元魔王様と秘密の拠点 3
「だめだね。」
トゥーリがジル達に向けてはっきりと言う。
魔の森の一部を譲ってもらう為に貸しの件で交渉したのだが、取り付く島も無くあっさりと断られてしまった。
「何故だ?」
「理由くらい分かってるでしょ?魔の森は危険な場所だけどセダンの街の財源の一つでもあるんだよ?それを簡単に渡すのは無理だよ。」
予想していた通りの反応である。
魔の森を一部とは言え失えばセダンの街に入ってくる魔物の素材や魔石に影響が出て減少する事になり、冒険者の依頼も減る事になる。
金の巡りが減るのは街としては避けたい。
「我は貸しを作っていたんだぞ?その貸しを使いたいと言っている。」
「貸し三つ分くらい欲しい案件だよ。さすがに対等は無理だね。」
ジルへの貸しは大きい物だがそれでも街の財源となると規模が違う。
領主として民達の生活に影響する事は慎重にならなければならない。
「そもそも何に使うのさ?」
「それは言えないな。」
スキルで購入した異世界の鉱石によって、土地を浮かせて拠点にするなんて言っても信じてもらえるか分からない。
それに他者にあまり話すつもりも無い。
「ほら、理由も話せないんでしょ?無理無理、話しになんないよ。」
「一応我はエトの件を断る事も出来るんだぞ?」
「決まった話しを持ち出してくるのはずるいよ~。」
トゥーリは約束した件を反故にされそうで困り顔で言う。
貸しはこう言った交渉で使うつもりだったので、ジルとしては使えないのであれば持っていても意味が無い。
「そう言われてもな。トゥーリが我の交渉に頷かないのが悪い。」
「領主として財源を手放すのは領地経営に大きく響くんだよ?ジル君ならそれくらい理解出来るよね?」
前世が国のトップだったので少なからずそう言う事情は理解出来る。
それなりに大きな街なので現状維持だけでも金が掛かるのだろう。
「別に魔の森全てを寄越せと言っている訳では無いんだぞ?一部貰えればいい。」
「うーん。」
それを聞いても尚トゥーリの反応はいまいちだ。
それだけこの決定は難しいのだろう。
「魔力溜まりとなっている森だし、数年もすれば元通りになるだろう?」
魔力に満ちた森なので成長速度も早い。
年々魔の森が広がってきているので、街の事を考えて少なからず外周の伐採もしているくらいだ。
「確かに魔の森は徐々に広がっていってるけど、それでも一部とは言えそれなりの範囲を渡すのは躊躇しちゃうんだよね。」
「ならばどうすれば渡してくれるんだ?」
ジルがそう言った瞬間トゥーリの目がキラリと光った。
「その言葉を待ってたんだよ!私の条件を一つのんでくれたらいいよ!」
どうやら最初からジルがそう言うのを待っていた様だ。
「結局トゥーリの思うつぼか。」
「そう言わないでよ。理由も聞かず領地の大事な財源の一部を譲ってくれる貴族なんて他にはいないよ?」
そもそも平民と対等に取り引きしてくれる貴族がどれだけいるか。
トゥーリだからこそ交渉に付き合ってくれているのだ。
「確かにそれはそうだと思うのです。」
「ジル殿、ここが落とし所ではないかのう?」
「仕方無い。トゥーリの条件を聞こう。」
二人にも言われて納得する事にした。
浮遊石があっても対象の土地が手に入らなければ意味が無い。
どうせなら有用な土地を組み込みたい。
「ジル君の貸しを無くして私から貸しを一つと言う事にしてくれたらそれでいいよ。」
生誕祭に行くのが確定事項となり、トゥーリがジルに貸しを作った事になる。
貸しを作った状態になるのは面倒だが、拠点の為ならば仕方が無い。
「立場が逆転したと言う事か。」
「そうなるね。君に貸しを作っておく程、私の手札が増えると言う事だからね。」
ジルが有能なのは理解している。
貸しを作れば作る程トゥーリは奥の手を用意しておける事になる。
どんな面倒事であってもジルならば大抵は解決してしまうと思わせてくれる。
「貴族への貸しは怖いのです。」
「無理難題を言われぬか心配じゃのう。」
シキとナキナは少し警戒している。
「無茶な事を貸しを使って言ったりはしないよ。ちゃんと今回みたいに交渉の材料に使うさ。」
ジルに頼み事が出来た時に貸しを消費して頼むつもりだ。
当然ジルがどうしても無理だと断るなら無理強いするつもりも無い。
本来の貴族であればそんな貸しなんて気にせず命令するものだが、ジルとの付き合いを大切にしたいトゥーリは身分に関係無く相手の事も考えているのだ。
「分かった、それで手を打とう。我に貸し一つだな。」
「うんうん、じゃあ魔の森の一部は譲るから自由にしてくれて構わないよ。一応譲る範囲を地図で教えるね。」
そう言って国の地図を引っ張り出してきたトゥーリは、セダンの街の近くを避けて少し遠い場所の広大な魔の森を指差して譲る範囲を指定してくれた。
一応その場所で領地の不利益になる様なことはしないと約束させられ、指定された範囲がどうなってもトゥーリは知らぬ存ぜぬで押し通すとも約束してくれた。
貸しを作れたのが嬉しかったのか思ったよりも広い範囲を譲ってくれてジルとしても満足な交渉となった。
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