元魔王様と災厄の対策 3

「今回のスタンピードはラブリートが指揮を取るのか?」


 ジルはこう言った冒険者が大勢参加する大型依頼は経験が無い。

なのでランク的に一番高い者が大将になるのかと思って尋ねた。


「どうかしらね?私は自由に行動していた方が活躍出来ると思うけれど。」


「他にも冒険者は多い。任せても良さそう。」


 エルミネルもラブリートは自由行動させた方がいいと考えている様だ。

Sランク冒険者が指揮をとれば、冒険者達の士気も上がりそうではあるが、最高戦力を遊ばせておくのは勿体無いと考える者も多いだろう。


「そうね、エルミネルちゃんの様に冒険者が沢山集まってきているもの。」


 スタンピードに向けて他の街のギルドから高ランクの冒険者が沢山きている。

その中であれば指揮系統に長けた者も見つかるだろう。


「少しいいか?」


 四人で食事をしていると一つのパーティーが近付いてくる。


「何か用か?」


「あんたがSランク冒険者の闘姫だな?」


 ジルの質問を無視してラブリートに話し掛けている。


「そうだけど何かしら?」


 若干ラブリートの機嫌が悪そうに見える。

ジルは特に気にしていないが、代わりに怒りを感じてくれている様だ。


「俺達はスタンピードの為にこの街にきたばかりだからな。会議の前に最高戦力である闘姫に挨拶をしておこうと思ったんだ。」


 ラブリートの機嫌の悪さに気付いていないのか、リーダーと思われる男が普通に話しを続けようとしてくる。

Sランクと言う存在は街が変わろうとも広く知れ渡っている様だ。


「そうだったのね。それなら私以外にも挨拶をしておいた方がいいわよ?」


 そう言ってラブリートが同じテーブルに付いている三人を見回す。


「お前達ランクは?」


 さすがに闘姫にそう言われては無視する訳にもいかない。

男は嫌そうにしながらも尋ねてくる。


「我がDで他はCだな。」


「はぁ~。闘姫、忠告だが付き合う相手は選ぶべきだ。冒険者のトップクラスであるあんたが、何故低ランクと仲良く食事なんてしている?」


 男は深い溜め息を吐いた後に呆れた様な視線を向けている。

高ランクが低ランクと仲良くしている事が理解出来無いと言った様子だ。


「別に誰と食事しようと私の自由じゃない。知らない人に指図される覚えはないわ。」


「知らない人…。」


 ラブリートの言葉に少しショックを受けている様子だ。

知られているのは当然だと思って話していたのだろう。

それを見てアレンは思わず口を手で塞いでいる。


「まあ、Sランクは他の冒険者にあまり興味が無いのかもしれないし名乗っておこう。俺は剣聖の二つ名を持つAランク冒険者のギルメンテだ。Aランクパーティー剣の誓いのリーダーでもある。」


「ふーん、そうなの。宜しくね。」


 ジル達を低ランクと見下してきているが、高ランクで二つ名まで持っていて実力だけはありそうだ。

しかしギルメンテの名乗りにラブリートは全く興味無さそうに返事をしている。


「それでどうだろうか?食事ならば高ランク冒険者同士、有意義な情報交換でもしながらと言うのは?」


「結構よ。私はこの子達と食事していた方が楽しいから。」


 ギルメンテの誘いに全く取り合わない。

ラブリートにとって第一印象が悪過ぎたのだろう。


「そ、そうか。では機会があればまた誘わせてもらう。」


 ギルメンテは最後にジル達を睨んでから離れていった。


「なんなんだあいつは?」


「いるのよね、ああ言うランク至上主義が。人の事をランクでしか判断出来無いのよ。」


 ラブリートが呆れながら言う。

冒険者歴が長いとそう言った輩を見掛ける機会も多いのかもしれない。


「冒険者の強さを表す指標だからな。ラブリート以外は雑魚に見えたんだろうよ。」


 SランクとCランクやDランクでは次元が違う。

ラブリート以外が弱者に感じても仕方無い。


「それにしても意外だったな。アレンなら直ぐに殴り掛かると思っていたぞ。」


「うん、意外。」


 ジルとエルミネルが少し驚きながら言う。

普段の言動や態度から、こう言った輩には売り言葉に買い言葉で直ぐに喧嘩に発展すると思ったのだ。


「俺はそんなに喧嘩早くねえよ。冒険者やってんならこう言う事は少なからず起こるから慣れてんだよ。」


 過去にアレンもそう言った経験をしていたのかもしれない。

一々取り合っていたらキリが無いだろう。


「でもムカついちゃうわよね。皆ランク以上に強いのにあんなのに馬鹿にされちゃって。」


 ラブリートが静かに怒っている。

ギルメンテと話していた段階から手に持っていたフォークが折れ曲がっていたので、相当不機嫌だったのが分かる。


「ラブリート、落ち着け。俺達は誰も怒っていない。」


「代わりに怒ってくれるだけで満足したしな。」


「ありがとう。」


 三人が口々にラブリートの怒りを鎮める様に声を掛ける。

その怒りでフォークの様にギルドを破壊されたら大変だ。

国家戦力の力は侮ってはいけない。


「ふう、それならいいわ。まあ、直ぐに自分の発言を改める事になるんだからそれまでの我慢よね。」


 ジル達の力を示す機会は遠からずあるので、それまでの辛抱だとラブリートは怒りを鎮めてくれた。

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