元魔王様と船上の戦い 3
エルフの森に関しては当然ジルも知っている。
魔王時代にはエルフの知り合いもそれなりにいたので話しを聞く機会も多かった。
「エルフが住まう森、集落の入り口は同胞しか知らない。我が知っているのはこれくらいだな。」
「なーんだ、分かってるじゃない。」
「今ジルさんが言った通り、集落の入り口を知るのはエルフのみです。我々ではどこに入り口があるのか分かりません。」
「エルリアに聞けばいいだろう?」
帰りたいのならば本人に場所を聞くしかない。
そうでなければ送り届ける事も出来無い。
「人族には教えられない。」
「この一点張りでして。」
「成る程な。」
エルリアの言葉を聞いて納得した。
これではどれだけ尋ねても教えてくれる訳は無いだろう。
集落の入り口を人族に知られてしまえば、集落に住まう多くの同胞の身を危険に晒してしまう事になる。
「誰にも言わないから教えてってば。」
「信用出来無い。」
「むう。」
「ルルネット、諦めろ。今までに人族がしてきた行いを考えれば当然の事だ。」
エルフ族は男女共に見目麗しい者しかいない。
故に愛玩奴隷として昔から非常に人気が高かった。
なので当然奴隷狩りの被害対象とされていた。
種族間で考えると一番被害が多かったのはエルフ族かもしれない。
そしてそれを行なったのは人族なので、今更人族の事をエルフ族が信じるのは難しいだろう。
「でも私達は助け出して奴隷解放までしたのよ?」
「それには感謝している。それでも入り口は秘密。」
同じ人族とは言え、人族全体が同じ考えを持っていない事はエルリアも理解している。
それでも少しでも危険があるのなら言う事は出来無い。
「ならばエルリアには自力で帰ってもらうしかないんじゃないか?」
「無理。人族の世界の事情には疎い。」
「どうやら集落から出た経験が殆ど無いらしくて。ここが何処なのか、入り口が何処にあるのかも把握していない様なのです。」
エルリアは所謂迷子であった。
入り口のある地名等は把握しているらしいが、その場所への行き方は知らないらしい。
「それでも場所を教えられないのであれば、地図でも渡して自分で行ってもらうしかないだろう?」
「無理。一人で旅してもまた捕まる。」
「偉そうに言うな。」
自信満々に呟いたエルリアに突っ込む。
エルリアの戦闘スタイルはエルフの基準で言えば弓と魔法の後方支援型だ。
遠距離戦では多大な活躍が見込めるが、近距離戦闘に持ち込まれると途端に弱体化してしまう。
一人で集落に向かわせても盗賊や奴隷狩りの良い餌食となってしまうだろう。
「ではどうするのだ?」
「そこでジルさんにお願いがあるのです。エルフのお知り合いにエルリアさんを故郷に帰す手伝いをしてもらえないか掛け合ってほしいのです。」
エルリアを一人で返すのに不安が残るのなら数を増やせばいい。
しかし集落の入り口が知られてしまう事を考えると他種族では駄目である。
同族に付き添ってもらわなければならない。
「エルフの知り合い…エルロッドか?」
「はい。」
ジルの言葉にブリジットが頷く。
知り合いのエルフとなると今世では一人しか思い付かない。
セダンの街の冒険者ギルドのギルドマスターであるエルロッドだ。
「それで我に頼み事と言う訳だな?」
「そうですね、内容としてはセダンに帰る際にエルリアさんの同行、並びにエルロッドさんへの引き渡しとなります。」
「それくらいなら我は構わないがあくまでも雇われだからな。シュミットの了承を得ないと分からないぞ?」
今回はセダンの領主であるトゥーリの依頼による塩の仕入れだ。
それをシュミットが受け、ジルはその護衛として付いてきているので、同行云々は馬車の持ち主であるシュミットが判断する事だ。
「そこで許可取りをお願い出来ませんか?私はサザナギに掛け合ってエルロッドさんへの説明の手紙を出さなければいけませんので。」
まだセダンの街に帰るまでには猶予がある。
今の内に手紙を出せば受け入れ準備をしてくれるだろう。
「仕方無い、この後シュミットのところに行ってくるとしよう。」
「申し訳ありません、お願いしますね。エルリアさんにはジルさん達が出発するまでの間、当家で客人としてもてなしますので。」
「よろしく。」
ブリジットがエルリアを連れて部屋を出ていく。
客人として扱うので部屋の案内にでもいったのだろう。
「と言う訳だ。訓練は無しだな。」
「ざんねーん。暇だから付いていってもいい?」
ここのところ毎日一緒にいる気がするが、仮にも貴族令嬢なのに他にやる事は無いのだろうかと少し疑問に思う。
随分と放任主義な家系だとジルは思った。
「邪魔はするなよ?」
「了解!」
ジルは敬礼したルルネットと共にシュミットの下に向かった。
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