元魔王様と強制睡眠 2
今日は王都に出発する為に領主の屋敷に集合する様に言われた日だ。
朝早くから起きたジルは瞼を擦りながら向かっている。
「こんなに早くなくてもいいと思うんだがな。そう思わないか?」
「クォン。」
ジルが尋ねると肩に乗るホッコが頷いている。
一昨日仲間達に王都に行く事を話したのだが、案の定シキは浮島での研究や実験に忙しくて残りたいと言ってきた。
なのでシキの従魔であるライムや護衛のナキナ、その従魔である影丸も残る事になった。
そんな中でホッコだけは共に行きたいと言ってきた。
従魔である自分は主であるジルと共に行動したいと王都行きに同行する事になったのだ。
「お、もう揃っているみたいだな。」
遠くに見えてきた領主の屋敷の前にトゥーリやラブリートがいるのを確認する。
「遅いよジル君。」
「ジルちゃん、おはよう。」
「これでも早起きしてきたんだぞ?そもそもこんなに早く出発する必要があるのか?」
ジルが欠伸をしながらトゥーリに尋ねる。
まだ日が登って間もない時間帯であり街も随分と静かだ。
「天候の良い日中が一番距離が稼げるんだから早朝に出発するのは当然だよ。雨が降って地面がぬかるんだり、視界の悪い夜は危険だからあまり進みたくないしね。」
状況を見て進行を中止する日もある。
トゥーリとしては安全第一で向かいたい。
「冒険者なら依頼でもそう言った考えの元で動くから野宿とかも多いんだけど、ジルちゃんには当て嵌まらないみたいね。」
「夜に野外にいる事が少ないからな。依頼は日中で済ませて街中にいる事が殆どだ。」
依頼を受けても必ず門が閉まる前には帰る様にしている。
美味しい食事を満足するまで食べてベッドの上で安眠する為には野宿なんてしている暇は無いのだ。
「さすがジルちゃんね。でも誰もがジルちゃんみたいに素早く依頼を終わらせられる訳じゃ無いのよ?」
イレギュラーな事態や難易度の高い依頼になる程日帰りなんて出来無くなる。
なので依頼を受けた冒険者は野宿前提で動く者が大半だろう。
「だがラブリートなら出来るだろう?」
「当たり前じゃない。お肌に悪いから野宿なんてしたくないわよ。毎日しっかりと屋根のある場所で眠りたいもの。」
ラブリートも夜は街にしっかりと帰ってきている様だ。
理由は違えどそうする事の出来る実力が備わっていると言う事だ。
「はぁ~、非常識な護衛ばかりだと苦労しそうだね。お願いだから、雇い主の言う事は聞いてよ?」
どちらも戦力的に見れば申し分無いのだが、普通の冒険者達とは明らかに違う。
自分に扱えるのかとトゥーリは出発前から不安であった。
「どうかしら、状況次第ね。」
「我は気に食わないと思えば無視するぞ。」
「はぁ~、本当に先行きが不安だよ。」
二人の返答に再度大きな溜め息が出る。
しかしこの二人が揃っている時点で安全は確約された様なものなので、多少の事には目を瞑るべきだろう。
「一先ずメンバーを紹介しようかな。ジル君とラブちゃんについては伝えてるから私が連れていくメンバーをね。」
トゥーリがそう言うと後ろで控えていた二人が前に出て軽く会釈をしてくる。
鎧を身に付けた美人な女性騎士と、メイド服を着た可愛らしい女性メイドだ。
「この二人は今回の旅で御者と世話役として付いてきてくれる二人だよ。」
「セダン伯爵家騎士団所属、騎士のシズルです。今回は御者を務めさせて頂きます。お二方、宜しくお願い致します。」
騎士礼をしながらシズルが自己紹介する。
言葉遣いは固いが優秀そうな印象は伝わってくる。
「トゥーリ様のメイドを務めているキュールネです。皆さんのお世話をさせて頂く予定です。宜しくお願いしますね。」
こちらは接客に慣れていると言った印象だ。
落ち着いた雰囲気が伝わってくる。
「ああ、宜しくな。」
「随分と丁寧な騎士とメイドね。」
ラブリートが二人を興味深そうに見ている。
「君達は冒険者で護衛だけどこちら側から粗相があって今後の関係性の悪化なんてのは御免だからね。教育が行き届いている貴族の子を選抜しておいたのさ。」
トゥーリにとっては王子の生誕祭も重要な事だが、それに続いて二人との関係も重要である。
道中で二人との間に問題が起きるなんて事は絶対に無くしたい。
なので少しでも可能性を排除する為に相手に配慮出来る人選をしてきた。
貴族や冒険者と言った身分に縛られず、柔軟な対応が出来る者こそ今回の同行者に相応しいとトゥーリは思った。
「我々は確かに貴族ですが、お二方が気にする必要はありません。我々はどちらも男爵家の出であり、家督は継げませんから。」
「なのでどうか気軽に接して下さい。」
家督を継げない貴族出身の者は家の為に政略結婚する以外にも、上位の貴族の元で騎士や側仕えとなる者も多い。
仕える相手次第では元の暮らしよりも良い環境になる可能性もある。
トゥーリの下なら二人も良い暮らしが出来ているだろう。
「さて、長話ししてたら早起きの意味が無い。早速出発しよう。」
立ち話しを切り上げてトゥーリが合図すると四人が豪華な馬車に乗り込み、シズルが御者台に乗って馬を走らせて出発した。
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