41章

元魔王様と秘密の拠点 1

 スタンピードが終息してから数日、一部の冒険者やギルドの者達が忙しく動いていたが、それも落ち着いてきて日常を取り戻してきた。


 そしてスタンピードでの報酬、倒した魔物の素材を売却、スタンピードに関する者の捕縛の謝礼と諸々のお金を受け取った事でとんでもない金額になった。

ナキナ達も遊撃として数多くの魔物を狩って大活躍だったらしく、かなりの大金が入ってきている。


「ジル様ジル様、今回でとってもお金が増えたのです!」


「ああ、あれが買えそうだな。」


 二人は無限倉庫にある大量のお金を見てニヤリと笑みを浮かべる。

今回のスタンピードだけで、ちょっとした貴族や商人の財産分くらいは稼いでいた。


「そう言えば何かを買いたいからお金を貯めていると言っておったのう。まだ妾は聞いておらんぞ。」


 何を買うのか知らされていないナキナが気になっている様子だ。

前に教えてくれると約束していたのにまだ知らされていなかった。


「御免なのです。内緒にするつもりは無かったのです。」


「我らも随分と買うか悩んでいてな。何しろ相当な値段なのだ。」


 ジルの言葉にシキがうんうんと何度も頷いている。

高過ぎる買い物なので何度も購入に関する話し合いが二人で行われた。


「どれくらい高いのじゃ?」


「蓄えが殆ど消えちゃうくらい高いのです。」


「そんなにか!?今回貰った報酬も相当な額じゃったぞ?」


 シキの言葉にナキナが驚愕している。

ジル達は冒険者としてのランクは低いが高ランク冒険者と遜色無い稼ぎを上げている。

なので貯金は貴族や豪商並みに持っており、今回も高ランク冒険者の報酬以上に受け取っていたりする。


 そんな多額の貯金が全て無くなる買い物なんてこの世界でも稀だ。

しかしこの世界に存在しない物まで購入出来るジルの異世界通販のスキルであればそれも当然の事である。

希少価値に相応しい巨額の値段設定となっているのだ。


「今回の報酬と今までに貯めていた分も買ったら吹き飛んじゃうのです。」


「恐ろしい買い物じゃ…。」


 鬼人族の閉鎖的な村から人族の街で暮らす様になってお金の大切さが更に分かってきたからこそ、一体どんな物を買えばそれ程の金額になるのか想像も出来無かった。


「だから我らも随分と悩んだ。だが結論から言うと買う事になった。」


 それはジル達にとって必要な物であり、前々から計画していた事になくてはならない物なのだ。


「今日から貧乏生活なのです。」


 スタンピードの大金が入って大金持ちとなったのだが、あっという間に大金持ちの期間は終わってしまいそうだ。


「まあ、妾の稼いだ分は自由に使ってもらって構わんぞ。元々無理を言って側に置いてもらっておるからのう。」


「さっすがナキナなのです。」


 ジル達の旅に同行するのは鬼人族の里を救ってくれた事に対するナキナの恩返しみたいなものだ。

なのでジル達が何をしようと特に文句は無い。

付き従ってその一端に触れるのもまた一興である。


「それに金ならまた稼げばいいしな。売っていないだけで、金になりそうな物は無限倉庫に大量に入っている。」


 大量の魔物の素材やミスリル鉱石が主だが、全て売却出来れば巨万の富となるだろう。

換金出来る物は幾らでもあるのだ。


「では早速買うとするか。」


「精霊生最大の買い物なのです。」


「緊張するのう。」


 ジルは異世界通販のスキルを使用して目的の物を検索して購入する。

すると目の前の空間が光り出して購入物が現れる。


「おおお、ついに買ってしまった。」


「感動なのです。」


「…なんじゃそれは?石が光っているだけにしか見えぬが?」


 ジルの手に収まっている石を見て二人は感動しているがナキナは首を傾げている。

どこにでもありそうな石が発光している様にしか見えない。

とても貯金が全て吹き飛ぶ様な凄い物には見えなかった。


「これは浮遊石と言うこの世界には存在しない鉱石の一種だ。」


 そう言ってジルが手に持った鉱石をナキナに近付ける。

近くで見ても光る石にしか感じられない。


「魔力を補充する事で周囲の物体を浮遊させる効果を持つのです。」


 シキがキラキラとした目をしながら浮遊石の周りを飛んでいる。

異世界通販のスキルでの買い物はただでさえ高いのに、この世界に存在しない物と言う事で更に値段が張った。


「ふむふむ、それでこの浮遊石は何の為に買ったのじゃ?」


 説明を聞いてもいまいち用途が分からない。

周りの物を浮かせたいのならジルの重力魔法でもいいのではないかとナキナは思った。


「我らは何かと秘密が多いからな。人目を気にしない自由な拠点を得る為に購入したのだ。」


「この浮遊石を使って空に拠点を構えるのです!」


「空に?」


 二人が真上を指差しながら得意気に語り、ナキナも空を見上げながら不思議そうに呟いた。

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