元魔王様と王都ジャミール 2
盗賊から聞き出したアジトに向かうと洞窟の入り口に見張りが見える。
どうやら先程倒した盗賊が全てでは無かった様だ。
「ジルちゃん、ここには私達しかいないんだから火魔法以外も使えるわよね?」
「使ってもいいが使う程のものか?」
ジルとラブリートと言う盗賊相手にしては過剰戦力過ぎるコンビなので魔法を使うまでも無いと感じる。
「倒す為じゃないわ。ちょっと中を調べてほしいのよ。大規模な盗賊ってなると人攫いもしている可能性があるから。」
「成る程。」
ラブリートは中に捕えられている人がいるかどうかを知りたかった様だ。
言われた通り中の様子を調べる為に空間把握の魔法を使用する。
「洞窟内にはかなりの人数がいるな。おっ、おそらくこれが捕えられている者達だろう。檻の中に入れられているな。」
認識出来る範囲を徐々に広げていき、洞窟の全容を範囲内に収めた。
檻に入れられている者達の場所も分かり、ついでに直ぐ隣りの宝物庫の様な場所も見つけた。
盗品がそれなりの数あって良い稼ぎになりそうだ。
「やっぱりいたわね。そうなると外側からの大規模な攻撃は出来無いわ。その子達まで巻き込まれてしまうから。」
「いなければどう言う作戦にしたんだ?」
「私が入り口を崩落させて生き埋めか、ジルちゃんの火魔法で火炙りにしていたわね。」
「容赦無いな。」
どちらも盗賊を皆殺しにする様なやり方だ。
生かすつもりは欠片も無い。
「盗賊に慈悲なんて必要無いのよ。」
取り逃がせば別の場所で犠牲者を生む事になる。
盗賊は百害あって一利無しなのだ。
「だが生かして捕えた方がいいと言ってなかったか?」
「人数が増える程進行速度は落ちてしまうから更に増えるなら全員でなくてもいいの。充分捕まえてるし半分もいらないわ。時間はあっても無闇に伸ばして沢山野宿なんてしたくないもの。」
「ラブリートの都合か。」
盗賊達のせいで王都に着くのが遅れるのを嫌がっている。
野宿は肌に悪いので早く王都に到着して湯浴みや質の良い睡眠を手に入れたいのだ。
「それじゃあさっさと片付けましょうか。」
ラブリートが両足を魔装して目の前から消える。
一瞬で見張り達の目の前まで移動して、目にも止まらない速さで腹に拳を埋める。
見張り達は何が起きたのか認識する事も出来ずに突然の痛みで意識を手放す。
「さすがの速さだな。」
「このままどんどんいくわよ。」
二人は洞窟の中に入って道なりに進んでいく。
すると分かれ道に差し掛かる。
「二手に分かれているわね。」
「こっちに盗賊の大半がいる。こっちは檻と宝物庫だな。」
事前に空間把握を使用していたので洞窟内は全て認識出来ている。
なのでどちらに何があるのかも分かっている。
「それなら私は盗賊の殲滅を担当するわ。救出と回収は任せたわよ。」
「分かった。」
ラブリートと別れると直ぐに打撃音や悲鳴が聞こえてくる。
一方的な虐殺が早速始まった様だ。
ジルも今の内に仕事をしようと道を進んでいくと檻の前に見張りの盗賊が一人立っているのが見えてくる。
「っ!?てめぇ、一体どこぐはっ!?」
「黙ってろ盗賊が。」
ジルが近付いて盗賊を蹴り飛ばす。
吹き飛んだ盗賊が壁に激しくぶつかって身体が変な方向に曲がっている。
そんなに力を込めてはいないのだが、ジルと盗賊の実力差がそれだけあったのだろう。
「我は盗賊では無いから怯えなくてもいいぞ。っていきなり言われても信じられないか。」
檻の中に捕えられていた女性達が盗賊を殺したジルを見て怯えている。
盗賊達に酷い扱いを受けてきたのだろう。
恐怖や怯えと言った感情が伝わってくる。
ジルが銀月を鞘から抜くと皆がビクリと身体を震わせるが、当然女性達を傷付ける目的で抜いた訳では無い。
銀月を振るって檻を斬り落とす。
その行動で助けてにきてくれたのだと分かってもらえた。
「これで出られるだろう。…その前にこれを身に付けておけ。」
女性達の衣服はボロボロで人前に出す格好では無かった。
無限倉庫から取り出した簡易的な服を渡してやる。
「あ、ありがとうございます。」
「ぼ、冒険者様ですか?」
「ああ、盗賊は今頃全員倒されているから安心していいぞ。」
つい先程から遠くで聞こえていた悲鳴も止んでいるので、もう既に殲滅済みだろう。
女性達が着替えている間に盗品の回収を行う。
それなりに大きな盗賊団だったので被害者は多かったのだろう、回収した盗品は中々の金額になりそうだ。
盗品の回収を終えて着替えた女性達と共に別れ道のもう一方に向かうと盗賊は全て倒れており、ラブリートが縄を持って生きている盗賊を縛っていた。
「ジルちゃん、縛るの手伝ってもらえないかしら?」
「分かった。」
倒すのは一瞬だったみたいだが縛る方に時間を取られているラブリートだった。
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