元魔王様とダンジョン探索 3

 ジルにとってクラーケン討伐は言わばダンジョンのついでみたいなものだ。


「えええ!ダンジョンに入るの!?」


 それを聞いたルルネットが驚愕しながら大きな声を上げる。


「どうかしたのか?」


「だってダンジョンに入ったら帰りが遅くなるんでしょ?」


「その為にわざわざ戻ってきて報告しているんだろう?どのくらい時間が掛かるかは分からないからな。」


 ダンジョンの探索となると階層次第では攻略に大きな時間が掛かる事になる。

ジルは攻略するかはまだ分からないが一日くらいは潜るつもりでいた。


「私の訓練はどうするのよ!」


 ルルネットは日々時間を見つけてジルから訓練を受けている。

ダンジョンに探索に行ってしまったら訓練してもらえなくなる。


「我がいなくても出来る訓練はあるだろう?それにそんなに時間を掛けるつもりも無い。せいぜい一泊するくらいだ。」


 ダンジョンは金稼ぎにもなるが今回はアトラクション感覚だ。

久しぶりに大きく動いて戦ってみようかと言う運動兼暇潰しみたいなものである。


「なら私も連れていきなさい!」


 ダンジョンにいくのなら一緒に付いていくと言った様子で、立ち上がって手を挙げている。


「急に何を言い出すんだルルネット。住んでいる街にダンジョンがあるんだから別にいつでも行けるだろう?」


「行けないから言ってるのよ!お母様もお姉様も心配性で一度も入った事が無いの!ジルばっかりずるいわよ!」


 そう言ってテーブルをバンバン叩いて講義する。

紅茶が溢れるので大人しくしてほしい。

それに完全にジルには関係の無い内容の八つ当たりであった。

だがそれだけダンジョンに潜ってみたいのだろう。


「ダンジョンに潜っていないのは本当なのか?」


「まだルルネットは幼かったですからね。ですがそろそろ許可を出してもいい頃合いかもしれません。ジルさんが一緒であれば安心ですから。」


「いいの?本当?」


 ブリジットの言葉にルルネットが嬉しそうな表情を浮かべている。


「ジルさんがご迷惑で無ければですが。」


 その言葉にルルネットは行きたそうにしながらも不安そうな目でジルを見てくる。

ダンジョンに行きたくてもジルに断られれば諦めるしかない。


「ダンジョン内で我の言う事をしっかり守れるなら考えてやる。」


「絶対守るわ!」


 大きく頷きながら即答する。

それ程ダンジョンにいきたいのだろう。


「それなら我は構わないぞ。」


 ルルネットはそれなりに戦闘は出来るし、訓練で成長もしてきている。

そろそろ実戦をさせるのも良い機会かもしれない。


「それは良かったです。ジルさんがいればどんな強敵が出ても問題無いでしょう。ですがダンジョンに泊まる事を考えると最終的な決定権はお母様に委ねる事になります。お母様が頷かなければ諦めなさい。」


「直ぐに許可を貰ってくるわ!」


 そう言ってルルネットは屋敷を飛び出した。

トレンフルの領主にして母親であるミュリットの屋敷に向かったのだろう。

魔装で足を強化して爆速で走っていったので、専属メイドのサリーが後を追うが距離は開く一方の様だ。


「貴族令嬢としての仕草や気品の方も身に付けさせないといけませんね。」


 ワンピース姿で走り去るルルネットを見たブリジットが、なんとも言えない表情で額に手を当てて呟いた。

10分程待っていると門の方から走って戻ってくるルルネットが見えた。


「許可を貰ってきたわ!」


満面の笑みでご機嫌であり、聞かなくても結果は分かる。


「どうでしたか?」

「バッチリよ!これが証拠よ!」


 テーブルに一枚の手紙を差し出てくる。


「お母様が書いたものですね。ジルさんに対してご迷惑を掛けますがルルネットをお願いしますと書かれています。」


「任せておけ。」


 更に手紙の他にルルネット用のダンジョンの探索許可証も同封されていた。

いつか渡す為にあらかじめ作っていたのだろう。


「ルルネット、ダンジョンは危険なのですからくれぐれも気を付けて下さいね。」


「分かっているわ!」


 初のダンジョンが楽しみで仕方無い様子で、ブリジットの忠告も聞こえているのか怪しいものだ。


「はぁ、私もご一緒したかったです。」


「何か用事でもあるのか?」


「騎士団や奴隷商人と会う約束があるのです。先日の盗賊の件についてですね。」


 ブリジットは休暇中なので他の騎士団が色々と動いてくれていたが、重要な部分はブリジットの意見が必要となってくる。


「それじゃあお姉様の分まで楽しまなくちゃね!」


「ふむ、ブリジットは付いてくるとばかり思っていたんだが。それならもう一人くらいルルネットの護衛用として連れていくか。」


 安全の為にも護衛は複数必要だ。

ブリジットに任せようと思っていたが用事なら仕方無い。

ジルの視線はメイドゴーレム達に向く。


「「お任せ下さい!」」


 二人が同時に素早く反応して手を挙げている。

マスターであるジルと出かけられるなら是非付いていきたいのだ。


「いや、どちらか一方でいい。片方はメイド修行でもして時間を潰してくれ。」


「「私が行きます!」」


 またもや二人同時に言う。

そして向かい合って睨み合いが始まる。

こう言う息ぴったりなところを見ていると逆に仲が良いとさえ感じられる。

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