【毎日更新】元魔王様の2度目の人生

39章

元魔王様と謎の集団との再戦 1

　突然召喚魔法に巻き込まれたジルとホッコは別の場所へと召喚された。

魔法陣から迫り上がってくると、先程までと同じ様な森が視界に広がっている。

「同じ魔の森でも別の場所と言う事か。」

　近くで聞こえていた前線の冒険者達の戦闘音や声が一切聞こえなくなっている。

元々いた場所からはそれなりに離れているだろう。

「クォン。」

「ああ、分かっている。囲まれているな。」

　ホッコが周囲を警戒する様に見回しているので、落ち着かせる様に撫でてやる。

召喚された時点で周りから敵意や殺意を向けられていた。

これだけでも誰かが意図的に召喚した事がよく分かる。

「隠れている者達よ、気付いているから出てくるといい。それとも我が炙り出してやろうか？」

　掌に火球を作り出しながら言う。

森の中と言う事もあり、火魔法を放てば直ぐに燃え広がる。

敵を倒しながら居場所を味方に伝えられて一石二鳥かもしれないが、当然そんな事をすれば山火事になってしまう。

一応脅しだが水魔法も使えるので別に放っても構わない。

「あらあら、過激な冒険者さんだこと。」

　ジルの言葉に反応して木陰から姿を現す。

声を発したのはフードを目深に被った女性であり、両サイドには魔物を従えている。

「我に召喚魔法を使ったのは貴様か？」

「ええそうよ。スタンピードに対応中の冒険者さんに用があってね。」

　ジルの質問に素直に答えてくれているが警戒は緩めない。

この女性や魔物は敵意や殺意を隠す気が無い様で、話しながらでも感じられる。

「何用だ？」

「何用だと思う？」

　女性はクスクスと笑って尋ね返してくる。

「理由は知らんが隠す気も無い殺意から、召喚して個別に始末すると言ったところか。まだまだ隠れている様だしな。」

　目の前に出てきた者達以外にもまだ隠れている者達は大勢いる。

数の暴力でこちらを倒せる様に控えさせているのかもしれない。

「大正解、バレている様だしお披露目といきましょうか。」

　女性がそう口にすると木陰や草むらから次々と隠れていた者達が姿を見せる。

そしてその全てでは無いが半分近くは身に覚えのある者達であった。

「貴方もこの子達のお仲間に加えてあげるわ。」

　女性は気味の悪い笑みを浮かべて言う。

「趣味の悪い事だ。」

　ジルは嫌悪感を隠す事無く、女性を睨みながら言う。

出てきた者達は全員前線で戦っていた冒険者だったのだ。

心臓に穴が空いたり頭を失っていたりと、既に生きている者はおらず全員が殺されて操られている状態だ。

「魔物の一体はネクロマンサー、もう片方はミスリルナイトか。」

「物知りで偉いわね。」

　女性がパチパチと手を叩きながら言う。

魔物達が大人しく付き従っているところを見ると使役された従魔だろう。

　ネクロマンサーは死者を操る力があり、ミスリルナイトは全身がミスリルで出来た騎士の様な格好をしている頑丈な魔物だ。

どちらも中々に高ランクの魔物なので、それをテイム出来るとはテイマーとしての素質が高いと思われる。

「これ以上犠牲者を増やさない為にもここで始末してやろう。」

「先に召喚されていた子達も同じ様な事を言っていたわよ？そして全員ご覧の通りね。」

　女性がクスクスと笑いながら言う。

ネクロマンサーに操られているところを見ると有言実行出来た者はいない。

かなり厄介な相手なのだろう。

「高ランクの冒険者と聞いていたけれど、死者とは言え元仲間を相手に出されると脆いものよね。自らの命が危険なのに本来の力を出せないなんて。」

　かつて仲間だった者を相手に戦わされる。

親しい者である程に当事者は戦いにくいだろう。

そして負の連鎖となり犠牲者が増えていったのだ。

「それが人と言うものだ。誰もが魔物と戦う時と同様に振る舞えないのも当然の事。だが安心しろ、我はしっかりと始末してやる。冒険者も含めてな。」

　同情はするが容赦はしない。

既に殺されて敵の手に落ちてしまっているので魔物と大差無い。

ジルが召喚された段階で手遅れなのだ。

「貴方の様な子がいるのも理解しているわ。実際に数人はそう言う人もいたからね。だからこそ数と力を揃えているのよ。」

　女性の言葉にミスリルナイトが前に出る。

そしてネクロマンサーに操られている死者達が生前に扱っていた武器を構える。

「この数、この力を相手にどこまで戦えるかしら？高ランクの冒険者と言えど、同じ力を持つ冒険者が相手であれば覆すのも困難でしょう？」

　自分の戦力に自信があるのか、女性が高笑いと共に言う。

死して操られている状態なので生前程の完璧な力は無いにしても、厄介な実力を持つ事には変わらない。

ミスリルナイトも材質故に、強固で力強い厄介な相手だ。

「それこそSランク冒険者、セダンで言えば闘姫くらいかしらね、この状況を打破出来るのは。でも闘姫もいずれ私の戦力で殺してあげるけどね。だから貴方も殺されて、私の戦力となるがいいわ。」

　ジルも殺されればネクロマンサーによって操られ、殺された冒険者達と同じく操り人形となるだろう。

しかしそれは殺されればの話しだ。

「遺言はそれでいいな？」

「貴方こそね、やってしまいなさい！」

　女性の一声でミスリルナイトと死者達が一斉にジルに襲い掛かってきた。