元魔王様と船上の戦い 7
マググロが船の上に打ち上げられた事により船が大きく揺れる。
今はジルの闇魔法で力が弱まっているが中々の巨体なので少し動かれるだけでも大変だ。
「やったやった!ジル~、釣り上げたわよ!」
ルルネットがマググロを釣り上げた喜びでテンション高めに呼んでくる。
そちらに向かうと目の前にルルネットの何倍もの大きさのマググロが横たわっている。
そのマググロを見ながら年相応の笑顔で喜ぶルルネットと笑顔を浮かべているサリー。
この女性二人で釣り上げたと言っても誰も信じられないかもしれない。
実際にルルネット達の釣竿にマググロが食い付いた時から、遠巻きに周りの船の者達も気付いてはいたが、釣り上げられると思っていた者は少なかっただろう。
だからこそ喜ぶルルネットの声を聞いて驚愕の表情を浮かべている者が多い。
しかしそれよりもルルネットの成果を称える様に遠くから拍手が鳴り響いてくる。
「さすがはルルネット様だ!」
「トレンフルの未来は明るいな!」
「本業の俺らも負けてはいられないぞ!」
トレンフルで暮らす者達なので当然領主の娘であるルルネットの事を知っている者ばかりだ。
まだ子供のルルネットが釣り上げた事により、漁師や冒険者達はより一層気合を入れて釣竿に神経を集中させていく。
「ルルネット様、まだ釣り上げるならこっちにマググロを移しますか?港までお運びしますよ?」
一人の漁師が近付いてきて親切心で声を掛けてきてくれる。
一匹釣っただけで船の大半が埋め尽くされているのでこれ以上釣るには邪魔になると思ったのだろう。
「ありがとう、でも大丈夫よ。収納スキル持ちの冒険者がいるから。」
「そうでしたか、もし他に困った事があったら言って下さいね。」
「その時は頼らせてもらうわね。」
ルルネットはまだ若いが随分と領民にも慕われている様だ。
母や姉の功績も大きいかもしれないが、ルルネットも貴族として領地の為に尽くしてきたのだろう。
「人気者だな。」
「私みたいな可愛い貴族がいたら人気にならない方がおかいしいわよ。」
ルルネットが胸を張って自身満々に答える。
凄い自信ではあるが実際にルルネットは美少女なので、特に否定はしない。
「その通りです。ルルネットお嬢様の様に平民にも気を遣って下さる貴族は少ないですからね。」
サリーの肯定にもうんうんと満足気に頷いている。
「我と初めて会った時は平民だの泥棒だのと好き勝手に言ってくれたがな。」
「あ、あれは突然シキがいなくなっちゃったから盗られたと思って。わ、悪かったって思ってるわよ!」
バツが悪そうにしながらも悪気はある様で素直に謝る。
つい強い言葉を使ってしまったのは姉の契約精霊であるシキと仲が良かったのに離れ離れにされてしまったからだ。
トレンフルで過ごす間にルルネットの性格も分かってきたので、普段からあんな態度で無い事は理解している。
「まあ、許してやるとしよう。」
「ふう。それよりも見てよ!マググロを釣り上げたんだから!」
ルルネットは謝罪を受け入れてもらえて一安心して話しを戻す。
「ああ、見れば分かる。やるじゃないか。」
「でっしょ~!才能があるのかもしれないわね!」
ジルに褒められてルルネットは上機嫌である。
実はマググロが魔法による弱体化を受けていたとは想像も付かないだろう。
ジルもせっかく喜んでいるのだから水を差す様な事は言わないで素直に褒めておく。
「早速収納してもらってもいい?暴れられたら船が壊れちゃうから。」
まだジルの魔法が効いているのでそれ程大きく動かないが、効果が切れた瞬間にかなり暴れるだろう。
「生きたままだと収納は無理だぞ。」
「そうだったわね。サリー、お願い。」
「畏まりました。」
サリーは船の中から大きな刃物を取り出してきてマググロに突き刺す。
トレンフルに住んでいるから魚の扱いには慣れているのか、締めるだけで無く血抜きもしている。
「ジル様、お願い致します。」
大量に船に流れ出た血を水魔法で洗い流しながらサリーが言う。
こう言う時に水魔法を使える者がいると便利だと思いながらジルはマググロを収納した。
これで目的であったマググロを入手する事に成功した。
しかし常にトレンフルの近郊に生息している訳で無く、美味しいと噂のマググロなので大きくても一匹では物足りない。
無限倉庫のスキル内の物は時間経過が無いので食材は新鮮なまま保存しておける為、もう何匹かは確保しておきたい。
「さあ、釣り続行よ!」
ルルネットも同じ意見なのか、再び釣竿を海に垂らしてそう言った。
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