元魔王様と浮島の第一住民 3

 現在ジル達は浮島の魔の森をどんどん奥へと突き進んでいた。

周りにはウルフ種以外にも多くの魔物が押し寄せてきているが、ジル達には一切触れる事も出来ずにいる。


「ちと可哀想な光景じゃのう。」


「圧倒的な力による理不尽なのです。」


「使えるものは使わないとな。」


 何故魔物がジル達に触れられないかと言うと結界が原因である。

ジルが自分達を断絶結界で覆いながら移動しているので、魔物達は破壊する事も出来ず見ている事しか出来無い。


「それに従える事が出来るかもしれないのに、わざわざ減らすのも勿体無いしな。」


「それはそうなのです。」


 戦力になる可能性があるならウルフ種は減らさない方がいい。

倒すのは後からでも遅くはない。


「こんな風に攻めてくる者などおらんじゃろうな。どうしてよいのか分からずパニック状態じゃ。」


 進行を止める事が出来無いので魔物達はどうしたらいいか分からず右往左往している。


「対処する為には上位種や統率個体を呼び寄せるんじゃないか?」


「低ランクの魔物だと結界の突破も難しいからあり得るのです。」


 ジルの結界の強度は凄まじい。

高ランクの魔物でも壊すのには苦労するレベルだ。


「妾でも壊せるか分からぬからのう。」


「ナキナなら同じ場所に何度も打ち込んでいれば壊せるんじゃないか?簡単に壊したいならラブリートクラスを呼ばないときついだろうけどな。」


 国家戦力のSランク冒険者であれば結構を破壊する攻撃力を持っている。

あの拳で本気で殴られれば簡単に結界が砕けそうだと思った。


「そんな化け物ここにはおらんじゃろうな。」


「いたら困るのです。ジル様しか対処出来無いのです。」


 Sランククラスの魔物が出現すればナキナや影丸でも対処は難しい。

そうなるとジルの出番となる訳だが、魔の森の入り口付近に近い場所では、そんな魔物も現れないだろう。


「ところで方角はあっているのか?」


「うむ、影丸と発見したのはこの方向じゃぞ。」


「ウォン!」


 肯定する様に影丸が鳴いている。

その声だけでもウルフ種達が驚き離れていく。

同種の魔物から見た上位種と言うのはそれだけ脅威なのだ。


「おっ、少し強いウルフ種が増えてきたな。集落が近いか?」


 影丸の様な上位種の姿も見えてきた。

ウルフ種の拠点に近付いてきたからかもしれない。


「結界は傷一つ付いていないのです。」


「さすがは希少魔法じゃのう。」


「結界魔法は便利で使い勝手もいいから重宝している。だからこそ敵に使い手がいると面倒だがな。」


 結界を使っていて有用な事が分かっているからこそ使われるのは面倒だ。

使い手が少ない希少魔法ではあるが、少ないだけで使える者は世界中にいるのである。


「ワオオオン!」


 ジル達の進路を阻む様に人型の狼が雄叫びを上げながら立ち塞がった。


「ジル様、ワーウルフなのです!」


「数は多いが予想通りだったな。」


 集落を形成していたのはシキの予想通りワーウルフだった。

それにしても数が多い。

見えるだけでも十体は超えていそうだ。


「ここからはどうするのじゃ?」


「敵意と恐怖、二つの感情が伝わってくるな。集落に迫る外敵の排除をしたいが、我と戦うのを本能で恐れているのだろう?」


「グルル!」


 ワーウルフ達は警戒しながらこちらの様子を伺っている。

集落に近付かせたくないのだが、ジルの化け物具合を野生の勘で感じ取ってしまったのだ。

殺される危険性を考えると迂闊な行動は出来無いのだろう。


「群れを率いる立場だから気丈に振る舞っているのか?だがそんな必要は無い。お前の取れる選択肢はその感情の通り、二つに一つだ。」


 ジルが指を二つ立てながら言う。

ここがワーウルフ達にとっての生死の境だ。


「選ばせてやろう、我に協力するか群れごと滅ぼされるかをな。」


「まるで悪役じゃのう。」


「ジル様、すっごく生き生きとしているのです。」


 ワーウルフ達に宣言するジルを見てシキとナキナが引いている。

生きる為には従う選択肢しかない。


「脅した方が従いやすいかと思ってな。」


「グルル、ワウ、ワオン。」


 ワーウルフの一体が何かジルに言っている。


「ふむ。」 


「なんて言ってるのです?」


「なんて言ってるんだ?」


 ジルはシキの質問に質問で返す。


「ふむって言うから分かっているのかと思ったのです。」


「魔物の言語なんて我は知らんぞ。」


 二人が話している間にライムがナキナに何かを伝えている。

同じシキの護衛であり、いつの間にか会話の様なものを出来る様になっていたのだ。


「ん?ふむふむ、ほうほう。」


「あれで会話出来る意味が分からん。」


「同感なのです。絶対何か変な力に目覚めているのです。」


 万能鑑定で見てもそう言ったスキルが備わっている訳ではないので、ナキナやライムがおかしいのだろう。


「二人共、妾を変人扱いするのはやめるのじゃ。それとワーウルフが言いたかった事はライム殿が教えてくれたぞ。」


 どうやらライムがワーウルフの言葉を聞き取って、それをナキナが理解出来る様に教えてくれたらしい。


「なんて言っているんだ?」


「従魔登録はしたくないと言っている様じゃのう。」


「ほほう。」


 ジルはそれを聞いて銀月の柄に手を置いた。

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