元魔王様と船上の戦い 2

 ジルが朝食を食べ終えるまで大人しく待っていたブリジットとルルネットは、食べ終えた後は逃さないとばかりに両サイドを固めてジルを連行する。


「そんな事をしなくても逃げたりしないぞ?」


「信用出来る訳無いでしょ。」


 ルルネットがジト目を向けてきながら言う。

先程広間に来る様にと言ったのにジルが向かった先は厨房であった。

自分優先人間であるジルを放っておいては、この後また別のところに行ってもおかしくない。


「そんなにお時間は取らせませんからお願いしますね。」


「何か我に用事か?」


「はい、盗賊関係の事で少し。せっかくですから広間に入ってからにしましょう。」


 話しているともう広間の部屋の前まできていた。

扉を開けて中に入ると見慣れない人物がソファーに座って待っていた。

種族特有の長耳と美しい容姿を合わせ持つ女性のエルフである。


「用事とはこのエルフが関係しているのか?」


「そうなります。どうぞ座って下さい。」


 ブリジットにソファーを勧められてエルフの対面に座る。

話し合いに関係があるのか分からないがジルの隣りにはルルネットが座った。


「ジルさんは話すのは初めてだったと思いますが、こちらはエルフのエルリアさんです。」


「宜しく。」


 紹介されたエルリアはジルに向かって短く言葉を呟く。

その目からは疑いや不安と言ったマイナス感情が多く含まれている様に感じる。


「ああ、それで我に用事があるのはエルリアなのか?」


「そう、私の事覚えてない?」


 突然自分を指差して尋ねてくる。

そう言われてもジルにはエルリアに出会った記憶が無い。

前世だとそれなりの数のエルフと知り合ったがおそらくこの質問は魔王では無くジルに対してだろう。


「ん?どこかで会ったか?」


「この方は件の盗賊に捕まっていた奴隷の一人です。」


 ジル達とブリジットが共同で討伐した盗賊団の事である。


「と言うと我が気絶させたエルフの奴隷か?」


「そう。」


 闇魔法による後方支援を得意としており、盗賊団と戦う相手の力を下げて盗賊が有利な状況を作っていた。

厄介な存在だったので戦う時にジルが最初に意識を刈り取って戦線離脱させたのだ。


「思い出されたみたいですね。」


「ああ、奴隷の首輪が外れていると言う事は解放されたんだな?」


「調べた結果違法奴隷でしたので。」


 盗賊団を壊滅させた後、生き残りの盗賊と捕まっていた奴隷は全てトレンフルに運ばれた。

そこで盗賊達は全員犯罪奴隷となり、元々奴隷だった者達は違法奴隷を除いて盗賊達と一緒に信用出来るトレンフルの奴隷商人に預けられた。


 違法奴隷に関しては奴隷狩り等の不当な手段で捕まえられた者達であり、本来奴隷になる理由を持たない被害者である。

その者達に関しては迷惑金として多少お金を持たせて奴隷から解放したらしい。


 故郷に帰る者には馬や護衛を貸し与えたり、トレンフルで働きたいと言う者には仕事を斡旋したりと手厚くフォローしていたので時間が掛かったらしい。

ここまでする貴族は中々いないと思われるので、ブリジットが慕われているのも納得である。


「そうして他の方々に関しては対応済みなのですが、エルリアさんだけがまだでして。」


 ブリジットが困った様にエルリアの方を見て言う。


「何か無理難題でも言われたのか?」


 違法奴隷となった事に関してはブリジット達は関与していない。

それでもエルリアからすれば同じ人族によって起こされた出来事だ。

穴埋めとして莫大な金でも要求されたのかもしれない。


「そんな事は無い。故郷に帰りたいと言っただけ。」


「ふむ、返してやればいいだろう?」


 エルリアの言葉は思ったよりもずっとまともであった。

他の違法奴隷の者達も故郷に帰る選択をした者はいたので、エルリアの願いだけ叶えられないのは謎だ。


「ジル、知らないの?それが無理難題なんじゃない。」


 隣りに座るルルネットが馬鹿にする様な目を向けて言ってきただけで無く、やれやれと呆れ顔で首まで振っている。

これにはさすがにイラッとしたので指先に魔力を集めて手加減しつつルルネットの額に放つ。


「ったぁ~!?」


 突然の額の痛みに思わず声を上げながら涙目で抑えている。

そして痛みの元凶であるジルの事を涙目で睨んでくるが自業自得と言う事で無視する。


「仲が良ろしくて結構ですが、やり過ぎないで下さいね?」


 ここはブリジットの屋敷だ。

二人の喧嘩に巻き込まれて屋敷が壊れるのは当主として困る。

じゃれ合うのは勝手だが加減はしてほしいところだ。


「話しを戻します。ジルさんはエルフの森に付いてどのくらい知っているのでしょうか?」


 エルフの森とはエルリアが言った故郷の事である。

エルフは自然と共に生きる種族であり、森の中に住んでいる事からそう呼ばれているのだ。

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