34章
元魔王様とルルネットの可能性 1
勝者へのご褒美も決まり、シキもパフェを食べて満足した後、広いリビングに全員が集まっていた。
「ジル、話しって何?」
ソファーに座って足をぷらぷらとさせながらルルネットが尋ねてくる。
最近はルルネットもブリジットの屋敷で寝泊まりする事が増えてきた。
直ぐにジル達と行動が出来るからと言う理由らしい。
「二人には伝えておく必要があると思ってな。」
ブリジットとルルネットを招集したのはジルだ。
ギルドでシュミットに伝えられた事を話す為である。
「先程シュミットに聞いたがそろそろ1月が経つらしい。5日後にはセダンの街に帰還する予定だ。」
「え!?」
それ聞いてルルネットが驚いた声を出す。
「そうですか、もうそんなに経つんですね。皆さんと過ごす日々が楽しくてあっという間でした。」
ブリジットも少し驚いた様に言う。
同じ屋敷で生活しているので毎日顔を合わせており、いつの間にかそれが当たり前の様な感じになっていた。
「それを事前に伝えておこうと思ってな。」
「こちらもそれまでにやる事が幾つかありますから助かります。最後まで屋敷で思う存分寛いでいって下さい。」
「そうさせてもらう。」
住み心地が良くてすっかり屋敷に馴染んでしまった。
この貴族の生活から突然平民の生活に戻れるか若干不安ではあるが、残りの期間も満喫させてもらうつもりである。
「シキはやる事ぜ~んぶ終わったので遊び放題なのです!」
「ふふふ、お疲れ様でした。お母様から報酬は貰いましたか?」
「バッチリなのです。たんまりと貰ってきたのです。」
仕事に見合う報酬を受け取れた様でシキは満足そうだ。
ブリジットと契約していた時にやり残していた事も全て片付けられた様なので、安心してトレンフルから離れられる。
「妾も残りは護衛をしつつゆっくりと過ごすとするかのう。」
「だったらトレンフルの街巡りに連れていってあげるのです。」
「それは良いのう。港町を見て回りたいと思っておったのじゃ。」
シキ達が残りの予定を決めている。
ナキナはシキの護衛兼手伝いとして付いて回っていたので、ジル程トレンフルの街を回れていない。
残りの時間であれば満喫出来るだろう。
「ジルさん、エルリアさんの護送の件ですが、向こうのギルドマスターから連絡を貰えました。受け入れの準備はしておくので、セダンの街に帰還次第直ぐにギルドにきてほしいそうです。」
盗賊達に従わされていた奴隷、その中にいたエルフの女性エルリア。
彼女をセダンのギルドマスターであり、エルフでもあるエルロッドの下に帰還するついでに護送する事になっている。
一人で集落に辿り着けないが人族には集落の入り口について教えられないので、他のエルフに頼るしかない。
エルフでありながら人族の世界で長年暮らしてきたエルロッドであれば、同胞をなんとかしてくれるだろう。
「分かった。そのエルリアはどうしてるんだ?」
「あまり人族と関わりたくないらしく、部屋に殆ど閉じこもっていますね。私とはそれなりに接してくれるのですが、使用人では難しそうです。」
奴隷と言う身分から解放して助けてくれたのがブリジットだったので少しは心を許せるのだろう。
それでも無理矢理奴隷に落とされたり、エルフ族が人族から今まで受けてきた仕打ちを考えると、そう簡単に信じられないのは当然だ。
「セダンの街まで2週間、人族嫌いのエルフと旅をするのは不安だな。」
「ジルさんにも心は開いていると思いますよ?」
奴隷達を助けたのはブリジットだけでは無い。
ジルやナキナもその場にいた。
「そうかもしれないが、対応はナキナに任せた方がいいだろうな。異性では嫌な思いをさせるかもしれない。」
「確かにそうですね。」
「お任せじゃ。」
エルリアを奴隷落ちさせた盗賊達は全て男だった。
見目麗しいエルフの女性を狙ったのも、需要を良く理解しているからだろう。
そんな者達と同系統に見られるのはジルとしても遠慮したいところだ。
「確認しておきたい話しはこんなところですか?」
「そうだな。」
「じゃあ話しが終わったみたいだし先に寝るね、おやすみ。」
話しが一段落するとルルネットがそう言って立ち上がる。
「早いですね?いつもの様にお話しはしなくていいのですか?」
食後となれば魔法、スキル、ダンジョンの話しとルルネットが飽きるまで雑談させられるのが定番なのだが珍しく今日はしない様だ。
「うん、眠くなっちゃったから。」
ルルネットはそう言い残して部屋を出る。
「ふふふ、分かりやすいですね。」
「まだ子供だからな、仕方あるまい。」
明らかに元気が無くなったルルネットを見送り、ジルとブリジットが呟く。
「残り数日ですが、ルルネットの事を宜しくお願いしますね。」
「ああ、依頼はトレンフルを経つまでは有効だからな。」
ジルは残りの日数をどうやって過ごすか考えながら紅茶を飲んだ。
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