元魔王様とエルフの里 6
周囲に凶悪な熱を振り撒きながらギガントモスを襲うジルの火魔法だが、全く本体が燃える気配が無い。
不思議に思ったエルミネルが世界樹を少し登って上から見下ろすと、ギガントモスの直前で火魔法が防がれているのに気付く。
「ジル、当たってない。」
「なんだと?」
放った強烈な火魔法によって接触部分が確認出来無い。
ジルは心眼のスキルを使用して周囲の情報を得る事にする。
スキルによってギガントモスに火魔法が届いていないのが分かった。
そしてその正体についてもだ。
「ちっ、結界魔法だと?面倒な事をしてくれる。」
ジルは火魔法を放つのを止める。
これでは超級火魔法を幾ら放っても魔力を失うだけだ。
「結界魔法?ギガントモスが使った?」
「ああ、あれは断絶結界だ。我の火魔法が完全に防がれてしまった。」
見間違える訳が無い。
転生してから結界魔法を多用しているジルからすれば、かなり身近な魔法である。
断絶結界も使用する機会が多いので、その特徴や強度はよく理解している。
「特殊魔法持ちの個体?」
「いや、おそらく原因は世界樹の魔力だろう。」
そう言って上を見上げる。
どこまでも高く聳え立ち存在感を放つ世界樹は、その見た目に劣らず膨大な魔力を内包している。
元魔王ジークルード・フィーデンを除けば、おそらく世界で一番魔力を持っているだろう。
「ギガントモスは元々魔法に長けた魔物だ。それが膨大な世界樹の魔力を吸収して成長した事で、扱える魔法が増えたのかもしれない。」
「Sランクの魔物なのに厄介。」
「全くだな。」
SSランクと言うものは存在しないが、扱える魔法の種類が増えたギガントモスの特殊個体と言ったところだろう。
魔物としての強さがあまり変わっていなくても、扱える魔法が増えただけで厄介差はかなり上がった。
「仕掛けてこないけどどうする?」
「我の火魔法を警戒しているのだろうな。」
さすがに超級火魔法が直撃すれば無事では済まないのだろう。
結界魔法で必死に守っていたのがその証拠だ。
「結界魔法で守ってくるのであれば、多方面から同時に火魔法を浴びせれば済む話しだ。」
断絶結界は広く展開する程強度が落ちる。
なので先程のジルの超級火魔法だけを防ぐ様に狭い範囲で展開されると強度が高く突破も難しい。
なので手分けして弱点である火魔法をぶつけるのが効果的だと判断した。
「でも魔法は使えない。」
エルミネルは純血のエルフでは無く、エルフと獣人のハーフだ。
故に種族的特徴の複数の魔法適性を受け継いでおらず、魔法の適性が無い。
なので火魔法どころか魔法は一切使えない。
「我が使わせてやる、これを装備しろ。」
ジルが無限倉庫から取り出したガントレットを渡す。
エルミネルは不思議そうにしながらも言われた通りに手に嵌める。
「フレイムエンチャント!」
ジルが両手のガントレットに触れながら上級火魔法を使用するとガントレットが熱を帯びる。
「おー、魔法が付加された。」
「我から離れているから長くは保たないけどな。」
エルミネルが興味深そうに手を握ったり開いたりしている。
自身の装備するガントレットが火魔法で強化され、まるで魔法を扱っているみたいで嬉しいのだろう。
「キシー!」
「火魔法に警戒しているな。エルミネルは囮だ。それを思い切りギガントモスにぶつけてこい。」
これで火魔法の同時攻撃の条件が整った。
初級火魔法であの嫌がりようだったので、上級火魔法なら充分ダメージは与えられるだろう。
「全力?ガントレット壊れると思う。」
「構わん、使い捨てにしていいから全力で打ち込んでこい。」
いつ手に入れたかも分からない物であり、持っていても使う機会なんて無い。
ギガントモスを倒せるなら安過ぎる損失だ。
「分かった、全力出す。」
そう言い残してエルミネルは世界樹を一気に駆け上がる。
「両手は疲れる。でも威力は何倍にも跳ね上がる。」
エルミネルの両手に膨大な魔力が集約されていく。
普段は片手片足だけだが今回は両手が魔装されており、この一撃で決めるつもりの様だ。
「本気の一撃、覚悟する。」
ギガントモスよりも高い位置から世界樹を蹴って上から特攻する。
ガントレットから火魔法による強化付加とエルミネルの膨大な魔力によって悲鳴を上げる様に異音が鳴っているが、今は全力を出す事にだけ集中する。
「武闘術・双手式、大砕牙!」
最大限まで強化された二つのガントレットがギガントモスに迫る。
弱点である火魔法の強化までされているのでギガントモスとしては無視出来無い。
「キシー!」
ジルの狙い通り、ギガントモスは上方向に結界魔法を使用して断絶結界を展開する。
エルミネルの攻撃を結界が受け止めた瞬間、激しい衝撃が周囲に轟き特大の火花を散らす。
「ぶち抜く。」
囮と言われたがエルミネルはギガントモスに直撃させるつもりだ。
それだけの威力は秘めており結界も軋んでいる。
ギガントモスも割られない様に結界の維持に魔力を注ぎ込んでいる状態だ。
「おいおい、先程超級火魔法を放った我は放置でいいのか?」
結界の維持に気を取られていたギガントモスは、ジルを完全に放置してしまった。
直後ギガントモスの片方の羽がジルの放ったインシネレートによって激しく燃え上がった。
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