?」


「万能薬に似た丸薬の様な物だ。服用すると寿命を削る代わりに自信を大幅に強化出来るらしいぞ。」


 賊の言っていた事をそのまま伝える。

真実かは分からないが尋常では無い強化だったので、かなりの副作用があるのは間違い無いだろう。


「まさか強化薬か!?」


 ジルの言葉を聞いた国王が驚愕している。


「強化薬?」


「ああ、数年前から稀に出回っている悪質な薬だ。使用者が死ぬ代わりに周りに甚大な被害を及ぼす。」


 どうやら王族も薬の存在は把握している様だ。

先程の賊以外でも何度か使用されているのが目撃されており、その度に周りにかなりの被害を出していたらしい。


「出所は掴んでいるのですか?」


「服用者では無いが正体不明の集団が度々その現場で目撃されている。我々は影と呼んでいる。」


「分かっている共通点はその者達が事くらいだ。他は殆ど詳細が分っていない。」


 国王の言った者達に心当たりしかないジルだった。

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