元魔王様と浮島の第一住民 2

 魔の森に狩りに出掛けたナキナと影丸が魔物の集落を発見し、それの報告に戻ってきた。


「浮島の範囲にそんな物が出来ていたのか。」


 普通であれば魔物の集落は非常に危険であり、大勢の冒険者による討伐隊が組まれる。

今回は浮島の魔の森なのでそんな人数はいないが、それを上回る戦力が揃っているので慌てる必要は無い。


「魔の森も外周部から結構な範囲が浮島に取り込まれたのです。集落が丸々あっても不思議は無いのです。」


 魔の森には依頼で冒険者が頻繁に入っているので、魔物が集落を形成する程の大所帯となっているのは珍しいが無い訳でもない。

ジルも初めての依頼を受けた時にゴブリンの集落を見つけた事があった。


「ちなみに何の魔物だ?」


「魔の森に入ってからウルフ種を頻繁に見かけたのでそれではないかのう?集落の周辺の魔物は影丸を見て警戒したのか距離を取っておったぞ。」


「まあ、影丸はウルフ種の中でも上位の存在だしな。」


 影丸ことシャドウウルフはAランクの魔物だ。

同種の魔物にとっては高ランクの上位種に当たるので、下手に手を出してこないのも納得である。


「少しおかしいのです。」


 話しを黙って聞いていたシキが首を傾げている。


「何がおかしいんだ?」


「集落を形成しているのは基本的には人型の魔物なのです。ウルフでは家なんて作れないのです。」


 魔物が集落を増やすのは他の魔物から身を守り繁殖行為をしやすくする為だ。

人と同じ様に家を建てて拠点とするのだが、ゴブリンやオークの様に人型の魔物で無いウルフでは家を建てる事なんて出来無い。


「そう言われるとそうじゃな。しかし簡素ではあるが家は建っておったぞ?」


 集落を見つけた時に確認済みだ。

建ち並ぶ家の周りにもウルフ種は沢山いたので無関係とは思えない。


「そうなるとウルフの上位種であるワーウルフがいる可能性が高いのです。」


「確か人型のウルフだったな?」


「狼の獣人の様なものかのう?」


 ナキナは見た事が無いので姿を想像している。


「ジル様、正解なのです。それとナキナ、それは獣人の前では言っちゃ駄目なのです。似ていても人と魔物では別物なのです。」


「そうじゃったか、気を付けるのじゃ。」


 ここに獣人がいなくて助かった。

獣系の魔物は獣人と似ているものも多いが、獣人達は一緒にされる事を嫌がる。

自分達は魔物と違って知性を持つ人なのだ。


「ワーウルフは強いのか?」


「Bランクの魔物だった気がするのです。でも統率個体だから同種を強化する厄介な存在なのです。」


 影丸よりはランクが低いが集団を強化する力を持つ。

群れで行動する魔物の中に統率個体がいるのは非常に厄介だ。


「数は結構いたのじゃ。あれを全て相手にするのは苦労するかもしれんのう。」


 影丸程では無いが高ランクのウルフ種も何匹かはいた。

数的有利で囲まれてしまえばジル以外は厳しいかもしれない。


「だが集落を作る規模の魔物を放ってはおけん。浮島の安全確保の為にも倒すべきだろう。」


「これ以上増えられても困るしのう。」


 放置しておけば爆発的な勢いで増えるかもしれない。

増えてもジル達の敵では無いがウルフ達が餌として魔物を狩ってしまい、浮島の殆どの魔物がウルフ種のみになってしまうかもしれない。


 せっかくトゥーリと交渉してまで手に入れた魔の森なのだから、有効活用していく為にも素材は様々な物を取れる様にしておきたい。


「でも少し勿体無いのです。」


「と言うと?」


「団結力のある魔物は味方に付ければ一気に戦力拡大になるのです。倒して素材にするよりは傘下や共存が望ましいのです。」


 シキは討伐には反対の様だ。

味方に付けて戦力にしたいと考えている。


「つまりテイムすると言う事かのう?」


「数が多過ぎないか?」


 魔物の集団を丸々テイムするなんて相当な時間が掛かりそうだが、ジルの実力からすれば可能かもしれない。

しかし面倒なのでやりたいとは思わない。


「統率個体や上位種を従えれば、下の者達もそのまま仲間になってくれるかもしれないのです。試す価値はあるのです。」


 集団を率いるボス的な存在を従えて、それに付き従っている魔物も一気に従えたいとシキは言う。

それならば大した労力もいらずウルフ達を味方に付けれるかもしれないが、群れの長がそう簡単に頷いてくれるかは分からない。


「シキがそこまで推奨するなら試してみるとするか。」


 仲間の頼みは基本的に聞こうと思っている。

駄目ならその時改めて討伐すればいいので、一先ずシキの案を試してみる事にした。


「上手くいけば浮島の防衛戦力になってくれるかもしれんのう。」


 そうなってくれれば有り難いなとジルも思い、魔の森に向かう事にした。

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