【毎日更新】元魔王様の2度目の人生

元魔王様と天使族の襲来 9

　暫く銀月と光剣で打ち合っているとライエルの持つ光剣の光りが徐々に弱まり、一回り小さくなった様に感じられる。

そして戦い始めた頃から幾度となく飛んできていた光剣も今では殆ど仕掛けてこない。

「どうやら本当に魔力が尽きそうだな。」

　ライエルの表情は魔力量を悟らせない為か変化は無い。

だが明らかに消耗しない様な戦い方に切り替わっている。

「想像は勝手にするといいさ。」

　光剣を構えてジルに斬り掛かってくる。

銀月で受け止めるが最初に戦っていた時と比べても随分と軽い攻撃だ。

「威力不足だ、な！」

「っ！？」

　ライエルの光剣を弾き飛ばしてジルが懐に入る。

空いている左手で腹に拳を叩き込む。

「かはっ！？」

　空中を滑る様にライエルが吹き飛ばされていく。

途中で翼を羽ばたかせて停止したが、中々良い一撃が入ったのか咳き込んでいる。

「ゴホゴホ、ちっ、僕を殴ってくるなんて不敬な人族だよ全く。」

　新しく光剣を生み出して構えるが、それも最初に生み出していた光剣と比べると明らかに弱々しい光りだ。

「そんな剣をいくら出したところで我とは打ちあえんぞ？」

「おかしな事に人族の君の方がまだまだ余力があるみたいだしね。だから趣向を変えるよ。」

　ライエルは空中に複数の光剣を生成する。

それだけの魔力はまだ残っている様だ。

「これならどうするかな？光剣射出！」

　ライエルが生み出した光剣を全て撃ち出す。

しかしその向かう先はジルでは無い。

「ちっ、卑怯な真似を。」

　全身魔装によって強化された身体能力で光剣の着弾地点へと走る。

その方角はナキナ達が待機している場所だ。

ジルの戦いの邪魔にならない様に離れた場所で見守ってくれていた。

「ジルさーん、心配いらないよー！」

　助けに向かおうと走るジルに向けて、遠くでテスラが大きく両手を振っている。

その近くではレイアが腰から剣を抜き、自身の腕に刀身を浅く当てて少量の血を流している。

「鮮血魔法、ブラッドレイ！」

　レイラの腕から流れる血が空中に浮き上がりつつ集まって、光剣目掛けてレーザーの様に放たれる。

血のレーザーは光剣を迎え撃ち、全てを相殺して撃ち落とした。

「鮮血魔法？あいつヴァン…。」

「おいおい、よそ見とは余裕だな。」

「っ！？ぐああっ！」

　ライエルがレイアに気を取られている隙に接近して、背中を銀月で斬り裂いた。

ギリギリ反応したライエルは、背中を魔装して防御力を高めたので両断される事は無かったが手痛いダメージを負う。

「くうっ、まだそんな速度で動けるのか。」

　ジルと距離を取ったライエルは忌々しそうな視線を向けながら呟く。

背中からは大量の血が流れ出ている。

「はぁはぁ…、出力が落ちているとは言え僕の光剣を撃ち落とせる仲間までいるとなるとそろそろ引き時かな。」

　ジルだけでも荷が重いのにまだ他にも三人控えている。

残る魔力量で全員を倒すのはライエルであっても難しい。

最初に人族が相手と舐めて掛かって魔力消費量の高い大技を連発したのがここにきて効いてきた。

「人族、一応この僕が名前を聞いておいてあげるよ。」

　満身創痍の筈のライエルが偉そうにジルに指を差しながら言う。

「教える意味あるか？放っておいても死にそうだぞ？」

　ジルに斬られた箇所から血がとめど無く流れ出ている。

更に先程腹に与えた拳で骨も何本か折れていそうだ。

「あるさ、僕はここを生き延びて君をいつか殺すんだからね。名前を知っておかないと不便だろう？まあ、先程から君の仲間達が君を呼んでいる時に聞こえてはいるけどね。」

「ならば名乗る必要は無いな。」

「ジルって事だね、覚えておくよ。この僕を追い詰めた憎たらしい人族としてね。」

　人族相手に撤退するのが気に障るのか、鋭い目付きを向けてきている。

逃せば本当に何度もジルを殺しにやってきそうだ。

「名前のお礼に僕が無知そうな君に天使の情報を一つ教えてあげるよ。」

　そう言ってライエルの両手に魔力が集まっていく。

既に魔力切れに近いと思っていたのだがまだこんなに魔力を残していたとは驚きである。

「天使族ってのはね、魔法に秀でた種族でもあるんだ。ナンバーズともなれば、こっちの世界の言葉で言うと魔法適性も高いし詠唱破棄だって楽々さ。」

　光剣を生み出していた時とは違って聖痕に魔力が集約している訳では無い。

今している説明から何かしらの魔法を使おうとしているのだろう。

「ジル、全力で守ってみなよ！何せ僕自身も生き残れるか分からない賭けなんだからさ！」

　丁度ジルとライエルの間辺りに眩い光りが生み出される。

その光りを見る前からジルは既にナキナ達の下へと走り出していた。

「極級爆裂魔法、ビッグバン！」

　ライエルが魔法を使用した瞬間、眩い光りが膨れ上がって辺り一面を包み込み、その直後国全土に響き渡る程の轟音を響かせながら大爆発した。