元魔王様と絶品魚料理 3

 午後は残った魔力を使っての魔装の訓練をするのだが、既に足に魔装を使えるルルネットに教える事は特に無い。

なので訓練を言い付けてジルはトレンフルの街に繰り出してきた。


「せっかく来たのに訓練付けって言うのもな。」


 今日まで屋敷でゴロゴロとしてるかルルネットの訓練しかしていない。

せっかく遠出してきたのでトレンフルの街も楽しみたい。


「先ずは腹ごなしといくか。」


 もう直ぐ昼時なので食事処を探す。

屋敷では豪華な昼食を食べられるがトレンフルに来てからはそう言う食事ばかりだ。

たまには平民らしく食べ歩きや変わった食べ物が食べてみたい。


「そこの兄ちゃん、寄ってかないかい?」


 街で食事処を探していると一人の男が声を掛けてきた。

背後には店があるので客引きだろう。


「美味い飯を食わせてくれるのか?」


「任せときなって。」


 男が自信満々に言うのでこの店に決める。

子綺麗な店の中に入ると海に関する小物で装飾されており、トレンフル特有の雰囲気が味わえる内装となっていた。


「見掛けない顔だけど他の街から来たのかい?」


「ああ、セダンの街からだ。」


「セダンってなると海産物は珍しいだろう?特に食べたい物が決まってないなら俺のお勧めを食べて見ないかい?」


 海に面していないセダンの街では魚を食べる機会は滅多に無い。

食べるとしても川魚が殆どである。


「ふむ、ではお勧めを貰おう。」


「あいよ!座って待っててくれ!」


 店の主人は機嫌良く調理を開始する。

客の座るカウンター席の前で調理するスタイルの様だ。

主人は複数の魚を取り出して綺麗に捌いていき、あっという間に皿に盛り付けてジルへと差し出す。


「お待ち、刺身の盛り合わせだ!」


「ほお、初めて見るが綺麗な食べ物だな。」


 出された皿には薄く切られた魚の身が並べられている。

表面がキラキラと光っていて食べ物なのに綺麗だと感じられる。


「味も絶品だから、この醤油って言う異国のタレを少し付けて食べてみてくれ。」


 ジルは言われた通りにフォークで刺身を刺して、醤油に付けてから口に運ぶ。


「美味い!」


 初めて食べたが直ぐに刺身を気に入った。

別の刺身も次々に食べ進めるがどれもかなり美味しい。


「そうだろうそうだろう!」


 店主は美味しそうに食べ進めるジルを見て満足そうに頷いている。

そして続いて何かを作り始めるがジルは食べるのに夢中で気付いていない。


「直ぐに食べ切ってしまった。」


「良い食いっぷりだったな、次はこいつだ!」


 そう言って店主は新たな料理を出してくれる。


「ん?刺身が何かの上に乗っているな。」


「寿司って言う食べ物だ。刺身の下にあるのは米って言う穀物だな。同じ様にして食ってみてくれ。」


 ジルは刺身と同じ様に醤油に付けて食べてみる。


「っ!?」


 もはや言葉にならない程美味しい。

それよりも次の寿司を早く食べたいと感じる。

刺身よりもこちらの方が好みであり、同じ様にあっという間に食べ終わった。


「大満足の料理だ。」


「そうだろうそうだろう。同士に巡り会えて嬉しいぞ。」


 店主は出した料理を美味しそうに直ぐに完食したジルを見て実に満足そうであった。


「それにしてもこんなに美味いのに客は少ないんだな。」


 昼時なので食事処は賑わう時間帯だ。

それなのに今この店はジルだけしかいない。


「はぁ~、そうなんだよ。実は客足に悩んでいるんだ。」


 店主はがっくりと肩を落として言う。


「何故だ?こんなに美味いなら普通は客が押し寄せるだろう?」


 それ程に美味い料理であった。

ブリジットの屋敷で食べる豪華な料理にも負けてはいないと思う。


「馴染みが無いんだよ。」


「馴染み?」


「ああ、俺は一月前くらいにトレンフルに来て店を始めたんだがな、その時から客足はさっぱりだ。理由はこれだと分かってるんだけどな。」


 店主はジルの食べた皿を指差して言う。

どちらもかなり美味しい料理だったので、それが理由で客足が遠のくとはおかしな事だと感じた。


「刺身と寿司か?美味かったぞ?」


「それは俺も知っているさ。この美味しさを多くの人に伝える為にトレンフルに来て店を始めたんだからな。だが生の魚を食べるってのは中々勇気がいるらしいんだ。」


「これは普通の調理法じゃ無いって事か?」


 ジルは転生してから本格的に食の楽しみを見出せた。

まだまだ食文化に疎く、更にセダンでは魚があまり食べられない。

なので魚の普通の食べ方も知らないので偏見無く食べられたが、他の者は生で食べたいとは思わないだろう。


「基本的には焼いたり煮たりして火を通す事が多い。生だと保存は長く持たないし腹を壊す事もあるからな。」


「おい、美味いとは言え我にそんな物を食わせたのか?」


 その説明では先程食べた刺身や寿司で腹を壊す可能性がある事になる。

身体の頑丈さには自信があるがそんな物を好んで食べたいとは思わない。


「安全じゃ無いなら食材にする訳無いだろう?食物鑑定のスキルを持ってるから、安全に食べれる食材かは直ぐに分かる。」


 出した魚の安全はしっかりと確かめている様だ。

スキルを使ってまで調べているのであれば問題は無いだろう。

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