元魔王様とルルネットの可能性 5
サリーに連れられてタイプBが屋敷から出てくる。
「マスター、どうかされましたか?」
掃除中だったのかモップとバケツを両手に持っている。
今ではブリジットの屋敷のメイドの一人として日々のメイド業務に勤しんでいる。
「我と模擬戦をしてほしくてな。」
「マスターとですか?」
「ああ、ルルネットへの戦闘指南と言ったところだ。」
これから先ルルネットが会得していくであろう戦闘技術を使って全力のタイプBと模擬戦を行う。
寂しさを感じる暇無く訓練に励んで強くなれれば、ルルネットの方からいつでも会いにこれる様になるだろう。
その目指す姿の一つを体現する形で見せてやるのだ。
「ルルネット様への指南ですか、畏まりました。『換装!』」
タイプBが装備を入れ替える戦闘機能の合言葉を呟くと手に持っている掃除用具が消える。
メイド業務をしていると掃除用具を頻繁に使う機会があるので装備の一つとして登録しているみたいだ。
「タイプB、普段の我とは戦い方が違うが全力でこい。」
これはルルネットの力を体現して行う戦いだ。
それがブリジット以上の強さを持つタイプBに対してどれだけ通用するのかを見せる意味もある。
ジルとしては力が制限される事になるが全力のタイプBを相手に善戦出来る自信はある。
「全力ですか、宜しいのですか?」
「ああ、幸いここの訓練場は魔法道具で死ぬ危険性も無いからな。」
「いえ、マスターの御命の心配ではありません。マスターと私が戦った場合の周囲の心配をしています。」
Sランククラスの二人が全力で戦えば相当な規模の戦いになる事が予想される。
戦闘の余波で訓練場や近くにある屋敷が滅茶苦茶になる可能性を考慮しているのだ。
「それなら大丈夫よ。訓練場には魔法道具による結界が張られているから周囲への影響は防いでくれるわ。」
「ついでに我も結界を張っておくとするか。」
魔法道具の結界は少し不安なので自分で結界魔法を使って保険を掛けておけば万が一も起きないだろう。
自分の結界魔法は自分でも壊すのに一苦労なのである。
「それでしたら安心しました。早速行いますか?」
「そうしよう。それとこれを渡しておく。」
ジルは腰に下げられていた愛刀の銀月をタイプBに渡す。
「これは、マスターの銀月では?」
「この戦いで我が使う得物はこれだからな。」
そう言ってルルネットから借りた二つの短剣を見せる。
ルルネットの未来の姿の体現なので一応武器は現在の物を使う事にした。
なので銀月は使うつもりは無い。
「タイプBにはセダンの街で刀を作ってやる予定だからな。それを貸してやるから練習がてら戦いに取り入れてみるといい。」
この前のダンジョンでの賞品としてタイプBはジルと同じ武器を所望した。
刀はダナンに打ってもらう予定なので、その前に訓練ついでに刀の試し斬りをさせる事にしたのだ。
「っ!?よ、宜しいのですか?マスターの武器を私が…。」
ジルの言葉を聞いて銀月を持つタイプBの両手がプルプルと震えている。
敬愛する主人の武器を扱える事に感動していると言ったところだ。
「ああ、それを譲る訳にはいかないが参考にはなるだろう?それとも普段の装備だけで戦うか?」
「是非ともお借りしたいです!」
タイプBは銀月を持ちながら嬉しそうに言う。
そして鞘から刀を抜いてうっとりとした表情を浮かべている。
元々感情が無い訳ではなかったが、かなり豊かになってきていると感じられる。
これもメイド業務として多くの人と関わらせてきたからかもしれない。
「ならば早速始めるとしよう。」
「はいはーい、審判は私がやってあげるわ!」
ルルネットが審判役を買って出て訓練場に入る。
「マスター、私は己の存在意義を果たせずにいた半端物です。なのでこの場ではご期待に応えてみせます。」
タイプBはジルの前世である魔王ジークルード・フィーデンに造られ、その造られた目的が創造主を殺す事であった。
しかし魔王の他を圧倒する壮絶な強さを前にその目的が叶う事は無かったので、そのくらいの気持ちで挑むと言っているのだ。
「ああ、死ぬ事は無いから殺すつもりできてみろ。手は抜くなよ?」
「はい、全力で参ります。」
タイプBはジルを前に全力で挑むと宣言して立つ。
マスターであるジルからの命令は全てにおいて優先される。
そしてタイプB自信も、自分の力が転生後のジルにどれだけ通用するのか確かめたい気持ちとなっていた。
「それじゃあいくわよ?始め!」
ルルネットの合図と同時にタイプBが走り出す。
「『換装!』ヘビースタンプ!」
タイプBは取り出した巨大なハンマーを重さを感じさせない軽快な動きで操りながら、いきなりジルの真上に振り下ろしてきた。
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