元魔王様とダンジョン探索 5
「我はクラーケン討伐に集中したいからな。」
そうジルは言うがそれは建前で実は面倒なだけだ。
そんな集中なんてしなくてもクラーケン程度どうと言う事は無い。
「タイプCがいるじゃない!」
「ここはまだ人目に付く。出すのはダンジョンに入ってからだ。」
タイプCは一旦無限倉庫の中に仕舞っている。
ブリジットの屋敷だから自由に出歩かせていたが見た目は人族のメイドだ。
冒険者ギルドやダンジョンを連れて回っていたら、ルルネットがいるとは言えメイドを連れてダンジョン探索するなんてと余計な面倒事があるかもしれない。
それにタイプCの探索許可証を貰うには実力を示さないといけない。
戦闘能力となると連動外装があるがあれはかなり目立つ。
戦うところはあまり見られたくない。
「それに我の指示には従うんだろ?」
「…。」
ルルネットはその言葉で黙ってオールを握った。
小島を目指してボートが進み出す。
「私女の子なのに、私貴族なのに、私お嬢様なのに。」
ルルネットがぶつぶつと文句を言いながらもボートを漕いでいく。
ジルは平民ではあるがトレンフルにきてから共に過ごす内に強い冒険者、戦闘の講師、お姉様以上に強いと色々知った。
実力主義のルルネットにとってはそれらの事で尊敬出来る人物になっていたりする。
なのであまりにも理不尽な事でなければ逆らうつもりは無い。
「見つけた。餌に反応したか。」
目を閉じて心眼のスキルで海の中の様子を確かめていたジルがクラーケンを補足する。
「えっ?そんな近くに…っている!?私の感知よりも早いってどんな感覚してるのよ!?」
ジルが見つけた少し後にルルネットの感知のスキルにも反応があった様だ。
ジルが心眼のスキルを持っている事は言ってない。
普通に感覚で見つけたと思っているみたいだ。
「と言うか餌ってもしかして…。」
ルルネットはジルが餌を仕掛けているところなんて見ていない。
「このボートだな。乗員している我らを餌と認識しているだろう。」
「ちょっ!?何を落ち着いてるのよ!?すんごいスピードで近付いてきてるわよ!?」
感知のスキルでクラーケンが海中を爆速で移動しているのが分かるのだろう。
餌が自分達と知ってルルネットが慌て始める。
「そう慌てるな。回収しやすい様にわざと近付かせただけだ。」
ジルが片腕を海の中に沈める。
「上級水魔法、アクアランス!」
「うわわっ!?」
ジルの手から水で出来た巨大な槍が放たれる。
それにより海面が大きく揺れてルルネットが慌てている。
槍は心眼で位置を把握しているクラーケンに向かって一直線に進む。
クラーケンも餌として認識したジル達目掛けて一直線に進んでいた。
そこに突然前方から放たれた槍、しかも海の中を進む水で出来た槍はとても見えにくいので、クラーケンは回避出来ず頭に直撃して大穴が空く。
「よし、これでダンジョンに集中出来るな。」
「どう言う事…ってえええ!?」
直後水面に巨大な魔物が浮かんでくる。
頭に巨大な穴を開けて絶命したクラーケンである。
「証拠品として回収して今度渡すか。」
無限倉庫にクラーケンを仕舞うと何事も無かったかの様な海に戻る。
「ギルドが手を焼いていたクラーケンをこんなにあっさり…。って言ってもジルならそれくらい出来て当然よね。」
ジルが規格外な存在なのは既に何度か見ているし話しにも聞いている。
皆が手を焼くクラーケンも大した事無いだろう。
「そう言う事だ。ほら、手が止まっているぞ。」
「もうクラーケンはいなくなったんだから交代してくれてもいいじゃない!」
クラーケンと言う討伐対象がいなくなった事でルルネットが再び抗議する。
「我は今の戦いで疲れたから休憩だ。ダンジョンも控えているしな。」
「何が戦いよ!あんな一方的な蹂躙でジルが疲れる訳無いじゃない嘘吐き!私にずっと船を漕がせるなんて不敬罪よ不敬罪!」
ルルネットがそうやって文句を言いまくるがジルは腕を組んで断固拒否と言った様子でスルーしてくる。
それを見たルルネットは絶対に変わってくれないと悟って諦める事にして、その後も文句を言いながらダンジョンのある小島を目指してボートを漕いだ。
ルルネットが一生懸命にボートを漕いだおかげで砂浜からも見えていた小島に辿り着けた。
小島の砂浜には幾つかの船やボートが置かれており、人もそれなりの数が待機していた。
どうやらダンジョンに探索に来た者達らしく、帰り道にクラーケンが居座っているせいで立ち往生していた。
いずれも浅い階層で探索していた者達でありクラーケンを狩る程の実力が無いので、ダンジョンから実力者が戻ってくるのを待っていたらしい。
なのでジルとルルネットがボートでやってきたのには驚かれた。
領主の娘であるルルネットの事は皆知っている様で、クラーケンを倒した事を告げると直ぐに信じてもらえて、とても感謝して小島を出ていった。
「さて、いよいよダンジョンね!」
小島に到着したルルネットが嬉しそうに呟く。
小島には一つだけ小さな小山があり、そこに洞窟があってそれがダンジョンの入り口となっている。
「これに探索許可証を当てればいいんだな?」
「そうみたいね。」
洞窟入り口に設置されている魔法道具の隣りに看板があり、探索許可証をその上に置けと書いてある。
言われた通りにすると探索許可証に書かれていた番号が魔法道具に読み取られて記録された。
「これでダンジョンから帰らない者達は把握される訳か。」
「準備完了ね!早速ダンジョンよ!」
ジルとルルネットはダンジョンの中に入っていく。
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