元魔王様と絶品魚料理 4

「ならばいい。つまりトレンフルには生で食べる文化が無いから受け入れられていないと言う事か。」


「そう言う事だな。一度食べてもらえればこの美味さを理解してもらえるんだがな。」


 確かに刺身と寿司はどちらも非常に美味かった。

食べてさえもらえれば、その美味しさで多くの者がまた食べたいと思ってくれるだろう。


「そう言えば料金を聞いていなかったな。」


「そうだったな。食べてくれそうだったから出す事しか考えて無かった。刺身は銀貨3枚、寿司は銀貨5枚だけど払えるか?」


「問題無いぞ。」


 それなりに高いが食べた満足感からもっと出しても構わないと感じられるくらいだ。

ジルは銀貨8枚を取り出して渡すと店主は初めて売れた事に感動してお金を嬉しそうに受け取っている。


「寿司は米の分少し高くなっちまうんだけど、この美味さなら仕方無いと思わないか?」


 穀物の米はこの辺りでは入手が難しいらしく、どうしても高くなってしまうらしい。


「我はもっと高額だと思ったぞ?それくらいに美味かった。」


「嬉しい事を言ってくれるな!」


 ジルの本音に店主は良い笑顔となる。

気に入ったのでセダンの街に帰ってからも食べたいと思い、異世界通販のスキルで寿司や刺身について調べてみる。


「っ!?」


「ん?どうかしたか?」


「いや、なんでも無い。」


 突然何も無い空間を見ながら驚いたジルに店主が不思議そうな表情をしている。

異世界通販のスキルは使用出来る者にしか見えないので店主は画面が見えていない。


 実際にはジルの目の前でスキルが起動されており、様々な異世界の寿司の値段が写されている。

驚いたのは値段である。

差はあるが安くても先程の5倍くらいの値段であり、高いのだと30倍以上の物もある。


 ジルはまさかこんなに高いとは思わなかった。

また食べたいと思ったがこんな値段で食べ続けていたら所持金は直ぐに消えてしまう。


「店主よ、寿司の追加注文は可能か?」


「おおお!そんなに気に入ってくれたのか!」


 ジルの言葉に店主は嬉しそうな表情で言う。

異世界通販のスキルが高いのであれば、ここで買っておけばいい。


「ああ、後でまた食べれる様に持ち帰らせてもらいたい。」


「成る程な、どれくらい欲しいんだ?ちなみにさっきので一人前だぞ。」


 一人前だと美味しいと感じたが量で言うと物足りない。

ジルはそれなりに食べる方なので多く注文しておいても直ぐに無くなってしまうだろう。


「ふむ、では五百人前くらいもらおうか。」


 ジルは片方の手の指を全部立てながら言う。


「へ?五百人前?」


「ああ、五百人前だ。」


「っておいおい、冗談言うなよ!五百人前って言ったら、250万Gだぞ?」


 寿司は一人前で銀貨5枚の5000Gだ。

それを五百人分と言う事は250万Gもの大金となる。


「ああ、これでいいだろう?」


 ジルは料金ぴったりの金貨25枚を差し出す。


「ぴ、ぴったりだ。て言うか本気の注文なのか!?」


「当然だろう。」


「さっき言っただろう?生物だから日持ちしないんだぞ?そんなに作っても食べ終わる前に腐っちまう。」


 大人数で食べるとしても多過ぎる量だ。

腐らせると分かっているのに作りたいと思う料理人はいないだろう。


「それについては心配いらない。我は収納スキルを持っていて、中に入れれば時間経過も無い。」


 ジルの無限倉庫のスキルは無制限に物を入れられて時間経過も無い。

食べ物を入れておけばいつでも出来立てで取り出す事が出来るのである。


「そ、そんなスキルを持っているとは。つまり本気なんだな?」


 店主は最終確認する様に問い掛けて、それにジルは頷く。


「はぁ~、まさか初めて売れた日にこんなに注文を貰うとは思わなかったぞ。だがそれだけ気に入ってくれたのも嬉しいからな、当然作ってやる…って言いたいところなんだがな~。」


 店主は溜め息を吐いて歯切れの悪い返答をする。

直ぐに作れない理由が何かありそうだ。


「問題でもあるのか?」


「売れ行きの悪い店にそんなに在庫があると思うか?」


 店主の言葉にジルは成る程と納得する。

売れない日ばかりなのに日持ちしない生物を沢山仕入れる訳にはいかない。

最低限の仕入れしかしていないのだろう。


「せいぜい作れても10人前くらいだな。」


「魚の補充をすればいいんじゃないか?」


 無いのであれば買いにいけば済む話しだ。

港町なので魚には困っていなさそうである。


「駄目だな。いつも朝一で水揚げされた新鮮な魚を状態を保って新鮮なまま使ってるんだ。今買いに行っても新鮮な魚は少ないだろうし、欲しい魚も買えないだろうよ。」


 店主は首を振って残念そうに言う。

自分の作った刺身や寿司を美味しそうに食べてくれた ジルの頼みは聞いてやりたい。

しかし食材が無いのではどうしようも出来無い。


「それなら我が新鮮な魚を確保してきてやろう。」


「え?」


 店主はジルの予想外の言葉に呆気に取られていた。

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