元魔王様と解呪の秘薬 2

 その後難無く11階層を突破して12階層へと降り立つ。

少し敵が強くなってきた様に感じられ、ルルネットでも簡単に倒せない魔物が増えてきた。


「っ!?」


 巨大な虫の魔物の鎌によってルルネットの頰が浅く斬り裂かれる。

魔装により俊敏性も上がっているが、それを上回る動きの速い魔物も徐々に増えてきた。


「ルルネット、ギリギリまでは手を出さんが接近戦は今まで以上に注意しろ。相手の間合いを把握して立ち回れ。」


 ジルが後ろでアドバイスをしながら戦闘を見守る。

いつでも手助けに入れる様に構えてはいるので、万が一にも大怪我を負わせる様な事にはならない。

アドバイス通りにルルネットは、あまり攻め過ぎず魔物の間合いに入らない様に上手く立ち回っている。


 先程以降鎌による攻撃も当たっていない。

ここで無詠唱からのクイックボムが放たれる。

魔物の顔を爆煙が包み込み視界を奪う。


「キィ!?」


 突然視界が奪われて魔物が困惑している。

その隙をルルネットは見逃さず、フレイムエンチャントで攻撃力を高めた二つの短剣で魔物を斬り付けた。


「ギィイ!?」


 魔物は堪らず断末魔を上げて倒れる。

ルルネットの攻撃によって焼き切られた様な二つの斬り傷が魔物の身体に刻まれている。

これは致命者と言っていい攻撃である。


「ふぅ、まだ何とかなるわね。」


「…ギィ!」


「えっ?」


 焼き斬って倒した筈の魔物の声が聞こえてきたが、油断していたルルネットは反応が遅れた。

魔物が瀕死の身体で鎌を大きく振りかぶっているのが目に映る。


 一矢報いると言わんばかりに魔物の目はルルネットに狙いを定めている。

自分に向けて振り下ろされる鎌を見てルルネットは死を覚悟する。


 しかしその鎌がルルネットに届く事は無く、魔物の身体は一瞬でバラバラに斬り裂かれてドロップアイテムへと変わった。

そして目の前にはいつの間にか移動して来たジルが立っていた。


「我が弟子ながら詰めがあまいな。油断大敵と言うやつだ。」


 圧倒的な強さを持つジルの頼もしい背中を見て、ルルネットは安心感から尻餅を付いている。

瞬殺した魔物からドロップした素材を収納してルルネットに手を貸す。


「あ、ありがとう。」


 直前まで死を感じていたからか少し手が震えている。

普段は頼れる姉や騎士団が危険から守ってくれていたので、ここまで明確な死の危険を直接感じたのは初めてであった。


「怖くなったか?」


「そ、そんな訳無いでしょ!少し油断しちゃっただけよ!」


 ジルの言葉をルルネットが否定する。

するとルルネットの額をジルのデコピンが襲う。

魔装している訳では無いが中々強烈な音がダンジョンに響く。


「いったああぁい!?」


 ルルネットが悲鳴を上げながら額を両手で抑えている。

そして訴える様に涙目でジルを睨んでくる。


「その油断が時と場合によっては命を落とす事にもなる。死にたくなければ敵の死はしっかりと確認しろ。」


「ううう、はい…。」


 ジルの言葉は正しいとルルネットも分かっている。

なのでデコピンで痛い思いはしたが反論せず頷いている。


「助けてくれてありがとう。ジルがいなかったら危なかったわ。」


 命を助けられたのは事実なのでルルネットは素直に感謝を述べる。

ジルが助けに入らなければルルネットは生きてはいなかっただろう。


「聞き分けがいいな。まあ、魔物との実戦経験が少ないらしいから、ある程度は大目に見てやる。」


「まだ戦ってもいいの?」


 ルルネットが不安そうに尋ねる。

危ない目にあったので戦闘は禁止されるのではないかと思ったのだ。

失態は自分のミスからなのでそう言われたら大人しく従うつもりである。


「戦闘での危険なんてのは誰もが経験する事だ。そこから学び活かしていけるかが重要となる。その手助けはしてやるから我の指示には従うんだぞ?」


「分かったわ!」


 それからルルネットはジルに言われた事を意識しながら油断せずに戦闘を行っていき、11階層に続いて12階層も突破していった。


 その間ルルネットにとって相性の悪い敵や実力的に不安な敵はジルが倒して手助けをしたがルルネットも充分頑張っていた。


「ジル、まだ離れてるけど人の気配を感じたわ。」


 ルルネットには時々感知のスキルを使わせていた。

魔物との遭遇を調整して連戦にならない様にする為に使ってきたが、ここにきて初めて魔物以外にスキルが反応した。


「ほお、我らと同じ階層にまで潜っている者達がいたか。」


 ジルはダンジョンに潜った時に空間把握の魔法を使っていたので当然知っている。

この者達を抜かしたらタイプCを出す予定だったのだ。

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