元魔王様とエルフの里 7
超級火魔法の火力によってギガントモスの巨大な羽は一気に燃え広がる。
「キシー!?」
燃え盛る火を消そうと激しく羽を動かしているが、そう簡単に消えたりはしない。
弱点の火が身体をどんどん浸食していき、たまらず巨大な水球を生み出す。
「させるか、フレイムエンチャント!」
ジルは銀月を火魔法で強化して、水球目掛けて一閃する。
熱を帯びた斬撃が水球目掛けて向かっていく。
斬撃は水球に直撃して爆発し、殆どの水を蒸発させる。
消火に使う分の水は消されてしまった。
「キシー!」
再びギガントモスが水球を生み出して消火を試みる。
「そんな余裕がお前にあるのか?」
ジルは上を見上げながら呟く。
そのタイミングでビシッと言う何かにヒビが入る様な大きな音が辺り一帯に響いた。
「よそ見とは良い度胸。軽視される程、この攻撃はあまくない。」
ヒビはエルミネルの手元から鳴った音だ。
ギガントモスが張った断絶結界にエルミネルが攻撃を加えており、その部分から大きなヒビが入ったのだ。
それは徐々に広がり面積を増やしていく。
「火を消すか結界に集中するか選ぶといい。」
ギガントモスは究極の選択を迫られている。
エルミネルの攻撃を防ぐ断絶結界に魔力を注いで強化すれば、身体を燃やす火は放置する事になる。
そして身体の消火を優先すればエルミネルの攻撃が結界を割ってしまうだろう。
ギガントモスは逡巡する事も無く、身体の周りに大量の水球を生み出した。
自身を蝕む火を一早く消す事が最優先と判断したのだ。
「さすがにこの量は対処が難しいか。」
ジルは消火の妨害の為に火矢を放って水球を爆破させていくが、あまりにも数が多くて間に合わない。
火矢を逃れた水球が羽にぶつかり火を鎮めていく。
「絶対に終わらせる。これ以上同族も世界樹も傷付けさせない。」
エルミネルの両手に更に魔力が集まる。
可視化出来る程の魔力が集約されていく。
「砕けろ!」
消火に集中しているギガントモスの頭上にあった断絶結界が砕け散る。
エルミネルの攻撃力に耐えられなかった。
そしてその勢いのまま直ぐ下にいるギガントモスの頭にエルミネルの身に付けるガントレットが直撃する。
「貫く!」
「キシー!?」
ギガントモスは魔装で防御力を高めてエルミネルの攻撃を受け止める。
さすがは強化されたSランクの魔物だ。
簡単に倒されてはくれない。
「羽を火に焼かれ激しい攻撃を受け止めるのに精一杯の様だな?」
その声は世界樹の方から聞こえてきて、ギガントモスの視界に映ったのは居合いの構えを取るジルの姿だった。
「抜刀術・断界!」
火魔法により強化された居合いがギガントモスを襲う。
エルミネルの攻撃を防ぐのに精一杯のギガントモスはジルの攻撃に回す魔力が無かった。
なので火魔法による斬撃を防ぐ事は出来ず、身体に大きな焼き斬り傷が刻まれる。
「キシー!?」
「こっちも終わらせる!」
ジルの攻撃により魔装が緩んだ一瞬の隙を見逃さず、エルミネルが腕を押し込む。
ギガントモスの頭部を焼きながら腕が徐々に埋まっていく。
そして膨大な魔力に耐えられなくなったガントレットがそこで破裂した。
「キ…シ…。」
弾けたガントレットの破片がギガントモスの頭の中に突き刺さる。
火魔法で強化されていた事もあり、内部からダメージを与えてくれた。
それが最後の決め手になったのかギガントモスが落下し始める。
エルミネルがギガントモスを蹴って世界樹に飛び移ると、数秒後にギガントモスが地面に激突した。
「やった?」
「ああ、倒せてるな。」
万能鑑定を使って確認したので間違い無い。
ジルとエルミネルが協力した事により、強化されたギガントモスを討伐する事が出来た。
「よかった。」
エルミネルが一息付いて呟いた。
エルフにとってなくてはならない世界樹をなんとか守る事が出来た。
「ジル、このままだと燃え広がっちゃう。でも水魔法使えない。」
ギガントモスの身体がジルの火魔法によって燃えている。
このままでは世界樹まで引火してしまうかもしれないとエルミネルが慌てている。
「安心しろ、こうすれば火も消える。」
ジルがギガントモスの巨体を無限倉庫のスキルを使って収納する。
燃えていた物が無くなったので火も自然に消えた。
「これで一安心。」
「世界樹は大丈夫なのか?」
ギガントモスは討伐出来たが、随分と魔力を吸われてしまった。
そのせいで一部枯れている部分もある。
「世界樹は周囲の魔力を少しずつ蓄える性質を持ってる。だから自然に戻ると思う。」
「それなら大丈夫だな。」
また暫くすれば魔王時代に見た様な美しい世界樹の姿を取り戻せるだろう。
「ジル、ありがとう。世界樹が無事なのはジルのおかげ。」
「エルミネルもよく働いていたぞ。取り敢えず報告に向かわないか?」
「分かった。」
エルフの里から危機が去った事を伝える為に二人は里の外に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます