元魔王様とナキナの従魔 2
「ラ、ラブリートさん、ジルさんを連れていくんですか?」
ラブリートの腕の中で力無く横たわるジルを見てミラが不安そうに尋ねている。
普段と違って連れていっても役に立ちそうには見えないのだろう。
「ええ、数が多いとなるとジルちゃんの強力な火魔法は役に立つわ。」
「…仕方無い、シキ達も来い。…その前にナキナ、酒場から直ぐ食べれる物を買ってきてくれ。」
ジルは魔力が少なくなったが故に空腹になっているのだ。
少しでも回復させる意味でも食べ物の補給は急務である。
「わ、分かったのじゃ!」
「お、お代は払っておきますから急いで下さい!」
ナキナとミラが慌ててギルドの中に入っていく。
ミラは酒場で簡潔に事情を説明し、ナキナは魔装まで使って酒場のカウンターを飛び越えて爆速で厨房に向かった。
肩に乗っていたシキが無限倉庫のスキルを使い幾つかの料理を収納すると、後始末をミラに任せて10秒と掛からずナキナが戻ってくる。
「それじゃあ急いで向かうわよ!」
ラブリートが魔装して門目掛けて爆速で走り出す。
シキとライムを肩に乗せたナキナも同じくその後に続く。
先程馬が爆速で駆け抜けた大通りをそれ以上の速さで鬼人族とオカマが爆走していった。
「この辺りでいいかしら?」
今は空腹と魔力回復の為に串焼きを食べているところなので、無言で頷くとラブリートに地面に降ろされた。
セダンの街から少し離れた場所までやってきたので魔法での移動を見られる心配は無い。
「もう、魔力回復のポーションでも飲めばいいのに。」
「断固拒否する。」
ジルは無限倉庫から新たに取り出した串焼きを食べながら言う。
魔力を回復する手段として最も手っ取り早いのは魔力回復効果のあるポーションを飲む事だ。
それさえ飲めばポーションの効果具合にもよるが魔力を何割か即座に回復する事が出来る。
そんな便利なポーションだが味は非常に不味い。
食の喜びを知ったジルからすると不味いと分かっている物をわざわざ口に入れたいとは思わないので、ポーションを持ってはいるが使う予定は無い。
「我儘なんだから。」
バクバクと食べ物を口に運ぶジルを見てラブリートが言う。
ポーションの不味さはラブリートも知っているので無理に飲ませたりはしないが、目の前で人命が掛かっていて魔力が必要な時は容赦無く飲ませるかもしれない。
「はぁはぁ、速過ぎるのじゃ…。」
少し遅れてナキナがやってくる。
ラブリートに追い付こうと全力疾走してきたのだろう、かなり息が乱れている。
「中々速かったけどもっと鍛えないと駄目よ。」
そんなナキナを見てウインクしながらラブリートが言う。
こちらはナキナよりも速く走っていたのに息一つ切らしていない。
「これからの成長に期待だな。」
「くっ、ジル殿は抱えられていただけじゃろうに。」
ジルの発言に対して悔しそうに反論するがその声は小さい。
実際にジルと競争すれば自分が負ける事は分かりきっているので実力不足は事実なのだ。
「よし、少しは楽になった。さっさと移動するか。」
ジルは立ち上がって先程ブロム山脈に行った時と同じ様に魔法を発動する。
結界で自分達を包み込み、重力魔法で空中を上がって行く。
そのまま進行方向とは逆に向けて風魔法を放つ。
「さすがに速いわね。」
結界が空中を凄まじい速度で移動していく。
景色はどんどん過ぎ去っていくので楽しむ余裕も無い。
「どの辺りだ?」
「もう見えてくるわよ。」
魔法での爆速移動のおかげで十数秒程度で村に到着しそうである。
「魔物がいっぱいなのです!」
進行方向を指差してシキが呟く。
進むに連れてウルフ系の魔物が同じ方向に移動しているのが目に入る。
と言っても移動速度は断然こちらが上であり、次々に遥か頭上を追い抜かしていく。
「あんな数に攻められたら村なんて簡単に落ちてしまうわね。」
常駐している戦力次第にもなるが、眼下に見える魔物の数は百や二百ではすまない。
さすがにあれだけの数を相手にする戦力が一つの村に留まっている事は無いだろう。
「ちっ、温存している余裕は無いか。」
ジルは少しでも数を減らしておこうと上空からファイアアローを放つ。
眼下の魔物達に雨の様に火の矢が降り注いでいく。
突然降り注いだ火の矢に次々と焼き貫かれて魔物達は大混乱である。
初級火魔法とは思えない威力を発揮し、移動しながらの適当な魔法ではあるが魔物達には甚大な被害を与えられた。
「あそこよ!」
ラブリートが指差す方向にジルも村を視認出来た。
村の周りにも数多くの魔物が押し寄せてきており、それを防ぐ為か村全体がコの字型の様々な壁で覆われていた。
魔法を使って火の壁や土の壁を生み出していると思われるが、ずっと継続して出しているのなら魔力消費によりいつ倒れてもおかしくはない。
そして村の空いた一辺には他の場所よりも魔物が集中している。
村を防衛するのに全方向の魔物の相手は厳しいので一箇所に集める為の壁なのだろう。
「降りるぞ。」
急いでいるのもあり、ジルは村の中目掛けて直接降下していった。
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