元魔王様とダンジョンのボス部屋 3
急接近するジルに向けてゴブリンアーチャーが矢を射ってくるがそれを軽々と躱す。
他のゴブリン種に関しては気にも止めず、ゴブリンニンジャ一直線に突き進む。
ゴブリンニンジャも自分が狙われていると理解したのか、自分に向かってくるジルを迎撃する為に指を二本胸の前で立てている。
「ゴブ。」
ゴブリンニンジャは近付いてくるジル目掛けて、口から猛烈な勢いの火を吐き出した。
しかしそんなスキルは持っていないし、火魔法の適性も持っていない。
なのでこれも忍術によるものだと思われる。
「随分と汎用性があるスキルだ、な!」
ジルは魔装した銀月で火を斬り払って更に迫る。
すると他のゴブリン種もジルを攻撃しようとしてくる。
「クイックボム!」
「ギャギャ!?」
他のゴブリン種達を爆煙が覆う。
ルルネットがジルに向かわせない様に魔法で足止めをしてくれた。
「クォオオ!」
その後にホッコが大きく吠えるとジルとゴブリンニンジャ、そして他のゴブリン種との間に高く暑い氷の壁が迫り上がった。
お互いの戦いが邪魔されない様に分断してくれた。
「マスター、こちらはお任せください。」
タイプCが連動外装による巨大な二つの手でゴブリンファイタやゴブリンジェネラルを殴打しながら言ってくる。
「頼んだぞ、我も片付けたら加勢する。」
ジルはゴブリンニンジャから視線を外さずに言う。
タイプCがいれば最悪の事態になる事も無いだろう。
万が一の対応に備えて連動外装の両足まで出している。
巨大な四肢を全て操る状態のタイプCの戦闘能力は非常に高く、近接戦闘型のタイプBともそれなりに戦えるくらいだ。
「ゴブ。」
ゴブリンニンジャが背負っていた刀を抜く。
スキルによって生み出した火がジルに通用しなかったので、近接戦闘に移行した様だ。
「ルルネットに経験を積ませる意味では外れだったが、我が楽しめると考えれば当たりかもしれないな。」
ジルを目の前にしても怯えず油断無く構えながら戦闘の意思が充分にあるゴブリンニンジャを見て、ニヤリと笑みを浮かべる。
相手との力量差が分かる魔物であれば、ジルの実力に気付いて立ち向かわない判断をする魔物も多い。
だがゴブリンニンジャは強者と分かっていながら立ち向かってきている様だ。
「せっかくの珍しい強い魔物との戦闘だ、楽しませてみろ。」
「ゴブッ!」
ジルとゴブリンニンジャが刀を激しくぶつかり合わせる。
さすがは高ランクの魔物、近接戦闘もかなり出来る様でジルとの高速の打ち合いにも難無く付き合えている。
常人であれば何が起きているのかも分からないくらいの高速戦闘が既に10分近く続いている程だ。
正直に言えばゴブリンニンジャはジルの想像以上に強かった。
統率個体がいるので強化されての強さではあるが、その強さはSランクとはっきり断言出来る。
一太刀の攻撃が凄まじいとまではいかないが、それなりに威力のある攻撃が尋常では無い速さで繰り出されてくるのが厄介である。
手加減して戦えば普通に攻撃を受けてしまう程に強い。
「速さもだが数も面倒だ、な!」
ゴブリンニンジャと刀で斬り結びながら後ろから迫ってきたゴブリンニンジャを蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたゴブリンニンジャは霞の様に消えていく。
ジルとの戦闘をこなしながらゴブリンニンジャは何度もこう言った奇襲を仕掛けてきていた。
忍術のスキルによるものだと思われるが、度々分身体を生み出しては本体との連携攻撃に使ってくるのだ。
これにより速さに加えて手数まで増えて益々厄介であった。
そんな状況でもジルが全ての攻撃に対応出来ているのは心眼のスキルを常に使っているからだ。
これにより視界外も含めた周囲の情報が全て入ってくるので、奇襲もジルには見えており相手の攻撃速度にさえ対応出来れば全て防げる。
「ゴブ。」
ゴブリンニンジャが再び胸の前で指を二本立てた。
どうやら忍術のスキルを使う時にしなければならないポーズの様だ。
「使われる前に斬る!」
ジルはゴブリンニンジャとの距離を一気に詰めて、魔装した銀月を振い斬り裂いた。
しかし地面に落ちたのは亡骸では無く、真っ二つになった丸太だった。
「どこから取り出してるんだか、な!」
「ゴブ!」
心眼のスキルによって斜め後方から突然現れたゴブリンニンジャが見える。
ジルに刀を振り下ろしてきているので、振り向きざまに銀月で受けつつ身体ごと弾き飛ばす。
「ゴブ…。」
「お?」
弾き飛ばされたゴブリンニンジャが地面に着地すると、バランスを崩して片膝を付いた。
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