元魔王様とダンジョンのボス部屋 4
ゴブリンニンジャの表情に変化は無いが、忍術のスキルも無限に使用出来る訳では無い。
スキルなのだから当然使う度に魔力を消費する。
更にジルとの高速戦闘では魔装を使用していた。
ゴブリンニンジャがジルと同じペースで戦えている様に見えていたが、ジルとの魔力量の差は大きく違った様で先に魔力が尽きそうになっていた。
「相当魔力は減っているか。あんな戦闘をしていれば当然だな。」
こんなに武器を打ち合える機会は中々無いのでこの戦闘をジルは楽しんでいた。
ゴブリンニンジャの近接戦闘の実力は相当高く、暫く刀のみで打ち合っていたがそろそろ終いの様だ。
「お前がダンジョンの魔物で無ければホッコと同じくテイムも考えたんだがな。」
残念ながらゴブリンニンジャは正真正銘ダンジョンによって召喚された魔物だ。
実際にボス部屋で召喚されたのを見ているのでテイムする事は出来無い。
統率個体による強化を受けているとしてもゴブリンニンジャは即戦力になる実力だ。
手元に置いておければ存分に活躍してくれただろう。
「ゴブ。」
「ほお、まだ勝つ事を諦めていないか。いいだろう。」
ゴブリンニンジャが胸の前でお決まりのポーズをしているのでジルも銀月を構える。
本体から左右に二体ずつ分身体が生み出された。
先程まで戦闘中の分身体はずっと一体ずつだったのだが、今は本体を含めて五体もいる。
魔力消費量を無視した最後の全力の攻撃だろう。
「「「「「ゴブ!」」」」」
全員が一糸乱れぬ動きで刀を構えてジルに向かってくる。
魔装された五つの刀がジルに振り下ろされる。
「フレイムエンチャント!」
ジルは銀月を火魔法で強化して熱を帯びさせる。
火の粉が刀身から振り撒かれて、透明感のある銀色から赤みがかった色へと変わる。
「ふっ!」
振り下ろされる五つの刀目掛けて横薙ぎに銀月を振るう。
魔装して防御力も上がっていた様だがジルの攻撃には耐えられず、本体の刀は焼き折れて四つの刀は霧散した。
しかしそれだけでは終わらない。
ゴブリンニンジャはその場から素早く散開して、ジルを取り囲む様に位置取った。
「「「「「ゴブ!」」」」」
全員がお決まりのポーズをして、それぞれ口元から巨大な火球、水球、土球、風球、雷球を放ってきた。
「ほんとに多彩な技を使ってくる。」
五つの凶悪な威力を秘めた球を前にしても慌てる事は無い。
直後五つの球がジルに着弾して眩い光と爆音が辺りを包む。
ゴブリンニンジャは油断無く爆煙の中のジルを見据えている。
「「「「「ゴブ…。」」」」」
爆煙が晴れて現れたのは当然の様に無傷のジルだった。
周りに結界が張られており、ゴブリンニンジャの必殺の攻撃も防がれていた。
「さすがに凶悪な威力だったな。そのせいで残存魔力も更に少なくなっただろう?」
結界を解除しながらジルが言う。
もう先程の攻撃を使う余裕は無さそうだ。
スキルの連続使用によって魔力切れが近いのだろう。
「そろそろ終わらせてやろう。」
そう言うジルの言葉にゴブリンニンジャ達が油断無く構える。
「楽しませてもらった礼だ。我の凶悪で理不尽な技を披露して戦いを締めるとしよう。」
そう口にしてジルは銀月を鞘に戻す。
刀身を半分くらいしまったところで、銀月の鍔と鞘を魔装する。
「納刀術・斬響!」
銀月が鞘に完全に入っていき鍔と鞘が当たるとチンッと言う心地良い音が辺りに響く。
直後ゴブリンニンジャの本体の体表に無数の切り傷が付けられ、分身体が全て消え失せた。
魔装した鍔と鞘がぶつかって鳴った音にもジルの魔力が加わっており、音の刃となって辺りに響いた為にその様な事が起こった。
だが攻撃力はそれ程無く、致命傷には程遠い。
全身に浅い切り傷が付いたくらいの攻撃であり、ゴブリンニンジャも身構えていた分拍子抜けと言った感じだ。
しかし当然ジルの攻撃がこれで終わる訳も無い。
「鮮血魔法、ブラッドニードル!」
ジルが特殊魔法の一つ、新鮮な血を操る事が出来る鮮血魔法をゴブリンニンジャの切り傷から流れ出た血に使用した。
全身の切り傷から流れ出た血が意思を持った様に動き、長い血の針となってゴブリンニンジャの身体に幾つも突き刺さる。
「ゴ…ブ。」
全身を無数の血の針に刺し貫かれ、おびただしい量の血を撒き散らしながらゴブリンニンジャは倒れた。
そしてドロップアイテムを残して消える。
「さすがのSランククラスでも打つ手は無かったか。魔力が多く残っていれば違ったかもしれないけどな。」
ドロップアイテムを回収して無限倉庫に仕舞う。
まだ氷壁の向こうから戦闘音がするのでルルネット達と合流する為に向かった。
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