元魔王様と天使族の襲来 4

 魔の森の奥深く、雷が魔物を焼き、風が魔物を斬り裂き、氷が魔物を凍らせる。

様々な魔法が飛び交い、周囲にいる魔物を一方的に蹂躙していく。


「自由に魔法を使えると言うのは快適だな。」


 今回の同行者はジルの魔法について知っている者ばかりなので火魔法以外も遠慮無く使える。

魔物によって魔法を使い分けられるので狩りの効率も段違いである。


「どれどれ…、また駄目か。そんなにレアスキルなのだろうか?」


 随分と魔物を倒しているのだがスキル収納本を開いても人化のスキルは表示されていない。


「グガアアア!」


「お前は持っているか?」


 雄叫びを上げて向かってきた人型の魔物を一瞬で葬る。


「駄目か。肝心な人化のスキルが入手出来ていない代わりに他の様々なスキルが増えていくな。」


 スキル収納本には元々大量のスキルが表示されていたが、そこから更に増えていっている。

スキルを売る仕事でも出来そうな在庫数だ。


「こう見ると中々便利そうなスキルも多いな。有用なスキルは使ってもいいかもしれん。」


 人化のスキルの副産物だが狙ってもいないのに珍しいスキルや強いスキルがかなり手に入った。

仲間達を強化して実力を底上げするのにも使える。


「しかし前世の仮説ではスキル取得数には限りがあるかもしれないし、無理に使う事も無いか。」


 スキルは魔力量の多さに比例しているのではないかとジルは思っている。

スキルは自身の魔力だけを消費して使う事が出来る力だが、そもそもスキルを発動させられるだけの魔力が無ければ意味がない。


 スキルによって消費魔力量は違っており、魔力量にもよるが連続で何度も発動出来るスキルもあれば、一回使っただけで魔力切れになり倒れるスキルもあるのだ。

色々なスキルを覚えようとしたも、それを扱える魔力量を備えていなければ取得する権利も無いのかもしれない。


「突然味方を大幅強化しなければいけない様な事態にならない限りは現状維持とするか。特にナキナの様な者達は特異なスキルに目覚めるかもしれないしな。」


 スキルを取得する条件は明確に決まっていない。

家系によるもの、種族固有のもの、種族の純血のみが得られるもの、何かを極めて得られるもの、死の淵で得られるものと様々だ。


 そしてナキナの親族であるキクナは、鬼人族の始祖の血を色濃く受け継いでいるらしく、特別なスキルを所持している。

それがナキナにも当て嵌まるとすれば、スキルを与える事で特別なスキルの取得を妨げる可能性がある事になる。

なのでここぞと言う時までスキルの譲渡は行わない。


「ジル殿、成果はどうじゃ?」


「手に入ってはいないな。これは購入も視野に入れておいた方がよさそうだ。」


 素材だけは文字通り山の様に手に入っているので、全て換金出来れば異世界通販の高い買い物であろうと問題無い。


「クォン。」


「無理はしなくてもいいと言っている様じゃぞ。」


 主人であるジルが自分の為に動いてくれているだけでホッコは満足であった。


「ホッコだけをいつまでも待たせるのも可哀想だしな。高い買い物と言っても金はまた稼げばいい。」


「今回の狩りだけでも相当な金額になりそうじゃしな。」


「そう言う事だ。だから今回で手に入れる事は確定だ。」


「クォン!」


 ホッコとしても人化のスキルは欲しいので貰えるのであれば当然嬉しい。


「だが我の魔力はまだ余っている。ギリギリまでは挑戦してみるとしよう。」


 スキル収納本で手に入るのであれば、素材は丸々手元に残る事になる。

浮遊石で失った貯金が一気に増えるチャンスでもあるのだ。


「ところでここは魔の森の奥深くで間違い無いな?」


「妾はそう思っておるぞ。先程から見掛ける魔物も殆どBランクじゃしな。」


 普通の冒険者であればこんなに気楽なやり取りをしながら進める場所では無い。

Dランクと言っても実力者しかいないからこそ出来る事だ。


「つまりはある程度暴れても問題無いと言う事にならないか?」


「…調べようにも領主の手勢ではここまで来れんとは思うが何をするつもりじゃ?」


 ジルの不穏な言葉から嫌な予感がしてナキナが尋ねる。


「今までは土地を荒らさない様に使う魔法を気にしていたんだ。だが被害を気にしなくていいのなら、派手な魔法を使った方が効率が良いと思ってな。」


「成る程のう。街の者達に気付かれない程度ならば良いのではないか?幸いここは魔の森じゃしな。」


 魔の森は街等と比べて遥かに魔力が豊富な土地だ。

故に魔物の発生率が高いのだが、こう言う場所は土地の成長速度も早くなる。

つまり森が拡大する速度も通常では考えられないくらい早いのだ。


「ここら一帯を丸焼けにさせても数年もすれば元通りになるだろう。ならば極級魔法でも使ってみるか。」


 難易度の高い魔法は威力や範囲も秀でている。


「一応人がいないか確認した方がよいと思うぞ。それと妾達に被害が出ぬ様に頼むのじゃ。」


「抜かりは無い。既に調査済みだ。」


 空間把握の魔法によって極級魔法の範囲内となりそうな場所には魔物しかいないと認識済みである。


「遠くから見えてしまう高さは目立つから避けるとしよう。極級土魔法、ヒュージロックスパイク!」


 ジルが魔法を発動させると前方の広範囲を扇状に、地面から突き出した鋭い岩の突起物が埋め尽くしていく。

木々や魔物が岩に等しく貫かれ、魔法の範囲内を蹂躙した。

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