元魔王様とダンジョンのボス部屋 7

 他者を気にする必要が無ければ、ジルも遠慮無く強力な魔法が放てる。


「これで火力の高い魔法が使えるな。」


「昨日のよりも凄い魔法ってどんだけなのよ。巻き込まないでよ?」


 昨日見た風魔法も凄まじい威力を秘めていた。

それでも一層分の床しか破壊出来ていなかった。

これから使うのはそれを遥かに上回る威力を持つ魔法と言う事だ。


「タイプC、二人の事は任せた。」


「畏まりました。」


 タイプCがジルとの距離を開けて二人を背に庇う様にして立つ。

これで魔法の余波から守ってくれるだろう。

ジルは足元に落ちていた拳大の石を拾い上げると魔装して強度を上げる。


 それを両手で包む様に持ちながら石を持つ手を床に向ける。

するとジルの両手が突然凄まじい電気を帯びる。

帯電している電気が多過ぎて少し離れているルルネット達は目を覆いたくなるくらいの眩しさであった。


「超級雷霆魔法、レールガン!」


 ジルが魔法を発動すると耳を塞ぎたくなる程の轟音が辺りに鳴り響く。

両手で包んでいた石は無くなっており、両手の向けられていた床には大穴が空いている。


 魔法の影響で破壊されたダンジョンの床や壁の破片が飛び散ったがタイプCが庇ってルルネットとホッコを守ってくれたので怪我人もいない。


「さて、降るとしよう。」


 ジルは大穴を見下ろして満足気に呟く。

放たれた魔法は幾つもの床を穿ち、随分と沢山の穴を空けていた。

転生後に初使用の魔法であったが、威力も使い勝手も悪く無い。


 魔王時代は威力が高過ぎて危険であり、使い所の難しい魔法が多くて、この魔法もその一つであった。

しかし今の人族のジルであれば、弱体化した影響でそう言った魔法も上手く使える筈だ。


「我が先行するぞ。」


「後に続きます。」


 タイプCの返答を聞いてジルが迷い無く穴の中へと飛び込む。

直ぐにジルの姿が見えなくなるが、着地音すら聞こえてこないくらい深い様だ。


「うわ、こわっ!」


 大穴を覗き込んだルルネットが思わず口に出す。

穴の最後が見えず飛び込んだ筈のジルの姿も無い。

一体どれだけ深く貫いたのか想像も出来無い。


「では失礼します。」


「え?わあっ!?」


 突然タイプCに抱えられてルルネットは驚きの声を上げる。

ホッコは既にタイプCの肩に乗っている。


「な、何!?」


「怖いと仰っていましたので、私が代わりに飛びます。」


 タイプCにとってルルネットは保護する対象だ。

ジルが度々任せてくれたのでルルネットの事は責任を持って自分が守ると言う心情である。


「えっ!?そ、それはそれで怖いんだけど。」


「目を瞑っていれば直ぐですよ。それではいきます。」


「ちょ、ちょっと待って心の準備があああああ!?」


 ルルネットの静止する声を聞かずにタイプCは大穴に向けて飛び込んだ。

どこまでも続く穴を見てルルネットは恐怖で悲鳴を上げずにはいられない。


 ルルネットにとっては体感で数分くらいに感じられたかもしれない。

それくらい長く怖い落下であった。

穴底には最初に飛び込んだジルが待っており、重力魔法によって優しく受け止めてくれる。


「お待たせ致しました。」


「い、生きてる…。死ぬかと思った…。」


 タイプCに降ろされたルルネットは床に四つん這いになりながら地面がある有り難さに感謝していた。


「怖かったのは理解したが油断していると危険だぞ?」


「ここは28階層ですからね。」


「28!?」


 ルルネットは怖かった思いが吹き飛ぶ程の衝撃的な言葉に思わず声を上げる。

それが事実だとするとダンジョンの最高到達階層が18階層だったので大幅に更新している事になる。


「数えてくれていたか、さすがはタイプCだな。」


「お褒めに預かり光栄です。」


 ジルに褒められて嬉しそうな表情を浮かべるタイプC。

ルルネットを抱えて飛び降りながら穴の空いた床の数を数えていた。

そして強固なダンジョンの床をそれだけぶち抜くジルの魔法も規格外である。


「ちょ、ちょっと何を呑気にしてるのよ!それが本当ならここにはヤバい魔物が沢山いるって事になるじゃない!」


 16階層の時点でルルネットには荷の重い魔物が出てきていたのに、10階層以上も深く潜ったとなればルルネットが手も足も出ない魔物が徘徊していても不思議は無い。


 そんな危険な場所と理解すると、警戒もせずに目の前で普段と変わらないやり取りをしている二人は頭がおかしいのではないかと思ってしまった。


「そうなるな、ちなみにそれを見てみろ。」


「えっ?」


 ジルが気付いていない様子のルルネットの後方を指差す。

それに続いて振り返ったルルネットには、ボス部屋で倒した高ランクの魔物であるゴブリンキングと同等サイズの魔石が転がっているのが目に入る。


「魔石?」


「降りた時にミノタウロスがいたから倒しておいた。」


「み、ミノタウロス!?」


 ミノタウロスとは牛の頭を持つ巨躯の人型の魔物である。

とにかく力が強く近接戦闘においては非常に厄介な化け物だ。

ランクもAと高く、ダンジョンの深層等でしか見掛ける事の無い珍しい魔物である。


「さすがはマスターです。」


「クォン。」


 タイプCの賛辞に同意する様にホッコが頷く。

Aランクの魔物と言ってもジルが苦戦するとは微塵も思っていない。

ジルからは疲れも息切れも感じられず、文字通り片手間で倒した相手だったのだろう。


「さて、この後についてだが。」


「勿論帰るわよね?」


 ルルネットがグイッと顔を近付けてきて言う。

なんとなくだが目力と圧を感じる。

さすがの戦闘狂であってもミノタウロスの様な化け物が徘徊する場所にいては命が幾つあっても足りないので早々に引き返したいのだろう。


「まあ、帰りも天井をぶち抜いて帰れば早いだろうし、もう少しだけ探索といこうじゃないか。」


 そう言ってジルに肩をポンっと叩かれたルルネットは思わず膝を付いた。

それが死刑宣告の様にルルネットには感じられたのであった。

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