元魔王様と災厄の到来 2
一先ずジルが向かったのは魔の森の方角だ。
スタンピードの原因となる魔物が魔の森から溢れてきているのは分かっているので、そこで食い止めるのが一番被害が少なくて済む。
「結構散らばっているな。」
魔の森に向けて走っていると道中でちらほらと魔物と戦闘中の冒険者を見掛ける。
派遣されている筈の冒険者達を突破した魔物だろう。
さすがの量に全て前線で食い止める事は難しかった様だ。
「う、うわー!?」
一人の冒険者が魔物の振り下ろす凶悪な爪に切り裂かれそうになっている。
それが目に入ったジルは、全身を魔装して瞬時に距離を詰めながら銀月で魔物の身体を両断する。
「た、助かりました。」
冒険者は間一髪の所でジルに救われ、心底安心したと言った様子だ。
間に合わなければ魔物に殺されていたかもしれない。
「突破してくる魔物はランクが高いものもいる。一人で行動せず冒険者達と連携を取っていけ。」
「は、はい。ありがとうございました。」
礼を言って近くの冒険者の下へと走っていく。
今回の様な大規模な魔物との戦闘での単独行動は、余程実力のある者でなければ死のリスクが高い。
魔物とて一定以上の知能はあるので孤立しているところを狙われれば簡単に命を落とす事になる。
更にジルが今いる場所はセダンの街に比較的近い場所だ。
街の防衛には冒険者の中でもランクが低い者を、そして魔の森に近い危険な場所には高ランク冒険者を配置している。
なのでランクの低い冒険者達は魔の森から遠いと言っても、一人で油断して行動していれば大変な事になる。
「それにしても抜けてくる魔物が多いな。前線はかなり苦戦しているのか?」
火魔法で視界に映る魔物を焼き払いながら呟く。
撃ち漏らしが多ければ街に被害が出る可能性が増える。
なるべく魔の森近辺で殲滅していきたいところだ。
「ホッコも見える魔物は攻撃していいからな。」
「クォン!」
ホッコは氷の矢を空中に生み出して放ち敵を貫いていく。
低ランクの魔物であればホッコの攻撃で充分対処出来そうだ。
魔力を温存していきたいので助かる。
「まずい、抜けられた!」
「誰か撃ち落とせ!」
「遠距離魔法使いはいないのか!?」
少し離れた場所でそんな叫び声が聞こえてくる。
見ると地上から飛び立つ魔物が目に入る。
空を飛ぶ魔物は対抗手段が限られるので非常に厄介だ。
一応街の方に向かっているので無視も出来無い。
「ラブリートがいるとは言え、倒せるのは倒しておいた方がいいだろうな。」
Sランク冒険者と言っても限度はある。
物量で責められれば全てを完全に倒せるかどうかは分からない。
近接戦闘を得意とするラブリートは対多数や飛行生物が苦手な部類な筈なので、そこは省いてあげた方がいいだろう。
「高いけどギリギリ届くか?」
ジルが火の矢を空中に生み出して狙いを定める。
すると別の場所から空に向かって強烈な魔力の奔流が放たれる。
それは魔物の翼を消し飛ばして自由を奪い墜落させる。
そのまま高所から地面に激突して魔物は息絶えた。
「今の攻撃は、やはりエルミネルか。」
攻撃が放たれた場所を見ると、こちらに向かってくるエルミネルの姿が見える。
ジルと同じく遊撃を担当している。
「しっかり遊撃役をしている様だな。」
「魔物沢山倒してる。」
身体能力に優れているエルミネルはジルと同じく戦場を駆け抜けて魔物を倒してまわっている。
火力も申し分無いので各所で助かっているだろう。
「それを伝えにきたのか?」
「探してた。」
首を左右に振りながら答える。
「我をか?」
「そう、遠くに見つけたからきた。」
「何の様だ?」
「前線から援軍要請。」
そう言ってエルミネルが魔の森の方角を指差す。
遊撃部隊は戦況の悪い部分の補助も任されているので、一番厄介な魔の森への招集もあるとは思っていたが、始まって直ぐとは意外だ。
「高ランク冒険者が大量に向かっている筈だろう?」
「向かってるけど、今は苦戦してる。弱いけど数が多い。」
確かに抜けてきている魔物のランクも高いのはあまりいない。
「簡単に倒せても数が多くて突破されているって事か。」
「うん。だから広域殲滅出来る魔法の使い手がほしい。」
「成る程な。」
自分が呼ばれている理由を理解する。
一般的にジルは火魔法の使い手として知られており、多種多様な魔法を使える事は知られていない。
その代わりに火魔法に関しては相当な実力者なのが大勢にバレている。
人前でも上級や超級の火魔法を扱った事はあり、その広範囲火力を期待されているのだ。
数だけ多い厄介な魔物達を一掃してほしいのだろう。
「分かった、一旦向かう。街周りは任せたぞ。」
「任された。」
エルミネルが胸を叩いて自信満々に言ったのを見て、魔の森に向けて走り出した。
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