元魔王様と王都ジャミール 3
盗賊団を壊滅させてアジトのお宝も回収し終えたジル達は再び王都を目指して進む。
しかし縄で縛った奴隷達は歩きなので進行速度は格段に落ちてしまった。
それでも時間を掛けて進んでいき、王都の城壁が見える場所までやってきた。
ここまでくると街道の人通りも増えてきて、大量の盗賊を従えるジル達に自然と視線が集まる。
しかし見るからに豪華な馬車に話し掛けてくる者はいない。
「やっと到着か。」
「と言っても生誕祭まではまだ時間あるけどね。」
途中で休みながらのゆっくりとした進行だったのだが、余裕を持って出発した分早めに到着出来た。
「こんなに寄り道したのにまだ余裕があるのか。ふむ、今日は何をして時間を潰すか。」
「特に決まっていないなら私に付いてくるかい?」
ジルが思案しているとトゥーリがそう提案してくる。
「トゥーリは何か予定があるのか?」
「一先ず盗賊達を奴隷商館に連れていくとして、その後に少し奴隷を見ようかと思っていてね。」
捕まえた盗賊達を犯罪奴隷として引き渡さなければ行動が制限されたままになるので早速奴隷商館に向かう予定だ。
その時にせっかくなので良い奴隷がいないか見るらしい。
「あら、奴隷を購入するの?」
「見てから決めるよ。王都の奴隷商館は人材も豊富で思わぬ逸材がいたりするらしいからね。それと君達には盗賊達を売った代金からある程度生活費を渡すから今後の為に使ってね。大変だとは思うけど私にはこれくらいしか出来無いからさ。」
トゥーリが馬車に乗せた捕えられていた女性達に申し訳無さそうに言う。
これに関しては実際に盗賊を捕えたジルやラブリートとも既に話してあって許可を得ている。
盗賊達は予想外に多くの盗品を持っていたので、山分けしてもそれなりの金額になる為、不遇な扱いを受けてきた彼女達に当面の生活費を出したいとトゥーリが提案した。
ジルとラブリートも可哀想だとは思っていたのでその提案に賛成したのだ。
「い、いえ。貴族様にそこまでして頂けるなんて感謝しかありません。」
既にトゥーリが伯爵と言うのは説明済みなので女性達は深く頭を下げている。
普通ならそのままその場で解放されてもおかしくはない。
トゥーリの様に世話をやいてくれる貴族は珍しいだろう。
「もし王都で職に就けず困ったらセダンの街においでよ。職くらいなら私が幾らでも紹介してあげるからさ。」
「ありがとうございます。」
「さすがは領主、人身掌握はお手のものか。」
「私を腹黒くするのはやめてくれないかな?」
失敬だと言わんばかりにジト目を向けてくる。
セダンの街はジルが広めた異世界の料理で人が増えて人材不足なのだ。
来てくれるのであれば是非雇い入れたい。
「話しを戻すね、その後はスリープシープの素材を加工してもらう作業を行うつもりだよ。間に合うなら殿下に献上したいしね。」
珍しい魔物なので王族でも素材を手に入れる機会は中々無い。
献上品としては充分だろう。
「予め献上する品を持ってきていなかったの?」
「用意は当然してきているよ。でもスリープシープの素材があるならそっちの方が喜ばれるだろうからね。」
「そんなに良い物を贈られたら私の素材が霞んでしまわないか心配だわ。」
ラブリートが不安そうに呟く。
一応招待枠では無く護衛として参加するのだが、王族と面識はあるのでエトワールのお祝いはするらしい。
なのでラブリートもエトワールに渡す為の品を用意してある。
「こう言うのは気持ちだから何でも喜んでくれるさ。ジル君は何を渡すんだい?」
トゥーリが少しワクワクした様子で尋ねてくる。
ジルがどんな物を用意したのか興味があるのだろう。
「それは渡す決まりなのか?」
「…まさか何も用意していないの?」
「そんな話しは聞いていなかったからな。」
ジルの言葉にトゥーリが冷や汗を流す。
王族に招待されておきながら手ぶらは非常にまずい。
エトワールはそんな事を気にしないかもしれないが普通は何かしら持参するものだ。
「普通は目上の存在にそう言った催しに招かれたら何かしら用意するものだよ?」
そう言われて魔王時代を思い出すと確かに贈り物は沢山貰っていた記憶がある。
贈るよりも贈られる事の方が圧倒的に多かったので頭から抜け落ちていた。
「王侯貴族に媚びないジルちゃんらしいけれど、殿下には何か贈った方がいいと思うわね。わざわざ招待してくるくらいだし、ジルちゃんに会えるのを楽しみにしている筈だもの。」
「ふむ、ならば無限倉庫にある物から何か贈るか。」
ジルとしても贈り物をするくらいなら構わない。
無限倉庫には前世からの様々な物が収納してあるので何かしら贈り物に合う物は見つかるだろう。
「収納スキルがあって助かったね。まあ、私の贈り物を譲ってもよかったんだけど。」
「これはとんでもない贈り物が出てくるかもしれないわね。」
ジルが何を贈るのか気になるトゥーリとラブリートだった。
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