22章
元魔王様とナキナの従魔 1
荷車に力無く横たわるジルは普段とは全然違って弱々しい。
「…腹が減って力が出せん。食い物をくれ。」
倒れたまま力無く手を伸ばしてジルが呟く。
致命傷を負っている訳でも無いのに死にそうな声と表情だ。
「ナキナ、酒場で何か買ってほしいのです。」
「了解じゃ。」
「ん?」
二人がジルの為に何か酒場で買ってこようとギルドの中に戻ろうとすると、ミラが大通りの門の方に異変を感じる。
「あら?どうしたのかしら?」
ラブリートも同じく異変に気付き、シキやナキナも同じく見ている。
ジルは見る気力する無く横たわっているが同じ異変と思われる音は聞こえている。
馬の走る音が次第に大きくなって近付いてきているのだ。
「凄い速さで向かってくるわね。」
「何かあったんでしょうか?」
馬は大通りを爆速で移動しており、何事かと住民達は道を開けている。
馬は徐々に減速してギルドの前で止まった。
「た、助けてくれ!」
馬に乗っていた男が開口一番に必死な表情でそう叫んだ。
「ど、どうされたんです?」
突然の男の様子に驚きながらもミラが尋ねる。
「村が、村が襲われてるんだ!」
「っ!?村の名前を教えて下さい。」
その一言で危険な状況と判断したミラは即座に必要な位置情報の確認を行う。
「タタン村だ!ウルフの大群が村に攻めてきてるんだ!」
セダン近郊にある村の名前だ。
近郊と言っても馬で半刻以上は掛かる距離である。
「正確な数は分かりますか?」
「分からない、100は超えていると思うが倒しても倒しても減らないんだ!街の男共と居合わせた冒険者が戦ってくれてるが長くはもたない。」
男は悔しそうにそう告げる。
同じ村に住む者達が命懸けで戦っているのに自分だけがこんな場所にいるのが悔しいのだろう。
必要な行為ではあるが自分も残って村の為に戦いたかったのかもしれない。
「早馬で真っ直ぐ向かってきたと言っても少なくとも半刻は過ぎてそうですね。それでも冒険者がいるなら間に合う可能性も…。」
ミラは男から聞いた情報を整理して思案している。
受付嬢は緊急の依頼がきた場合、得られた情報から解決出来そうな冒険者に依頼をする必要がある。
依頼を出す方も冒険者の事を考えると慎重にならなければいけないのだ。
「正確なウルフの数が分からないとなると下手な冒険者は派遣出来ません。」
数秒考えた結果のミラの結論であった。
「そ、そんな…。」
ミラの言葉を聞いて男の表情は絶望に染まる。
「ですからラブリートさん、お願い出来ませんか?」
見捨てる様な発言に聞こえたかもしれないがそんなつもりは無い。
ミラは隣りで状況を聞いていたラブリートに頭を下げてお願いする。
状況が詳しく分からない以上、二次被害を生み出さない為にもギルドの最高戦力を投入する事にしたのだ。
Sランク冒険者は気まぐれな者も多く、依頼を頼んでも受けてくれるかは分からない。
それでもミラには誠心誠意頼む事くらいしか出来無い。
「ミラちゃん、任せてちょうだい。こんな話しを聞いたら放っておけないわ。」
ラブリートは太い親指を立てて了承する。
ジルとの依頼で機嫌が良いのも関係したのか二つ返事で了承してくれた。
「ありがとうございます!」
ミラはその返答を聞いて満面の笑みを浮かべる。
難易度が分からないのでAランク冒険者でも危険な可能性がある。
しかし一つしかランクは変わらないと言ってもラブリートの実力はレベルが違う。
そのラブリートが向かうと言うだけで安心感は計り知れない。
「いいのよ、
「はい、責任持ってお預かりします!」
ラブリートの言葉にミラが元気良く返事をする。
「…私達?」
ジルだけがその言葉に疑問を感じていた。
達と言うくらいなので自分を含めて他にも人がいる事を意味するのは分かる。
そして火力不足と言う言葉から馬できた男の事では無く、戦闘に秀でた者の事を指しているのだろう。
「さあ行くわよジルちゃん。」
ラブリートは荷車で横たわっていたジルをヒョイっと軽々持ち上げて言う。
巨漢のオカマに突然お姫様抱っこをされ、当然ながら全く嬉しく無いシチュエーションである。
「…瀕死の我にまだ働けと言うのか?」
村が大変なのは分かるがジルも空腹で大変なのだ。
「何が瀕死よ、お腹空いてるだけでしょ?それに一刻も早く着きたいのにジルちゃんがいないと時間が掛かるわ。」
後半はミラに聞こえない様に小声でラブリートが言ってくる。
ラブリートならば村まで走って5分もあれば到着出来るが、ジルの魔法を利用すれば1分も掛からないだろう。
その数分の差が多くの命に関わってくるとなれば妥協は出来無い。
ラブリートの中でジルを連れて行くのは決定事項なのであった。
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