24章

元魔王様と港町トレンフル 1

 盗賊達を倒したジル達は、その後特に問題も無くトレンフルの街に到着した。

海沿いの街なので転生してからは初めての潮風が顔を撫でる。


「ようこそ、トレンフルの街へ。」


 街を治める貴族であるブリジット自らがそう言って歓迎してくれた。

街へ入る門で入場の手続きがあったのだがブリジットがいるので素通りさせてくれた。


 長旅をしてきたので面倒な手続きが無いのはジルとしても有り難い。

街に入るととても活気があり、セダンの街と違って海関係の物が街に溢れているのが新鮮であった。


「久しぶりなのです!」


 シキは嬉しそうに辺りを見回して言う。

ブリジットと契約していた頃はトレンフルに住んでいたので街並みは見慣れたものだろう。


「トレンフルの魚料理は絶品なのです。二人にも食べてほしいのです。」


「それは楽しみだな。」


「うむ、魚を食べる機会は少なかったからのう。」


 シキの言葉を聞いてジルもナキナも今から楽しみが増えた。

食べる事が好きな二人はこの機会にたっぷりと海の幸を満喫するつもりである。


「少し宜しいでしょうか?」


 扉がノックされてから隣りの部屋からメイドが入ってくる。


「どうかしたのか?」


「ブリジット様が盗賊関係の処理を終わらせてくるまで冒険者ギルドで待っていてほしいそうです。」


 盗賊の件はトレンフルのギルドで対処する事になっていた。

当然倒したのだから報告は必要だろう。

その前に大量の盗賊をいつまでも引き連れてはいられないので、先にそちらを片付ける様だ。


「分かった。我もギルドには用があるからな。」


 ミラに頼まれていた手紙をギルドマスターに届ける必要がある。

せっかくジルの為にランクの事について書いてくれたのに、届けなければCランクに上げられてしまうかもしれない。


「それでは冒険者ギルドに向かいます。」


 メイドが一礼して隣りの部屋に戻っていく。

馬車はギルドを目指してトレンフルの街を進む。


「到着したみたいだな。」


 ギルドの前で馬車が止まる。

外観が少し違うがギルドなのは一目瞭然である。


「ジルさん、わいは早速トレンフルで商売の作業があるからここでお別れや。」


 部屋に尋ねてきてシュミットがそう言う。

基本的にトレンフルでは別行動を取り、何かあればシュミットの下を尋ねる事になっている。


「着いたばかりなのに忙しいんだな。」


「滞在出来る期間は決まってるんやから有意義に使わんとな。」


 高笑いしながらシュミットが言う。

商人として時間はなるべく無駄にしたくないのだろう。


「そう言えば滞在期間を聞いていなかったな。」


「聞いとらんかったのはそっちに合わせるからやな。何かトレンフルでやる事があるんやろ?」


 トゥーリの依頼に同行した理由は元々訪れる予定があったからだ。

なので滞在期間はジル達に合わせてくれるらしい。


「そうだな。シキ、どれくらい掛かりそうだ?」


「やってみないと分からないのです。」


「だそうだ。」


 シキはトレンフルでやり残した事がそれなりにあるらしいので、取り掛かってみないとどのくらいの時間が掛かるのか分からないのだ。


「まあ、追々教えてくれたらええわ。それでも最長滞在期間は一ヶ月くらいやな。往復の時間を考えるとトゥーリ様の依頼期間に間に合う様に帰るのにそんくらい必要や。」


 往復で大体一ヶ月と考えるとトゥーリの依頼は二ヶ月以内が期限と言う事になる。

中々時間に余裕を持たせてくれている。


「それだけあれば充分終われると思うのです。」


「なら滞在は一ヶ月としておくか。」


 それだけの時間があればトレンフルの街を満喫出来そうである。

シキお勧めの海産物も満足するまで食べたいし、どうせなら無限倉庫に大量に収納して持って帰りたい。

そうすればいつでも新鮮な海産物が食べられる。


「了解や。一ヶ月もあれば充分商売も出来そうやしな。ほな何かあればトレンフルのシュミット商会に来てや。」


「分かった。」


 シュミット達はジル達をギルドの前に下ろして走っていった。


「それじゃあブリジットがくるまで中で待つか。」


 ジル達はギルドの中に入る。

違う街のギルドではあるが中はあまり変わらない。

昼前で冒険者が少ないのも同じだ。


「酒場で暇潰しでもするです?」


「早速トレンフルの料理を味わうのもいいのう。」


「その前にやる事がある。用事は済ませておきたい。」


 早速ギルドにきたのだから忘れないうちに手紙を渡しておきたい。


「何か御用でしょうか?」


 受付に近付くと受付嬢が話し掛けてくる。

海に近いからか褐色系の女性が多い。


「手紙を預かっている。」


「ギルドマスター宛てですか、少々こちらの部屋でお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」


 手紙を渡すと受付嬢が宛名を確認して応接室に案内してくれた。

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