元魔王様とルルネットの可能性 9

 翌日、朝食の席に付くとルルネットがジト目を向けてくる。


「昨日謝って許してくれたんじゃないのか?」


「別に許してるけど。消耗品だしいつかは壊れちゃうもんね。」


 短剣を壊した事については昨日既に謝っている。

一応許してくれたのだが少しだけご機嫌斜めと言った様子だ。

おそらくそれ程怒ってはいないが、もう直ぐ帰ってしまうのでそれを理由に構ってほしいのだろう。


「分かった分かった、代わりは用意してやる。訓練にしっかり励んだご褒美としてな。」


「ほんと!?」


 ジルの言葉にルルネットの機嫌が直ぐに直る。

新しい短剣をジルから貰えるのが嬉しいのだろう。


「ああ、だから今日からもしっかりと訓練をするんだぞ?」


「分かったわ!そうと決まったらしっかり食べないとね。」


 ルルネットは機嫌を直して訓練の為にしっかりと朝食を食べていた。

朝食を食べ終わりルルネットの訓練が始まる。

詠唱破棄や魔装の訓練なのでジルが見ている必要は無い為、屋敷を出て海に向かう。


「せっかくなら紅色の短剣と同等の物が欲しいところだな。」


 ジルが向かうのは小島にあるダンジョンだ。

ルルネットの新しい短剣をダンジョンの宝箱から入手する為である。

深層に潜ればそれなりに良い物が手に入る筈だ。


 砂浜に辿り着いたジルは認識阻害の魔法道具のマントを身に付け、重力魔法で身体を浮かせて小島に向かう。

一人での行動であればマントで姿を隠せば事足りる。

それ程時間を掛けるつもりは無いので素早くダンジョンに潜っていく。


「浅い階層に数パーティーいるくらいか。」


 空間把握の魔法でダンジョン探索中の者達を確認して、邪魔にならない場所で雷霆魔法をぶっ放して床を貫いていく。

二発も撃てば直ぐに15階層のボス部屋だ。

中に入って少し待つと松明が灯り召喚用の魔法陣が現れる。

ジルは予め腰に下げられた銀月に手を掛けて魔装しておく。


「抜刀術・断界!」


 魔法陣から様々なゴブリン種が召喚された瞬間にジルが銀月を抜刀する。

魔力の斬撃によって一瞬で召喚されたゴブリン種がドロップアイテムに代わり、その背後のダンジョンの壁に巨大な亀裂が刻まれた。


 雷帝魔法でも傷付かないボス部屋の強度から何をしても破壊出来るとは思っていない。

それでもジルの一撃によって付いた亀裂は相当な大きさであり、その威力の高さを物語っている。

ランクの高いゴブリン種と言えど耐えられる者はいない。


 ジルはボス部屋を抜けて再び雷霆魔法を使って床をぶち抜いていく。

すると丁度30階層で破壊出来無い床が出現した。


「このダンジョンは15階層毎にボス部屋がある様だな。」


 15階層のボス部屋よりも禍々しい扉があり、見ているだけで恐怖を掻き立てられる様な装飾である。

だが今回は挑むつもりは無い。


 狙いは宝箱からルルネットに合う短剣を手に入れる事だ。

ダンジョン探索はまたいつかすればいい。

なので28階層か29階層で探索をする事にした。


「空間置換を使えば手っ取り早いが魔力を考えると温存した方がいいな。」


 空間把握で認識している範囲内ではどこでも自由に魔法を使える。

なので空間置換を使って宝箱を目の前にかき集める事も可能だ。

しかし時空間魔法は魔力消費が大きい。


 今日は泊まり込みなんてするつもりは無く、なるべく早く帰るつもりだ。

行き帰りの階層移動用、他のパーティーや周りの状況把握用、魔物との戦闘用と魔力を沢山使用するので無駄遣いは避けたい。


「心眼のスキルで探すのが一番良さそうだな。」


 空間把握よりは範囲が小さいがそれでも壁の向こうも認識出来るので充分役に立つ。

無駄な戦闘を避ける為に魔物のいない方向を選んで移動しつつ宝箱を探す。

心眼のスキルに反応があったので早速一つ回収する。


「開けるのは後でいいだろう。」


 一旦宝箱を無限倉庫のスキルに仕舞って次を探す。

さすがにお目当ての物が簡単に手に入るとは思っていない。

何が出るか分からない宝箱の中から短剣が出て、更にそれがルルネットに合っている物となると相当低い確率だろう。


 そうなると紅色の短剣が出た豪華な宝箱が幾つも欲しいところだ。

階層を駆け回って宝箱を回収していき10個溜まったので一旦開けてみる。


「高ランクの魔物の素材、ミスリルの片手剣、巨大な宝石、今の我が求める物では無いな。」


 どれもこれも高価な物には違い無いが今求めているのはそれらでは無い。

高値で売却出来るので収納しておくが、また宝箱の集め直しだ。

その後は10個集めては開けてを繰り返していく。


「火属性の効果を高める斧に水魔法の適性を高める短剣か、実に惜しい。」


 ニアピンだと思える物がそれなりに手に入るが、それだと言える物が出ない。

あの時の紅色の短剣は本当に運が良かったのだろう。


「我は魔力回復のポーションは絶対に飲みたくない。それを考慮すると探せる時間は限られる。その間に手に入るかどうかだな。」


 既に手に入れた宝箱の数は3桁に迫りそうだ。

本来宝箱は珍しい物であり、こんなに見つかる事は無い。

ジルの心眼による広範囲の知覚能力も大きな理由だが、最高到達階層よりも遥かに下にある階層なので誰の手にも触れられていないのも理由の一つだ。


 相当数手に入れてもピンとくる物は無いので、お目当ての物が簡単に手に入る異世界通販のスキルを頼りたくなるが、あれは値段設定がおかしい。

それに自分で壊したので自分の力で手に入れて用意したいと言う気持ちもあり、ダンジョンでの宝箱探索を続行した。

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